第128話 御恩と奉公。そういう言葉、昔あったよね。
「そ、それでニート様。貴方がこの魔獣を倒した、んです?」
「ああ、はい、いやぁびっくりしましたよ。山の中にこんなのが居るなんて」
「これは……。報告にあったS級賞金首モンスターの……。いや、ちょっと」
「でっかいっ!! ちょっとデカ過ぎですっ!? 報告ではもっと小さいと」
「なんですなんですっ!! なんなんですこれっ!!」
「でっかいですよねぇ。まぁ今は輪切りになってますが」
「輪切りに……。報告では剣の攻撃ではどうしようもないくらい硬いと」
「まぁなんとかなりましたから」
「なんとかなったってどういう事なんですっ!?」
「まぁ、なんとかなったかなぁって」
闇夜の中突如現れた女性。服装は黒のピッチリスーツを着込んで、ちょっぴりエッチ。
髪色はピンクで、身長は140㎝くらいか?
随分小さいな。顔にまだ幼さを残すその容姿から13、4くらいの子。
いや、結構体つきは結構出るとこ出てるし、もっといってるか?
まぁともかくレオタードを着た10代前半の女の子だ。
「なんとかなったってどうなったんですっ!?」
「それはまぁ。戦っ、て?」
「戦うっ!? こんなのと戦ったんですっ!?」
「ええ、なんとか倒せましたよぉ。苦労しましたけども。あはは」
「はぁっ!? どういう事なんですっ!?」
彼女だが、さっきから随分質問攻めされる。
どういう人物なのかは分からないけど、なんかそういう権限とか持ってるのかな。
「ちょっとちょっとあんた」
「うん? うわ妖精ですっ!! 珍しいですっ!!」
「ああ、妖精よ。ともかくあんた、いきなりやってきて名乗りもせず失礼じゃないの」
「あんた誰よ。ウチの「ご主人様」になにか用なの?」
あら博士ご主人様だなんて。結構ロールに忠実だなぁ博士は。
「妖精の主人。ふむぅ。妖精を従えるなんて信用できる相手なのかもです」
「貴方っ!! 名前は何というのですかっ!! 名乗りなさい、ですっ!!」
「ちょっとっ!! 私の話聞いてるのっ!!」
「人に名前を尋ねるならまず自分から名乗りなさいっ!!」
「むむぅ? 確かにそうですね。では名乗りを」
「私はアイルランド皇国の竜騎士。アオイビアンと申す者なのですっ!!」
ア、アイルランド皇国? なんだそりゃアイルランドって……。
あのアイルランド?
「アイルランド皇国? アイルランドって」
博士も同じような事を思ったようだ。アイルランド? アイルランド……。
いや、異世界だし。違う、か?
「そう、アイルランド皇国の騎士なのですっ!! 偉いのですっ!!」
「それで、その騎士が何の用で来たですニャン?」
「うわっ!! また妖精なのですっ!!」
「あ、そっか……。よ。妖精です、ニャン」
「妖精可愛いのですっ!! 妖精が2匹も……」
「あ、もう1匹居るのですっ!!」
「己を匹と表現されると微妙な気持ちになるでゴワスな……」
「妖精がいっぱいでなのですっ!! 可愛いですねぇ」
「ちょっとちょっと、話が逸れてるわよっ!!」
「それで、あんたは何者なのかって話」
「妖精が話をリードしてるのですっ!! まぁ良いのです私は」
「この辺りで起きている住人の失踪事件を調べているのです」
「住人の失踪事件、ですか? それを調べに我が村に?」
「貴方は誰なのです?」
「この村の村長でして」
「ふむ、村長。なら説明するのです」
「実はここ最近、あちこちで村民が村ごと消滅しているのです」
「村民が村ごと。それは逃散という事では?」
逃散とは古い時代で村人が重い年貢に耐えかねてたりで逃げ出す事だ。
ふむ、この付近では村人が消えていたのか。
それってやっぱり……。
「逃散ではないのですっ!! それだったら馬車の跡だったりがある筈なのです」
「ですが……。村に残されていたのは」
「体液を吸われカラカラになった人間の死体だけ、なのです」
「体液って。それってウチの村の家畜が襲われたのと同じ……」
エディンくんが恐る恐る口を開く。
そうだ、血を吸うのはチュパカブラの特徴みたいなもので。
いや、吸うというより絞り出す。というのが正しいか。
体液を吸われカラカラ……。なんとも無惨な話だ。
「そうなのです。犯人はまずは家畜の血を吸ってそれから人間に徐々に獲物を変えていくのです」
「人間に、ですか?」
