第105話 これってもしかして凄い発見なんじゃない?
「なんとかって言われてもね……」
敵が去ったアンデールで博士に頼む。
頼むのは。
「みんな、なんとかなりませんか?」
「この際「クローン」でも良いので、なんとか、こう」
「無茶言いなさんな。ともかく」
「VRは無事機動したみたいね」
あら、話をそっちに戻しちゃいます? まぁ、その話も確かにしなきゃですかね。
VR。バーチャルリアリティー。
テレビとは違った形のアプローチ。う――ん。
結構、良いじゃないっ!!
「凄いですねぇ博士っ!! なんか普通に動かせますよっ!! 凄いですっ!!」
「VR自体は既存技術として存在してるわ」
「この目に赤いのを照射する奴もですか?」
赤い奴。網膜投射がなんとやら。これなんかも凄いな。
周りの景色がしっかり見られる。アンデールがぐるーっと全景。
全て見渡せる。なんか凄い。
「ウォーカーにも同じような投影装置が乗ってるわ」
「あれはホログラムだけど、テレビなどのモニターを介さないという点は一緒」
なんと。そういえばウォーカーで戦ってる時小型に襲われなかった。
ホログラムなんて、そんな最新の技術が使われていたなんて……。
ホログラムってなんだろ。
「ともかく、そういう訳で既存の技術を組み合わせてVR機器を作ったの」
「無事ここに来られて良かったわ。本当はもっと色々実験したかったんだけど」
「そうは、言ってられない事態よね」
可愛らしいフェアリー姿になって新登場。博士が妖精姿でなんかキラッと鱗粉なんか出しながら。
そのファンシーな様相には似つかわしくない状況をぐるりと一回りする。
色々聞きたい事がある。
色々話さなきゃいけない事がある。
だがその「事」を全て吹っ飛ばして。
現状はとかく悲惨だった。皆死んでしまった。
この状況を放置したまま、他の事なんて考えられなかった。
「酷い有様ね……」
ややゲームとしての粗が残る画質の世界で、その死体はどこまでも精細だ。
切り落とされた首の断面図なんて何かの標本を見ているよう。
首を飛ばされ何がなんだか分からずに死んだ。
それが分かる事だけが現状唯一の救いだろう。
「あちらもこちらも争いばかり……。こっちは比較的平和そうに映ったんだけどね」
「困っていたから英雄を呼び出した。そういう世界みたいですしね」
「英雄、ね」
何か含んだような言い方。
あはは、う――ん。なんですか博士。
「博士?」
「なんでも、ない……。なんでもないわよ」
「そうですか。ははは、なら良いんですけど」
「…………………………」
「アニエスもコリーヌも死んだ。ほんのちょっと話しただけだけど」
「死んで、死体になったら。何も言えなくなる」
「人間って。生命って儚いわね」
「……そうですね」
転がる彼女達を見る。ほんの数時間前、彼女達はしっかりそこに居た。
だけど。あれから……。
もしかしたらマリス殺害の報復でも受けたのだろうかと考えてしまう。
色々とタイミングがおかしい。
やはり「魔族」という連中とマリスは「同盟」を結んでいるのだろうか。
「マリス襲撃と同じタイミングで敵がこちらにを攻めてきた」
「何らかの思惑が絡んでると思って間違いはないでしょうね」
どうやら博士も同じ事を思っていたようだ。
昨日の今日でこれ。誰かがここを襲撃する事を計画した。
魔王軍幹部の襲撃。魔王軍、か。
「京介」
「ニートって呼んでくださいな。博士」
「……どうして?」
「いや。なんとなく……」
「英雄様。ならどう?」
「ええ?」
「英雄様に付き従う妖精の少女。意外と違和感ないんじゃない?」
「あはは。確かにそうかもですねぇ」
「よし、ならそれで決定ねっ!!」
相変わらず頭の回転が早い。彼女はきっと。
色々と、察しているんだろうなぁ。
でも言わない。
その点は、ありがたいかも。
「さぁそういう訳で英雄様。貴方様に提案があるのだけど」
あら。
「なんだいお供の可愛いフェアリーちゃん」
ふふふ。勇者と妖精なんて、本当おとぎ話みたいな状況。
しかし妖精、か。ここに来るための姿って変えられるのか。
一体どんな仕組みなんだろ。まぁ専門外か……。黙ったと。
「英雄様、貴方に提案があるの」
「うんうん。なんだい?」
「英雄様」
「今の状況は「しがらみ」から脱するチャンスよ」
うん。
うん?
