第124話 UMA かつてはそんなのが居たんだなぁ。
「逃げろだってっ!! こんなの、魔物じゃないならただのケダモノだろっ!!」
「ちょっと数が多くたって。一匹殺せば奴等だって怯むはずだっ!!」
「よっしゃ行くぞっ!! みんな突撃だぁっ!!」
「はっ!? 馬鹿っ!! 敵う相手じゃないって言ってるでしょっ!!」
「馬鹿、止めなさい馬鹿っ!!」
「止めなさいってば――――っ!!」
逃げろ。しかし血気盛んな若者にその言葉は発破にしかならず。
エディンくん達は目の前のチュパカブラに勇ましく向かっていった。
チュパカブラ。こちらの世界の中南米で出現していたマリスが生み出した小型の怪獣だ。
「嫌がらせ」を主軸に置くマリスによって設計されている為、その生態は陰湿。
主に農業地帯に出没し家畜などの血を吸い、山間部に穴など掘って潜んでいる。
そして徐々に対象を家畜から人間に置き換え被害を与えていく。
そこで本腰を上げて捜索を始めた人間に自分達を襲撃させて。
逆にその人間達を狩ってしまうのだ。
チュパカブラの外皮は戦車砲する弾き飛ばす硬度を持つ。
その外皮の硬さで現地兵士や近隣住民を襲い食らい続けてきた。
かつてUMAと呼ばれた未確認生命体を元に作られた小型怪獣。
それが俺達の目の前に数十体……。いやもっとだっ!!
くそっ!! 特徴がなんとなく似てたけどまさかと思っていたのにっ!!
「食らえケダモノがっ!! 人間様の力を見せてやるぅ――――っ!!」
エディンくんがチュパカブラに近づきそのツルハシの一撃を食らわした。
相手はその一撃を特に避ける事もせず、正面からそれを受け入れてた。
ガツン。という鈍い音と共に攻撃が届く。
届くが。
「硬っ。な、なんだこいつはっ!!」
しかし、届かない。ツルハシの一点攻撃は十分な攻撃力があると思うが。
だが顔面にその一撃が直撃しても傷跡すら付ける事が出来ず。
目の前のチュパカブラは不敵な笑みを浮かべながらその場に立っていた。
「な、こ、このっ!!」
二撃目、とばかりにエディンくんが再びツルハシを振り上げるが。
隙があまりにも大きい。振りかぶるその瞬間を狙って敵は彼の無防備な腹にその4本の爪を……。
「危ないエディンくんっ!!」
「う、うわっ!!」
向ける前に、彼を突き飛ばして代わりに前へと出る。
持っていたツルハシの金属部分を盾にして防御するが。
しかし敵はその鋭利な金属を引き裂き、その爪に十分な殺傷能力がある事を証明してみせた。
「ひっ!!」
エディンくんの取り巻きの3人の若い衆はそれを見て怯む。
敵はにじりにじりと彼らの方へと向かい、その一撃を食らわせんと寄っていた。
「う、うわっぁあああああああああ――――っ!!」
それに怖気づき、3人が来た方向に向けて逃げ出した。
チュパカブラ達はそれを追わない。
恐らく討伐隊を送らせる気だろう。そういう生態なのだ。
弱いから逃げ隠れしているのではない。
「強い」からおびき寄せて殺す。それがチュパカブラの生態だ。
人類に嫌がらせする為だけに創造された存在。
それが奴等なのだ。
「あ、ああああ。せ、先生っ!! ど、どどどど。どうすればっ!!」
残されたエディンくんはその場で腰を抜かし、動揺している。
ようやく現状を正しく理解したらしい。3人は逃げた。
なら彼だけを逃がせば。
「エディンくん、俺の背中に乗ってっ!! 早くっ!!」
その場にしゃがんで彼を己の背に誘導する。
チュパカブラがかつてそのままの生態なら逃げる事は可能な筈。
奴らは巣の中に入り込んだ獲物を極力逃がそうとする。
勿論より多くの人を巣の中におびき寄せる為だ。
ならばこの場から脱する事が出来るかもしれない。
「博士、みんなっ!! 逃げるよっ!!」
「了解っ!! 外に出たらウォーカーを起動なさいっ!!」
「アンノウンランスなら奴等の装甲を切り裂けるわっ!!」
「え、あの。交戦はしないんですニャン?」
「敵う相手じゃないっ!! まず態勢を立て直すわっ!!」
「あ、りょ、了解ですニャンっ!!」
エディンくんを背に乗せ、来た道を戻ろうとする。
しかし。
「道を塞がれたっ!!」
来た道をチュパカブラの集団に塞がれ、戻る事は出来なかった。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら奴等は立ち塞がる。
