番外 とある博士の交渉事。
「これは……」
「あちらで見た物と同じ。どう? これが」
「アザド。異世界の生物よ」
とある研究室の一室。そこに2人の少女が機械から「複製」させた生物を見ていた。
ギガントモウラ。それはアザド。その世界に居た筈の生物だった。
体長およそ3m.の巨大モグラ。それがラボの複製機の中から発生していた。
巨大モグラと2人の少女。1人は三日月春美。そしてもう1人。
「これほどの大きさのモグラ……。地球上に存在しえない」
「生物学的にもモグラがここまでの成長を見せるなんて……。興味深いわ」
少女は復活させたギガントモウラをまじまじと見つめていた。
その様子を見て、もう1人の少女。春美が自慢気に笑った。
「だから言ったでしょう。異世界がある」
「この世界は異世界から持ってきた生物よ。これでバーチャルでないと完全に証明されたわね」
「異世界。私達の世界。ウィーワールドとは異なる世界。アザーワールド」
「マリスもそこからやってきた。奴等は異世界。つまりアザドに逃れ命脈を保ってきた」
「それを証拠にするものは?」
「現在調査中よ」
「英雄様、と?」
問われ、春美は目を逸らす。逸らしながらも、答えた。
「ええ、英雄様と、ね」
「英雄。春美。貴方はどう思う?」
「何が?」
「彼が」
「彼がアンノウン・ゼロだと?」
問われ。春美は答えない。
答えず、続ける。
「ともかく秘密裏に事を進めたいわ。事を公にするつもりはない」
「しようにも到底信じられるような話ではないわよ。異世界からの襲撃。なんて」
「そう。でも協力者は必要。あちらで調査を続けていくうえで」
「だからこそ」
「あんたに協力して欲しいのよ。冬美」
冬美。と呼ばれた白髪の少女。年は春美と同じ。
彼女は複製されたギガントモウラを見ている。その奇妙なモグラ。
異世界から来たと言うそれを。
「興味深い話だわね」
「そうでしょう? 今後もっとサンプルを持ってくるわ、だから私に協力を」
「この生物を証拠として「大人達」を説得し調査隊を送り込む」
「のは、駄目なの?」
春美が眉を潜める。
「それをするつもりはないわ」
「なぜ?」
「それは……」
「やっぱり、貴方も思っているんでしょう?」
「英雄」
「彼こそがアンノウン・ゼロであると」
「……………………」
「かつて宇宙に巣くうマリスをたった1人で滅ぼした」
「究極の英雄」
「異世界に召喚されず、まだこの場に留まるその英雄こそが」
「確証がない事だわ」
「でもそれが、一番可能性が高い」
「アンノウン・ゼロ。人智を超えた究極の人型兵器」
「なぜあれほどの力を持つのか。彼が何者なのか」
「大人達は口を紡いだ。でも私は」
「彼を知りたい。彼を研究して「彼」を実用化出来れば……」
「確証がない」
「確証がない事だわ。あいつは」
「まぁ良いわ」
「協力してあげる」
「……………………」
「ありがとう」
「でもずっと秘密裏にしておくことは出来ないと思うわ」
「いずれ、何らかの形で「異世界」は姿を現す」
「マリス。私達の敵がまだ居るのだとしたらね」
「いつまでも英雄の背に隠れてばかり居られない」
「そう、なんでしょうね」
「120兆」
「なに?」
「アンノウン・ゼロがあの戦闘で倒した敵の総数よ」
「120兆……」
「戦闘時間3分弱。話には聞いていたけどあの数の怪獣をあんなあっさりと」
「宇宙最強の単独戦力。地球付近の銀河の星を太陽以外全て消し飛ばした」
「宇宙を壊す事が出来る究極の生命体。大人が恐れるのも分かるわ」
「そんな存在が20年も行動も起こさず大人しくしてたんだから感嘆ものだわね」
「…………………………」
「彼に興味はある。でも下手に踏み込んで彼との関係に支障が出れば」
「私達は終わる」
「大人達が彼を探さないのも分かる。戦闘の映像を見たわ。あんなの指揮下に置けないもの」
「指揮下に置けない。でも助けは欲しい。そしてアンノウン・ゼロはそれに応える」
「何の見返りもないのにさ。いっそのこと支配でもしてくれたら話は早かったんだけど」
「それを、望んでいなかったんでしょう?」
「英雄、だから」
「そうね。英雄だから……」
場がシンと静まり返る。英雄。
2人とも、その価値と意味を考えていた。
英雄、とは。
「本当に厄介なものだわ」
「英雄ってさ」
「そうね」
「英雄なんて」
「本当に、貧乏くじだわよ……」
◇ ◇ ◇
「で?」
「な・に・を。やってるの? 英雄様」
あ。
「あら博士。じゃなかった春美ちゃん」
「ふふふ。見て分からないかい?」
「水魔法を使って浴場を作ってるんだよっ!!」
「水魔法……? ははぁ……」
「うんうん、それで春美ちゃん」
「協力、得られそうかい?」
目の前の貧乏くじを引いたような男が問う。
春美は。
その言葉に、気だるそうに応えるのだった。




