第120話 アザドとウィード。略して解決世界観っ!!
「ふ――んふ――ん」
「それで?」
「貧民街に赴き、人々を治療して。それで信頼を得て」
「結果「先生」と呼ばれるようになった」
「と?」
「いや、それはどうでも良いんですけどね。ともかくモウラが」
「どうでもよくないっ!!」
「何やってるの、このド阿呆がっ!!」
「あれだけ、あれだけ再生剤を使うなって言ったのにっ!!」
「そうでしたっけ?」
「そうだったでしょっ!! もっと警戒して動くべきだってっ!!」
「でも困ってましたし」
「だからって闇雲に助けてたら大変な事になるでしょうがよっ!!」
「それの何が問題なんです?」
「どうみても問題でしょうがっ!!」
「ちょっと作業が増えるだけですよ」
「それより救う手段があるのに見て見ぬふりするのはどうかと思いますけども」
「世の中何事も限度ってのがあるのよっ!!」
「人を救うのに限度なんてあったら駄目だと思います」
「でももっと慎重に動くべきだったっ!!」
「慎重に動いた結果誰かが死ぬのなら、そんな慎重さは必要ないです」
「こ、このっ!!」
夜、村長の家に部屋を与えられ、俺達は。
まぁ、ちょっと口論をしていた。
再生剤を使ったアレコレ。博士は俺が再生剤をあちこちに使ったのが癪に障ったらしい。
気持ちは。分からない、訳ではないが。しかしあの場で黙っておく事も出来なかった。
救う手段があるのにそのまま放って知らない振りするのは……。
無条件でそれをする事はリスクがある事は承知している。
いるが。
いるが、でも救う手段があるなら行使すべきだ。
それで問題が起きるなら……。
その時は。その時に対処すれば良いのだ。
そう考えると俺は割と直情的なのかもしれない。
博士は。
「ともかくもっと慎重に動くべきなのっ!! 何が先生よっ!!」
「いいっ!? ああいう連中はね、隙を見せればどこまでも要求してくるんだからっ!!」
「だからこそ、ああいう物は見せるべき時まで秘匿しておくべきなのよっ!!」
「切り札は最後まで取っておくものよっ!! それなのにもう、こいつはっ!!」
「どうすんのよっ!! っていうか明日も約束したってどういう事っ!?」
「あのね分かってるっ!? 私達は動物の血を集めないといけないのっ!!」
「その旅なのに……。なのに、こんな所で……」
「こんなところでぐずぐずなんてしてられないでしょうがっ!!」
博士は色々と計画的に動く性格である為。
どうにも俺の衝動的とも取れる行動が気に入らないらしい。
切り札。云々の話は分かるのだが。
だがあそこで提供しないのも違うと思う。
博士の言う事は、分かる。んだけど……。
だがそれはあまりにも情がない行動ではないかと思う。
「あ、あの……。春美殿。そ、それで結果的に私達が解放された訳でゴワスし……」
「ニート様の行動、ゆ、許してあげて欲しい、ニャン」
「駄目っ!! あのね力があるって事は、それを利用されるって事なのっ!!」
「そしてその力は警戒される。それが強ければ強い程にね」
「あんたは」
「それが分かってる奴だと思ったけど……」
「まったく」
「何をやってるんだか……。まったく」
博士の言葉は一理ある。だがしかし。
「強い力を持っているからこそ」
「うん?」
「使う時は使う」
「それも、必要なんだと思いますよ」
「必要だと思ったから使った」
「俺はその行動に後悔も懺悔もするつもりはありませんよ」
「………………………………」
「ふん」
「もういいわ、ったく」
「それで?」
「どういう状況?」
◇ ◇ ◇
「なるほど、ね」
博士に事の次第を説明した。ギガントモウラ襲撃事件。
村の状況。あとはモウラの事。異世界で見つけた可愛らしい家畜さんだ。
「ギガントモウラって言う名前だったのか。あのモグラ」
「あんた達、知ってる?」
「はい。山の集落でよく育てられている家畜でゴワス」
「街にも肉とかがよく卸されてるニャン。毛皮とかも売ってるのを見たニャン」
「へ――――」
「で?」
「貴方達は食べた事あるの?」
「いえ……。モウラは、その」
「庶民の、その、庶民の食べ物ですから。その」
「ああそう。そういえば騎士。貴方達は貴族階級だったものね」
「は、はい……。えっと」
「大丈夫、別に気にしないから。それで博士」
「なによ」
「博士はどう見ます? 襲撃事件」
「襲撃事件、ね」
「あのさぁ、ここで1つ提案なんだけど」
「このまま立ち去ろうって言葉は、聞くつもりはないですよ」
「…………………………」
「あ、そう」
「はぁ……」
「まったく、他人の事情に口挟むと痛い目見るわよ」
「その時はその時に考えましょう」
「はいはい。分かったわよ」
「しかしモウラ襲撃事件ねぇ。モグラを襲う化け物、か」
色々と行き違いもあったが、なんとか博士と話し合い出来そうだ。