「そうなのです。それから色々あって。最終的に領主が村に軍隊を派遣して」
「派遣、して……」
「それが全滅する。そんな事件が多発しているのです」
「軍隊が全滅ですかっ!?」
ああ、やはり俺の推測通りだ。チュパカブラは人間をおびき寄せて餌食にしていた。
山のあちこちに道を掘って開通した所の人家を襲っていたんだな。
それから軍隊などをおびき寄せて、あの例の広間で一網打尽にする。
あそこにあった死体は彼らの残骸で……。
「領主の軍が全滅し、各地で多大な被害が出ているのです」
「村の多くが消え諸侯の経済力も落ちて行って……」
「それに痺れを切らした皇王様が各地に捜査の為竜騎士の私達を送ったのですっ!!」
「竜騎士様が……。皇都の中でも指折りの精鋭だという」
「えっへんなのですっ!! なり立てだけど私も竜騎士の端くれ」
「エリートなのですっ!! 試験頑張ったんですっ!! えへんっ!!」
「あら。凄いですねぇ。頑張ったんですね」
「ふふん、もっと褒めるのですっ!!」
「ところで竜騎士ってどんな職業なのですか?」
「なにをっ!? 竜騎士とはワイバーンに乗って戦う為の戦士なんですっ!!」
「知らないなんて、どこに田舎者ですかまったくまったく」
「竜騎士は体重の軽い女性にしかなれないのですっ!!」
「私は小さい頃から竜騎士になる為、過酷なしゅぎょーをしてたんですっ!!」
「ふふん、竜騎士は王国軍の中でもエリート中のエリート」
「凄いんですよっ!!」
へ――。そうなんだ。確かに航空戦力は使えるもんな。
竜騎士。そんなのも居るのか。
流石国の中央だっ!! すっごいファンタジーしてるぞっ!!
「それで、なんですが」
「あ、はい?」
「この状況はどういう事なんです?」
「このでっかいのは、なんなんです?」
「です?」
うん? ああ、そうだな。ここは事のあらましをしっかり伝えないと。
彼女はつまり中央から地方に派遣された捜査官。みたいなものなのだろう。
ならば言って安心させてあげるのが良いだろう。
あそこにいたチュパカブラの数は1000匹弱。他にも同じような巣があるかは分からないが。
少なくとも、この辺りの安全は確保された筈だから。
◇ ◇ ◇
「えっとつまり」
「うんうん」
「貴方がこの化け物共の巣を襲撃し、最後に親玉を倒して終わりにした」
「んです?」
「はい。数が多くてびっくりしましたが、それでもなんとかなりましたよ」
「いやぁ。肝が冷えましたが、なんとか皆無事で良かったです」
「各地の領主の軍隊が手も足も出なかった」
「ギルドに多額の依頼料を払いS級賞金首にしても誰一人倒せなかった敵を」
「たった1人で」
「倒したんです?」
「ええ、大変でしたけどなんとかなりましたよ」
「皆さんが無事で良かったです」
「…………………………」
「ほ、本当なんです竜騎士さんっ!! お、俺目の前で見たんですっ!!」
「せ、先生が化け物共をばったばったと倒していったのをっ!!」
「俺が証人だっ!! 証言したって良いっ!!」
「センセーや皆を助けてくれたんだよっ!! 本当だよ――っ!!」
「先生はゴーレムを使って村の化け物を退治してくださいましたっ!!」
「全てニート先生のおかげですっ!!」
「先生のおかげで、我々の命は助かりましたっ!!」
「ですからどうかっ!!」
「先生には、格別の恩賞をっ!!」
「どうか。お願いしますっ!!」
恩賞? えっとぉ。なんか変な流れになってない?
俺はただ敵を倒しただけで。
「貴方」
「あ、はい」
「名前は?」
「あ、えっとニートです」
「ニート。ふむ分かりましたですニート殿」
「はぁ、えっと?」
「ではニート殿」
「貴方を英雄として、王都までお連れ致しますですっ!!」
「事の精査が済み次第、貴方には王様から恩賞が頂けると思うのですっ!!」
「今回の事、ご苦労様だったのですっ!!」
「私も王都に良い知らせが出来てホクホクなのですっ!!」
「事件解決っ!! しかも解決した英雄を運んで凱旋なんて」
「これは昇級間違いなしなのですっ!!」
「とっても嬉しいので――――すっ!!」
「さぁ、そう言う訳でニート殿っ!!」
「共に、王都に向かうのですっ!!」
「奉公にはしっかり御恩を出さないと、ですよねっ!!」
「それが世の真理なので――すっ!!」
「じゃあ、行きましょうか」
えっとぉ……。
うん?