「遊ぶ」気だな。そういえばもう3人も外に脱出した。
ならば「戻ってこない」存在を演出して救出隊を呼び込む気だ。
これがチュパカブラ。実に陰険な「怪獣」だ。
「あ、あああ……、や、奴等。寄ってきてやがるっ!!」
今居る場所は広い広場のようになっており。
その中央に鎮座するハチの巣状の塊から奴等がどんどんと湧いて出てくる。
嬲り殺しにする気だ。
「ちょ、ちょっとどうするのよっ!! 奴等群がってるくるんだけどっ!!」
「こ、こうなれば魔法で対抗するニャンっ!! 生き物なら火を恐れる筈ニャンっ!!」
「ファイアボールっ!!」
コリーヌちゃんの詠唱と共に火球が一匹のチュパカブラの胴体に当たる。
敵はたちまち炎上し火だるまになるが。
「う、動いてるっ!? ニャンっ!!」
火球を受けたチュパカブラは我関せずとばかりに直進してきた。
「火が効かないでゴワスっ!? そんなっ!!」
火球により炎上したまま、チュパカブラはダメージを受けた様子を感じさせず近寄ってくる。
「ま、まだまだっ!! 連発出来るニャンっ!!」
足りない。っとばかりにコリーヌちゃんが2度3度と火球を繰り出すが。
やはり何の効果も見せず、怯まずそのまま向かってくる。
「な、何なのニャン……。こいつ等」
4度目。を繰り出す事が出来ずコリーヌちゃんは放心していた。
火を恐れない生物など……。そんな常識があるのだろう。
だがしかしチュパカブラは生物ではない。
生物兵器なのだ。
貞子や他テレビから出てくるような存在ではなく、しっかり生物としての体裁が整えられている。
生物として自立し、繁殖して。「殺す事」を目的にその数を増やし続ける。
殺す為に作り出された。だからこそ強靭。だからこそ無慈悲で陰湿。
それがマリス製の生物兵器なのだ。
「他の穴からなら……。逃げられるかっ!?」
来た道は塞がれたが、幸いに中央の広場には他の縦穴が複数存在する。
帰路が塞がれた今。新しい出口を探さなければならない。
たとえそれが「罠」だったのだとしても、立ち止まるよりは良い。
俺は背に彼を乗せたまま、向かってくるチュパカブラを避けて逃げ道を探す。
奴等はそれに慌てる事なく、実に余裕そうな態度でこちらの動きに並行しながら追ってくる。
「遊んでいる」のだろう。そんな事は分かっている。
だが。
「ひ、ひぃいいいいいっ!! 数が多いっ!! 先生っ!! 先生こいつらぁああっ!!」
俺達だけなら「リスポーン」でどうにかなるが、俺の背には彼がいる。
彼はアザドの現地人で現状復活させられる存在じゃない。
だから守らなければいけないのだっ!!
「くそぉおお――っ!! ドワーフさん達と楽しくおしゃべり出来ると思ったのにぃ――っ!!」
目論見が外れた事を嘆きながら、見知らぬ穴の先へ進む。
幸いにも成人男性1人抱えているのに体にこれといった変化はない。
そういえばステータス割り振りで持久力に大きく振っていたような。
もしやそれが効いているのか? 俺はそのまま穴の先へと進もう……。
っとした瞬間、天井から一匹のチュパカブラが降ってきて俺の前に立ち塞がる。
どうやら待ち伏せしていたようだ。
そいつは俺に向かってその鋭い爪を振って一撃を加えようとする。
攻撃が来るっ!! その瞬間にすんでで避けて辛うじて当たらずに済んだ。
もしここでリスポーンなんてしたら彼を置いて行く事になる。
死ぬわけにはいかないっ!! なんとか逃げ出さなければ……。
そう焦るものの、天井から同じくチュパカブラが2匹。3匹と降ってくる。
見れば天井にはその鋭利な爪で壁をよじ登り。
ぶら下がっているチュパカブラが何匹も確認する事が出来た。
完全に囲まれている。
「ひぃっ!! 先生っ!! 囲まれてるっ!! 囲まれてるぅうううっ!!」
エディンくんが後ろで悲鳴を上げている。
俺達とは違い、彼はしっかりと命に危険に晒されている。
だからこそ彼は動けない。
俺にしっかりとしがみつきながらその命を繋ごうとしている。
体が震えているのが分かる。
威勢の良い彼だが数十体の化け物に囲まれては流石にその威勢も維持出来ないだろう。
大声を出して慟哭しないだけ上々というものだろう。
彼をなんとか無事に村に戻さないとっ!!