博士は……。うーん。年齢にしては達観した見方をする。
犠牲を出しても目標を達成すべき。という意見の向きがある。
確かに全てを救う事は難しいが、しかしそれでも努力すべきで……。
大人になりきれないのは俺。そんな気持ちが浮かんでしまうが。
やはり目の前の人物を見捨てるのは嫌だ。
なんとか、事件を解決できないものだろうか。
「解決策を探そうにも、情報が少なすぎるわ」
「襲撃者の情報。牙が2つで爪が4つ。それだけじゃあ何も分からない」
「まぁ、そうですよねぇ」
そもそもこの世界の動物の事について何も知らない。
ようやく知れて1つなのだ。ギガントモウラ。山間の村落の命綱。
そしてそれを狙う襲撃者……。
「小さな村の小さなサスペンスって訳」
そうだなぁ。全体から見たら小さな事かもしれない。
だけど。
「でも、当事者達から見れば大きい問題ですよ」
大か小か。問題は様々あれど、結局大変な事に変わりない。
俺達が今後この世界で「英雄」として行動していく事になるのなら。
「問題解決をする事で、評判の1つでも得る事が出来る、か」
「確かに我々には今何の身分がないでゴワス。この村の戸籍でも手に入れられれば」
「冒険者として、登録も出来るかも」
「戸籍……。ああ、そっか。そういうのもあるのね」
「冒険者は身分証がないとなれないの?」
「根無し草にほいほいライセンスを与えて問題になったらギルドの責任ニャンし」
「だから戸籍からの本人確認くらいはしているでゴワス」
「戸籍。機能しているの?」
「う――――ん。どうでゴワスかねぇ。抜け道も多いでゴワスし」
「それでも身分を得られるのは大きいと思うですニャン」
「何も無いと流民という事で処罰されるかもしれないでゴワスし」
「難民問題もあるのか……。ああ、なるほどね」
「つまり事件解決でこの村の戸籍の1つでも保障して貰えば」
「今後の活動の助けになる」
「つまり」
「手助けする事は利益。そういう事?」
あら。
「はい。村長には村人の戸籍保障の権利があるでゴワスし」
「この世界で身分を得る上でも」
「手助けする事は、大きい意味を持つと思う。でゴワス」
おお。
「はぁ……、そう、なら」
「分かったわよ。分かった、そういう話なら」
「ギガントモウラ襲撃事件」
「なんとか、解決してみせようじゃない」
おおっ!!
「流石博士っ!! 話が分かるっ!!」
「流石、じゃないわよまったくっ!! 話を変にこじらせてっ!!」
「あははははは」
「あははっ!!じゃないっ!! まったくこの……」
「ともかく、あんたの本来の性格は分かってきた」
「分かって来ましたか?」
「お人よしの馬鹿。それがあんたの本質よ」
「あらま」
まぁ、当たってるかもしれない。
「あんたの性質と私の性質。明らかに違う所はある」
「私の考えが「子供」の考えなのか」
「それともあんたが子供っぽいだけなのかは分からないけど」
「でも」
「言いたい事は言って良いわ。私もなるべく聞くから」
あら。
「あんたには」
「あんたには……。でっかい借りがある」
「そんな借りありましたっけ?」
「さぁ、ね。どうなのかしら」
「ともかく」
「私はあんたに協力するつもりよ」
「たぶん、きっとそれが」
「私達「ウィード」と「アザド」を救う為の一番の近道でしょう」
うん?
「ウィードとアザド、ですか?」
なんか急に謎の言葉が飛び出した。ウィードとアザド。
どんな意味があるんだ?
「We WorldとOther world」
「それを略してウォードとアザド。私達がウィードで。この世界がアザド」
「いつまでもこちらだあちらだって呼ぶのもアレだしね。考えておいたのよ」
あらま、そうなのか。ウィードとアザド。
なんだか横文字。でも世界観的に中世ヨーロッパ風だし。
それも良いかもしれない。
「俺達がウィード、ですか?」
「そう、この世界がアザド。勿論仮名だから後々変わるかもしれないけど」
アザドとウィードか。確かに呼び方は必要だと思ってたんだ。
短いし、結構使いやすいかもしれない。
「アザド、ですか。短いし使いやすいかもしれませんニャンねっ!!」
お、コリーヌちゃんも同じ事を思っていたようだ。
ふふふ。アザドとウィード。そうだな、この2つの世界を守る為。
まずは、この村の問題を解決しよう。
きっとそれが。
大きな問題を解決する道筋になる筈だからっ!!
「よしっ!! そう言う訳で明日、頑張りましょう博士っ!!」
「はぁ。また機材を要求しなきゃならなくなる。事件捜査用の器材……」
「まったく、どんだけしがらみを増やせば気がすむんだかね」
捜査用の器材? しがらみ……。つまり博士の伝手か。
うん、うん……。
ま、まぁいっかっ!!
「それじゃあ博士」
「なによ」
「桃缶」
「あん?」
「桃缶、買いに行きましょうかっ!!」
「………………………………」
「は?」




