第132話 竜騎士の家。きっと凄い豪邸なんだろうなぁ。
「うおっ!! くっさっ!! この街くっさっ!!」
「これは……。ちょっと。ええっ!? くさっ!! 臭すぎでしょ馬鹿かってのっ!!」
ああ、こらこら博士。そんな事言っちゃ失礼ですよ。
でもまぁ。
この匂いは……。街からは鼻を突くような強烈な悪臭。
汚物だったり動物の死骸の匂いだったり。なんか色々とミックスしたような凄まじい匂い。
城塞都市という密封された空間だからという事もあるだろうが。
これは流石に臭すぎるんじゃないか?
「うぉ……。う、うっぷ……」
あらあら、博士が今にも吐きそうだ。しかしまぁ凄い匂いだなぁ。
「うん? そんなに臭いニャンか?」
「これくらい、街なら普通だと思うでゴワスけど」
アニエスさん達はどうやら平気らしい。
そうなると彼女達の国もきっとこういう状況で……。
「あははははっ!! 街に出入りする商人の見習いみたいな事言ってるのですっ!!」
「おのぼりさんですね~」
竜から降り体のラインを隠した服を着るアオイビアンさんが、からかうように絡んできた。
どうやらこの匂いに耐え切るのが都市住民のステータスらしい。
街の人々は既は寝ているのだろ。歩ている人は誰もいない。
その静寂の街で漂う強烈な悪臭だけが強烈な自己主張を続けていた。
いやぁ、本当……。臭いっ!! 臭いねっ!! 表立って言わないけどっ!!
「あの、博士……。これなんとかなりません?」
たまらず博士に助けを求める。だがしかし。
「だ、駄目よっ!! 嗅覚は五感を維持する上で重要な器官だわっ!!」
「下手に弄ったりしない方が……。うぉおおお。くっさ」
博士は機器の嗅覚センサーを切る気が無いらしい。
もう、こういう時頑固なんだから。
しかしこんな悪臭を製造してわざわざ流せるなんてVR機器くん優秀だなぁ。
優秀だけど……。もうちょっとこう、加減ってのをね。
「ふふふ、大丈夫なのです。この匂いもいずれ慣れるのです」
「そして慣れた頃には、立派なシティーボーイになってるのですっ!!」
つまりこれは街の洗礼と言う訳か。
しかし匂うなぁ。
「ねぇ博士。やっぱりちょっと機器を」
「博士?」
「お――い博士」
ん? なんだ急に視界の上部になにか……。
うん? 本体に異常を検知? なんだろう。
ちょっとウィードに。
「あっ」
博士吐いちゃったぁ。
◇ ◇ ◇
「……………………………………………………」
「よし、片付け完了。大丈夫ですよ博士。気にしてませんから」
「ごめん……」
「うん、どうしたですか? 急にぼーっとしてましたけど」
「いやいや、なんでもないんだよ。それじゃあ行こうか」
「ああ、はい。匂いは大丈夫です?」
「ああ、うん。まぁ」
「魔法でぇ」
「魔法でなんとかしたからっ!!」
「魔法で? 匂いを無効にする魔法があるのですぅっ!?」
うんうん。あるある。
ゲロまみれになったズボンは明日しっかり洗っておこう。
博士俺の膝の上で機器使ってたから体がゲロ塗れだや。
でもそのゲロよりこの街の方が匂うけど。
まぁでも流石に。
「ごめん……」
あらあら良いんですよ博士。そう言う訳で機器の臭気センサーを切って出直しだ。
ああ。匂いがなくて快適……。五感維持の為に必要とはいえ流石にアレはねぇ。
ほんと良く皆耐えてるな。あ――臭かった。
「匂いを遮断する魔法なんて凄く便利なのですっ!!」
「それがあれば街にもっと商人もやってくる筈ですようっ!!」
それはつまり、商人はあまり街に入らないと?