なにか。なにか打開すべき道は……。
うん? ただっぴろい広間のやや上部に横穴のようなものが……。
下の道とは違うその穴。もしや通気をする為の……。
ともすれ他に行く道はないっ!! 一か八かっ!!
俺は向かうチュカパブラ達の間を抜け、その穴に急ぐ。
「ひぃっ!! ひぃいいっ!! やめろっ!! やめろぉおおっ!!」
道中群がる奴等がこちらに爪を向け、引っ掻き攻撃を繰り出していた。
それをなんとか避けながら上の穴に辿り着き、するりと入っていく。
上の方の穴。
そこもまた長い縦穴になっていた。少々狭いが通れない程ではない。
中腰姿勢になってそのまま向かっていく。
もしこの体がゲームの物でなかったらその姿勢は相当キツイだろう。
その時だけは体がゲームの素体である事を感謝した。
そうして俺達はその先に出口がある事を信じ、向かっていく。
背後には奴等が。
「ニ、ニート様っ!! 後ろから敵が来てるでゴワスっ!!」
「そうだね。きっと大丈夫だから進もうか」
アニエスさん達もだいぶ焦っているようだ。
彼女達の本体はウィードにある為、実質的な死は来ないだろう。
しかし実際に体験した訳ではないから分からないだろう。
ここでそれを体験させる。なんて意地悪い事をするつもりはない。
皆でしっかり村に帰る。
そう、誰も殺させは……。
「出口よっ!! 穴の先っ!!」
「あなの……。あ」
目の前で飛行しながら先行していた博士。
穴の先があったと叫び。それから、静かになった。
何があったのか?
俺もその先に辿り着き、中腰姿勢を解除し立ち上がる。
「あっ」
そして博士と同じように、短い声を出す。
そこは……。
「行き止まりニャンっ!! ううっ!!」
そこは広い空間だった。今気づいたのだが広間の中は相当に明るい。
見ればあちらこちらにロウソクのようなものが置かれている。
それは。
人間のドクロを加工したような燭台に置かれていた。
空間の奥へと進む。そこに何かある。
見れば。
「ひ、人の骨っ!! 10、20じゃすまねぇっ!! 100以上はあるっ!!」
「な、なんでこんなっ!! こんなに死んでるんだよっ!!」
そこには、うずたかく積み重ねられた人間の骨が置かれていた。
骨は綺麗に肉が削ぎ落されており悪臭はしない。
恐らく加工後の骨を置いて行く倉庫か何かなのだろうと推測する。
これだけの人間を殺し保管している……。
そうかっ!!
最初に見た広間に複数個あった縦穴。それは他の村落にもつながっていたんだっ!!
そこからやってきた討伐隊やら軍隊やらを片付けて、ここに保管した。
そしてその穴をダブリン村にもつなげ、奴等は「狩り」を開始した。
弱い相手を狙う陰湿な化け物、それを演出し人を送り込ませ。
狩り殺した後、この場に……。
「ギギィっ!! ギギィっ!!」
「せ、先生っ!! 奴等が、奴等が来たっ!!」
後ろからチュパカブラ達が迫る。大群だ。既に追い詰められている。
「うぉおおおおおおおおっ!!」
一か八か。その思いで一匹のチュパカブラにツルハシで打撃を加えるが。
その硬い皮膚に阻まれ、攻撃は届かなかった。
素早くその場を離れ、態勢を立て直す。
しかし逃げ場はない。ジリジリと後ろへと引き下がる。
奴等が、それに追従する。
群がるチュカパブラは扇状に広がり、ゆっくりと近づいてくる。
こちらを警戒している。なんてことはない。
ただ遊んでいるのだ。奴等は。
「ねぇ……」
博士が声をかける。その声は、落ち着いていた。
「たぶん、もう駄目だわ。もう駄目」
「ここは一旦……」
「一旦、諦めるべきじゃない?」
「また、建て直せば良い。ここの事は」
「見なかった」
「そうすれば心も痛まないわ。元々関係のない連中よ」
「だから……。だからね」
「もう、諦めましょう」
変身。