「しがらみ?」
「そう、しがらみ」
「私のせいもあるんだけど、こいつ等は現状この異世界を探索する上での最大の障害よ」
「障害?」
「そう」
「こいつ等は現状私達にとって必要性は皆無」
「英雄」としての立ち回りを求められるだけに留まらず」
「戦闘においても何の役に立たない事も露見した」
「あんたが撃退まで5分掛からなかった相手にこいつ等は全滅という結果を見せた」
「その上貴族や難民など。余計な「しがらみ」を私達に付与して旅の邪魔をしてくる」
「この世界を探索する。という目的を果たすのならば」
「こいつ等は置いて行った方が効率的よ」
「はっきり言うなら」
「彼らを救う価値はない。仮に救うのだとしても」
「全てが終わってからで良い」
「こいつ等は邪魔よ。旅をするなら2人で十分」
「私と貴方」
「それだけで事足りるわ」
「そこのところ考えて欲しいんだけど」
しがらみ、か。
「君は彼らを見捨てろと言いたいの?」
「そうよ。そもそも現地の人間と付き合う事自体不必要よ」
「さっきの戦いで確信した。貴方は1人で十分強い」
「それなら、サポートは私だけで十分。補給に関してはこちらの世界がある」
「休むにしても何をするにしても」
「私達は全て自己完結出来る存在なの」
「こいつらに頼る必要性は皆無よ。今の私達は補給という概念がない」
「だって今の私達はゲームのキャラなのだから」
「だから現地人のサポートはいらない」
「目的を達成するという意味でも、単独行動こそが私達の最適だわ」
「彼らは「NPC」であるとして見て」
「純粋に目的だけを見て進むべきだと思う」
「貴方の」
「貴方は」
「貴方は、どう思うかしら?」
どうやら彼女は伝え終わったらしい。博士の考え。
それはこのまま進め。っと。
「それをする事は出来ない」
でも、俺の考えは。
「理由を聞かせて貰って良いかしら」
「そんな不義理を働いて行動する気が無い」
「不義理ではない。合理的に考えた上での最適解よ」
「このまま彼らを放っておけない。なんとか救い出してあげないと」
「それは非合理的だわ。救っても意味はない。こいつ等は弱いわ。数が多いだけ」
「弱いから見捨てろなんて言ったら人間の意味はないじゃないか」
「こいつらは人間じゃないNPCだわ」
「それが「違う」事を薄々理解しているから俺の所に来てくれたんじゃないのかい?」
「否定はしない。でもこいつ等はしがらみよ。目的だけ素早く遂行すべきよ」
「それをするにしても現地の人達の協力は絶対に必要だよ」
「貴方は」
「貴方なら」
「それがなくなって突き進める筈よ」
「貴方なら」
「貴方なら……」
「それでも」
「彼らを見捨ててはいけない」
「なんとか救う手立てを考えよう」
「救う意味が無いわ。もっと合理的に考えましょう」
「人の」
「人としての義理や弱さを捨てて「合理性」ばかり考えて動くと」
「いつか人として大事な部分まで失ってしまう」
「俺はそれを失いたくない」
「ここで見捨てたら必ず後々までのしこりが残る」
「そうして、いつか「合理性」に慣れていく」
「合理性に慣れ、人としての大事な部分を失って」
「そうして」
「いつか俺も「マリス」と同じ存在に堕ちてしまうかもしれない」
「っ!!」
「だから」
「だから必要なんだよ博士」
「それに、さ」
「それ、に……?」
「俺達は彼らと「同盟」を結んだ訳でしょ?」
「だったら」
「困ったときは助け合わないと」
「ね?」
「こちらが助けてもあちらが助けてくれるとは限らないわよ」
「でも助けないとこちらが「そういう」存在だって事になる訳じゃない?」
「黙ってればバレないわよ」
「そうなると「見捨てた」ってしこりが残り続けるから不利だよ」
「誰に不利なの?」
「自分に」
「自分が不利になる」
「自分に……」
「そもそもそんな「合理的」に生きられるなら20年もニートやってないよ」
「もっと不合理でも良いじゃないか」
「俺はまたアニエスさん達とお話がしたいな」
「それじゃあ、駄目なのかい?」
言葉の応酬。博士が俺の言葉を聞いてくれる。
もうちょっと怒鳴ったりすると思ったけど、そういう事はしなかった。
俺は彼女の言葉を聞き、彼女も俺の言葉を聞いてくれる。
彼女は皆を見捨てろと。俺は救いたい。相反する意見。
博士からすれば、俺の意見は偽善的な自己満足に過ぎないだろう。
でも。
だからこそ、それを捨てる事は出来ない。
それを捨てる事に慣れてしまったら。
「…………………………」
博士が黙り込む。フェアリーのその可愛らしい姿で。
本当だったらもっと可愛い話をしてあげたい。
しかし状況がそれを許さない。
残念な事に……。
「はぁ……」
「もう」
「ああ、はいはい。分かったよ」
「まったく。こういう時普通は逆じゃない?」
「大人のあんたさ、子供の私に……」
「もっと、世の中の厳しさってのを教えるべきなんじゃないの?」
「他人を見捨てる事は決して強さなんかじゃない」
「俺はそんな事を強さだとは思わないよ」
「…………………………」
「ふん、はいはいそうですか」
「そうですか……」
「そっか」
不機嫌そうで、でもちょっと嬉しそうな。
彼女はふわっと死亡しているアニエスさんの方に飛んでいき、彼女に何かを突き刺した。
あれは、注射器か?
「血液サンプルを採取するわ。「使える」かは分からないけど」
「採取? ここにクローンを作る為の機械を持ってくる事は?」
「あれは最重要機密よ。持ち出すなんてとんでもないわ」
え。そうなの……?
「一般にクローンなんて出回れば大混乱になる。そもそもね」
「クローン技術で市民を再構築出来るなんて情報」
「一般市民の貴方がなぜご存じなのかしらね?」
「うっ」
あ、えっとぉ。
「まぁ良いわ」
「ともかくこのコリーヌの血も抜いときましょう。使えるは分からないけど」
「あちらの世界で再構築する……。出来ます、かね」
「さぁね。やってみなきゃ分からないわよ」
「ともかく。あ。」
「どうしました博士?」
「………………………………」
「アレは」
「猫、じゃない?」
猫?
見れば、確かに猫が居た。死んではいるが。その形は明らかに猫そのもので。
猫。
こちらの世界では既に絶滅した動物で……。
首は切られていない。ナイフで心臓を突かれたような痕がある。
猫の首は切らなかったのか。
猫。
猫、だ。
「猫……」
博士が猫の方へ飛んでいき。そのまま倒れている猫に注射器を打つ。
猫。
猫……、か。