皇国にお金があんまり無い訳、少し分かった気がするなぁ。
「はぁはぁ……。と、ともかくもう夜だし……」
「あんたの家、連れて行きなさいよ」
博士がだいぶ消耗してる。結構ゲロゲロ吐いてたししょうがないか。
ここは早めに「寝る」という事にしてお風呂に入りたい。
勿論ウィードの世界で。
「分かりましたですっ!! こっちなのですっ!!」
彼女は鞄から何かを差し出すと、こちらに寄越してた。
これは。
「たいまつ?」
「そうなのです。夜にたいまつ無しで歩くと憲兵に掴まるのです」
ああ、そういう法律とかあるのか。
なるほど、確かに街は真っ暗だ。こんな時に明り無しで出歩く人物なんて。
まぁ、色々問題あるよなぁ。
「じゃあ行きましょうか」
彼女に連れられて街を歩く。街は舗装されておらず、土道だ。
こういうのはなんかこう、レンガ張りの道とかがあると思ったんだけど。
道は適度にぬかるんでおり、移動する度にバシャバシャ音がなる。
あ、野良犬がうんこしてる……。 ちょっと変わった顔つきの犬。
「博士博士。ほら、犬がいますよっ!!」
「うん……」
博士の元気がない。ゲロゲロしちゃった事がショックだったのかな?
まぁまぁ、そう気にしなくて良いですよ博士。
でも博士も女の子。そういうの気にしちゃうんだろう。
ここは放っておいてあげよう。
しかしゲロって元気が無くなるなんて可愛らしいじゃないか。
ふふふ。博士もやっぱりまだまだ小さな女の子で。
「着きましたっ!! ここが我が家、なのですっ!!」
お、どうやら家に付いたようだ。貴族の家。
さてさて、どんなものなのかなぁ。
「ここが我が家、なのですっ!! どうぞどうぞ、お入りくださいなのですっ!!」
えっと。
うん……。
そのぉ。
そこには大きな犬と、ちょっとした空き地と。
あと、なんか木の板を天井しただけの簡易的な寝床が。
8つ。
「ただいま戻りましたお父様お母さまっ!! おじい様おばあ様っ!!」
「あと兄妹達っ!!」
「うん……。うん? あ、おかえりアビーっ!! 任務が終わったのかい?」
「お帰りアビー。疲れただろう。休んでいきなさい」
「あ、お姉ちゃんだっ!! お姉ちゃん、おかえり――っ!!」
「ふわぁ。あ、お姉ちゃんだお姉ちゃんだっ!!」
「お姉ちゃ――ん。お腹空いたよぉ。もう3日も食べてないの。何かご飯ない?」
「お腹空いて眠れなーいっ!! お姉ちゃん。ご飯ご飯っ!!」
「ああ、ごめんねお姉ちゃん任務中で。明日色々買ってきてあげるからっ!!」
「うん、約束だよ――っ!!」
そこには両親と祖父母。あとは彼女の兄弟達なのだろう幼子が3人。
両親と祖父母で4つ。そして幼子3人とアオイビアンさん。それで。
寝床が8つ。つまりこの野ざらしの野営地みたいな場所は。
「ふぅ、そういう訳で着いたのですっ!! ようこそ我が家へ、なのですっ!!」
ああ、彼女に紹介されてしまった。つまりここが……。
「ちょっと何よここっ!! このキャンプ地があんたの家っ!?」
ああ、博士言っちゃった。でもまぁ。そう言いたくなる気持ちも分かるような……。
ここ、明らかに家ってかキャンプだよなぁ。
「えっと、ここは……」
流石に見過ごしておく訳には行かず俺も仕方なしに疑問を投げる。
ここが、住処ですかい?
「ここが我が家なのですっ!! 家は竜を買う為に売ったのですっ!!」
「余ったお金でこの空き地を購入したのですっ!! 今はここが我が家なのですっ!!」
「は、はぁ……。あの」
「こんな場所でも外で寝るよりはずっとマシなのですっ!!」
「番犬だって居るし、住めば都なのですっ!!」
家を売って……。
ああ、だからこんな……。そこまでして?
