第115話 さぁ、楽しい村人との交流だっ!! だ、だ。えっとぉ
「旅人さんっ!! こっちこっちっ!! こっちだよ」
「うんうん。分かったよぉ」
異世界の朝。そこで出会った少女に引っ張られながら連れていかれる。
連れていかれたのは居間の長テーブル。そこには沢山の料理が所狭しと置かれていた。
魚は無く、肉料理が多かった。恐らく家畜を潰したのだろう。
台所に血で汚れた包丁が置かれていた。客人として迎える為に捌いたらしい。
使用人らしい人達がバタバタと忙しそうに働いている。
どうやらそれなりに裕福な家のようだ。
「ああ、旅人さんっ!! 起きたんですねっ!! どうぞどうぞっ!! こちらにっ!!」
恰幅の良い髭の生えた男性が応対する。
頭の中央はすっかり禿げ上がり、金色の髪が横に寂しく伸びている。
衣服は小奇麗だ。アデルバート氏と比べれば地味な色合いだが。
しかしやはり裕福な家庭なのだと思わせる。
昔はロウソクも貴重だと聞いていたし、村長さんはかなりの資産家のようだ。
「いやぁ、昨日は本当に……。本当にありがとうございますっ!!」
「あの時は本当にもう駄目かと……。ありがとうございますっ!!」
やはりしこたまお礼を言われる。子煩悩な旦那さんらしい。
そういう態度をされるとなんだか自分の目頭も熱くなってくる。
うぉおおん。年を取ると涙腺が緩むと言うのは本当かもしれないなぁ。
「私からもありがとうございます。本当……。もう諦める寸前で」
ご婦人も涙を拭きながら礼を言う。助けられて良かった。うんうん。
「ありがとう旅人さんっ!! ほら、こんなに動けるようになったんだよっ!!」
助かった少女。確か名前は……。
「私フィーネって言うのっ!! ありがとうハンサムな旅人さんっ!!」
ハンサム、か。あはは、最近は言われなくなった言葉だなぁ。
今ではもうイケメンってのが主流か。ちょっと古めかしい言葉。
こういう所に時代を感じる。ワードセンスが昭和くらい?
ふふふ。なんだか懐かしい響きだ。
「どうもフィーネちゃん。俺の名前はニートって言うんだ。よろしくね」
「ニートお兄さんねっ!! 私の事助けてくれてありがとうっ!!」
どういたしまして。いやぁ、元気な女の子だ。
天真爛漫っ!! だからこそ破傷風になったりしたんだろうか。
「ほんとう……。無事で良かった。ありがとうニート様。娘を救って頂いて」
改めて村長からのお礼。村長は涙を浮かべている。
子供を大事にしてるんだなぁ。いや、助かって良かった良かった。
「ところで」
「破傷風になった原因は? どこで感染したかと分かってるの?」
「あ、妖精さんっ!! おはようっ!!」
「うん。ああ、おはよう」
「おはようでゴワス」
「おはようニャン」
「わ――。妖精さんが3匹も。凄いねぇ」
食卓のテーブルにチョコンと座って、3人が妖精姿でそこに居る。
3匹の妖精を連れている男……。なんだかミステリアスじゃないか?
ふふふ。
「妖精は心清らかな者にしか着いて行かないという。それが3匹も……」
「なるほど、お優しい訳です。貴重なお薬を」
ああそうなの? へ――。なんか変な設定付いてんだ。
妖精。本物の妖精ってどんな形なんだろうな――。
「でも勘違いしないでよね。一晩泊めてもらう為に提供しただけだから」
「あんまり薬を持ってるとか言いふらさないでね。面倒な事になるだけだから」
あら。
あら――博士、昨日は別に良いんじゃないみたいな事言ってたのに。
「わりと急いでるのよ。変な事に巻き込まれたくないわ」
「それは。ええ、ええ。分かっていますとも。客人が薬師だと知られれば大変な事に」
「小さな村ですから。大きな騒ぎになりますよ」
「話が早くて助かるわ。ともかく一晩泊めてくれてありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。娘を助けて頂いて」
「だからって恩着せがましくするつもりはないわ。むしろ恩が出来たからこそ」
「早急に立ち去る。いつまでも「恩人」でいるつもりはない」
う。んん――。
「そう、ですか……。なるほど、そういうお気持ちなら強くは言いません」
「本当に、娘の事。ありがとうございました」
「良いのよ。もうお礼を言わなくて良い」
「当然の事をしたまで。そうでしょう?」
「ご・主・人・様?」
ううう……。確かに急ぐ旅ではあるし「薬」を見せてしまった以上。
立ち去るのが安全なんだろうけど。
もうちょっとこう、交流したかったような……。
「腑に落ちない、みたいな顔してるけど。普通は治せないような病気を治す手段」
「そんなのを持つ存在なんて事が知られたら目立つわ」
「だから、ここで立ち去るのが正しいと思う」
「私達の目的、忘れた訳じゃないわよね?」
博士が肩に妖精を乗せたまま、響くような声で俺に囁いた。
恐らく一度電源を落としたのだろう。外部から聞こえるような声。
昨日は好きにしろみたいなニュアンスだったのに。
いや違う。少し含みがあった。
最初からこうするつもりだったのか。なるほど。言質を取られたようだ。
あんな事言われた後でもうちょっと滞在する、なんて言えない。
むむ――。せっかく知り合った現地の人々。もうちょっと交流をしたのかったのだけど。
博士の方を見る。視線に気づき博士が手でバッテンを付ける。
駄目だ。そう言いたいのだろう。
博士的にはしがらみが出来た彼らとは付き合いを続けるべきではないと思ったらしい。
そういえば前にもそんな事を言っていた。
俺は反論しようと思ったが、しかし一度宣言してしまった以上。
それを覆す事は出来ないだろう。これは、もう負けだ。
こうも先手を打たれたら。
「村長っ!! 大変だっ!!」
「また家畜がやられたっ!! 「リャナンシー」血吸い妖精に血を吸われたんだっ!!」
「血吸い妖精に……」
「よう、せい……」
「うわっ!! 妖精だっ!!」
「妖精だっ!! 妖精っ!! よくも村の家畜をっ!!」
「このっ!! お前が村の家畜を狙ったんだなっ!! 許さないぞっ!!」
「この、邪精使いめっ!!」
呪精使い。そんな事を言われて、見知らぬ男性に糾弾された。
血吸い妖精って……。ええ、博士。もしかして……。
や。
やっちゃい、ました?