「アビー、彼はどちら様かな?」
「はいっ!! 彼は街の外の化け物を退治した英雄なのですっ!!」
「彼を城に連れていって陛下にご報告するのですっ!!」
「英雄様? それは凄いっ!! えっと、狭い所ですがゆっくりして言ってくださいな」
「つまり初任務を終えたと言う訳ね。流石アビー、誇らしいわっ!!」
「お姉ちゃん凄いっ!!」
「いやぁ、あははははっ!! それほどでもないのですっ!!」
彼女が頭を掻いて照れている。なんとも。何と言うか……。
「家が……。これ、キャンプじゃない」
うん、うん……。
ともかく。
「こんばんわ。今日一晩お世話になります。いやぁ助かりました」
「は? ちょ、ちょっと」
「もうこんな時間ですしお宿を探すのも大変で……」
「寝る場所を提供して下さり。感謝しようがありません」
「ありがとうございます。どうもどうも」
「いえいえ、こちらこそ。お役に立てたなら嬉しいです」
「狭いところですが、ゆっくりしていってくださいな」
「はい、ありがとうございますどうも」
「ちょ……。こ」
ともかく一晩お世話になるのだ。しっかり礼を尽くすべきだろう。
良い方に考えれば野営しなくても言い訳だし、これはこれで待遇も良いだろう。
「はぁ……。はいはい。そういう奴よねあんたは」
博士は諦めたようだ。まぁ、どっちにしろ俺が寝る場所はウィードだし。
この際、寝床なんて何処でも良いよね。
「ゆっくりして言ってくださいな。英雄様」
「あはは、ありがとうございます」
「わ――。英雄様かっこいいね」
「うん、ハンサムだね英雄様っ!!」
「お姉ちゃんのお婿さんなのー?」
「馬鹿っ!! お姉ちゃんはもっと家格の高い家から婿を貰うんだよっ!!」
「そっか。なら愛人なんだね――」
「そうそう、愛人なんだよ――っ!!」
「ば、馬鹿っ!! 変な事言うんじゃないのですっ!!」
子供達との仲も良く、両親も良さそうな人だ。
色々辛い所はあるけど、それでも希望を持って生きている。
良いじゃない。こういうのもさ。
あ、そうだ。
「あの、一晩のお礼としてこれを」
「ちょっとっ!! はぁ……。言っても無駄か」
俺は袋から買っておいた菓子パンを取り出した。
砂糖が入ってないクロワッサン型のバターロール(8つ入り)だ。
おやつとして食べようと入れて置いたのだ。
「あああっ!! そのパン昼間に食べたすんごい美味しい白パンなのですっ!!」
「パンっ!! パンっ!! パンっ!! このパンすんごい美味しかったのですっ!!」
「パンなのですっ!! パンっ!! え。え」
「このパンくれるのですかっ!?」
彼女と昼間にこのパンを食べたのが、彼女がえらくこのパンの味を気に入って沢山食べていた。
だからあれから仮眠中と称して買い足しておいたのだ。
「パンっ!! パンっ!! パンっ!! 美味しいパンなのですっ!!」
「うぉおおおおおおおおっ!! ご馳走なのですっ!! 白パンだぁ――――っ!!」
「簡単です、料理も作りますよ。少し遅いですが、食事にしましょう」
「宿のお礼です。今日は泊めて下さりありがとうざいます」
「ご飯っ!? ご飯食べられるのっ!?」
「やったぁっ!! 三日ぶりのご飯だぁっ!!」
俺はそれから火を借りて彼女の家の庭でシチューを作った。
固形のシチューを入れてかき混ぜて、芋と玉ねぎを入れて野菜シチューだ。
お肉も入れようと思ったけど。
「肉は止めときなさい。肉は」
っと博士が止めたので、やめる事にした。
「うっまっ!! これうっまっ!! なんかすんごい美味しいシチューだねっ!!」
「美味しいっ!! これちょっと美味しすぎるよっ!!」
子供達が作ったシチューをがつがつと平らげている。
手づかみでお皿とか舐めながら。えっと、スプーンとか無いのかな?
「うぉおおお旨いっ!! 久しぶりにこんな旨い物食べましたわっ!!」
「ありがとうございますニート様っ!! 娘がいずれ出世したらこの御恩は返しますぞぉお――っ!!」
彼女の両親たちも嬉しそうだ。出世したら返す、か。
なんだか色々事情がありそうな家庭だけど、幸せそうだしまぁいっかっ!!
ふふふ、竜騎士の一家の家でお泊り、か。
人の家で外泊なんて初めてだし……。
初めてのお泊り会、十分に楽しむとしようっ!!




