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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第103話 相互理解。本当は良い言葉なんだけどね。


「なに? なに? ちょっと何があったのっ!?」


 いつも3人称視点から見ていたアンデール。しかしVR機器越しに見えるそこは完全なる1人称。

 主観視点と言ったら分かりやすいだろう。

 

 主観。と言ってももっと豪勢な代物。

 眼前に広がる光景は他ゲームで見られる画面越しの一点映像ではなく。

 人間としての視点を完全再現した360度、全方向確認出来る代物だった。


 これが、VRか。


 「ちょっとっ!! 状況はどうなのっ!?」


 博士の声が耳に響く。

 視界は完全に異世界に取り込まれているのに、博士の声だけはそこにはなく。

 「頭に直接響く」そんな印象を与えて彼女の声が届いていた。


 不思議な感覚だ。VR。これがバーチャルリアリティーという奴なのか。


 「よっと。ほら、私もゲームの中に……。うわなにこれっ!! 人が死んでるじゃないっ!!」


 急に博士の声が身近になる。

 横を見ると、そこには……。


 小さな妖精?


 羽が生えフワフワと飛んで、博士の顔をした妖精がそこに居た。

 なんとまぁ、ファンシーじゃないか。


 「えっ!? なにこれっ!! どういう事っ!? 人が、死んで……」

 

 どうやら博士も妖精の姿になってこの地に降りてきたらしい。

 ふふふ。小さくて可愛らしい。可愛いフェアリーさんだ。


 「ふん、使い魔を連れていたか。だがそんな小さな妖精一匹どうとでもなる」

 「だ、誰よっ!!」


 博士も「誰か」に気付いたらしい。声がした方向に視線を向ける。

 そこには。


 「お前にも紹介しておこう。俺は魔王軍幹部が1人。エクゼキューターのアザゼル」

 「英雄を倒しに来た者だ」


 そこには、男が立っていた。髪は火のように赤い。

 比喩表現ではなく、実際燃えているように揺らめいている。何かのエフェクトだろうか。

 その目はヤギのような縦長の線が入り、どこか神秘的な印象を与える。

 彼は漆黒の鎧を纏い、螺旋階段の2階から座りながらこちらを見下ろしていた。


 英雄を倒しに来た者。つまり彼はこちらと敵対するつもりのようだ。

 俺は。


 「お初にお目にかかります。俺の名前はニート」

 「ああ?」


 取り合えず、自己紹介をしてみる事にした。


 「名乗ってくれてありがとうアザゼルさん。君が」

 「君が皆を殺したのかい?」

 

 そして、聞いてみる。

 この状況で違うなんて言葉は出てこないだろうけど。

 それでも。


 「ああ、そうだ。俺がこいつらを殺した」

 

 ああ、そうか……。

 まぁ、そうだよな。

 

 しかし、受け答えが出来る。ならばマリスとは違う存在か。


 「君は何者だい? 魔族とは?」

 「随分おしゃべりだな英雄殿。他に言う事があるんじゃないか?」


 「どんな言葉を予想していた?」

 「よくも仲間を、とかさ」


 「英雄様なら、死んだ仲間の為、俺に立ち向かってくるってのを想像してたんだがな」

 

 顔の近くに手を掲げ、おどけたように笑う。

 彼を見る。見た感じ若い、20代前半くらいの年だろうか。


 「ここでずっと俺を待っていたのかい?」

 「ああん?」


 「ああ、そうだ。ずっと待ってたよ英雄様」

 「そうか。色々立て込んでいてね。来るのが遅れた」


 「結果、あんたの仲間は皆死んじまった」

 「そのようだね」


 見渡す限りの死体の山。城の外の難民達も殺されている。

 これだけの人間を1人で倒したとあれば、相当な実力がある戦士なのだろう。

 余裕たっぷりという顔で、彼は俺の方を見ている。


 座りながら大鎌を肩にかけ、こちらの問いに答える。


 その目の形以外は人間と何一つ変わらない面持ち。

 いや、よく見れば肌も紫色に近いような気もする。

 

 これが、魔族か。


 「君が魔族なのかい?」

 「随分おしゃべりだな英雄殿は。今の状況分かってるのか?」


 「君が答えてくれるから。思ったより良い人そうで良かった」

 「良い人? この状況見てそんな事言えるのかよ」


 それはそうだろう。そこには沢山の死体が転がってるのだから。

 だけど。


 「敵であろうが、しっかり対応をしてくれる。君の礼儀正しさは素晴らしいと思う」

 「ああん?」


 だけど、やはりマリスと比べてしまう。

 彼には人間味がある。見る死体の全ての首がない。ならば彼を首を切断し一瞬で敵を殺したという事。

 これがマリスであればただで殺したりはしない。

 マリスが人間にする所業は……。


 「話し合いがしたい。その場を設けられないかい?」


 その余地アリと判断した。もしかしたらもっと話を聞けるかもしれない。


 「戦いはしたくない。話を聞かせて欲しい」

 「話すことで、わだかまりを溶かす事だって出来る筈だ」


 「だから」


 その言葉を言い終わるより早く。


 

 俺の体は引き裂かれた。

 


 一瞬画面が暗転し「YOU DIED」という画面が出現しリスタートが開始される。

 俺はすぐさま焚火に移動し、そこには先ほどと同じ光景が広がっていた。


 立つ俺。その首元に鎌。

 彼が後ろに居て、俺に鎌を向けている。


 「人と交渉などしない。俺はお前を殺す。英雄殿」

 「和解の道はある筈だ。どうしても殺し合わなければならないのかい?」


 「ああ、その通り。人間を滅ぼし、俺達は魔族の世を作る」


 「相手がずっと被害者になってくれる訳じゃない」

 「結果、何らかの形で反転され、自らが被害者の地位に落ちるかもしれない」


 「そうなれば後悔するのは君達の方だ。恨みで相手を殺したら相手もそれを考える」


 「ならばそうならないよう、念入りに根絶やしにするさ」


 ああ。そうか。


 「そんな簡単に行かないさ」


 彼は、俺と同じなんだ。


 「それでも成し遂げるさ。人間を滅ぼす」


 彼も……。


 でも。



 「止まれないかい?」

 俺も止まる気はない。


 「ないね」

 なら彼だって止まる気はないのだろう。


 それなら……。


 「操作は脳波コントロールを採用したわ。ウォーカーと同じ要領で動ける」

 「自由にやりなさい。あんたのやり方でさ」


 博士の言葉。

 彼女は飛んで、高い位置から俺達の行動を眺めていた。


 「戦う以外の道はないかい?」

 「ない。俺はあんたを殺す」


 そうか。


 それなら。


 俺はウォーカーと同じ要領で「想い」その体を動かした。

 彼もそれに反応する。



 「え?」



 俺は彼の大鎌を取り上げて、彼の首元に充てていた。


 「な、に……」


 訳が分からないと言った顔で彼が正面を見る。

 

 「遅い……。俺と戦うならもっと早く動かないと」


 そのまま、俺は彼に言葉をかける。

 その言葉を聞いて、彼は唇をギュッと噛みながらなにやら光って瞬間移動した。


 何らかの特殊能力。そういえばアニエスさん達も同じようなのを使っていた気がする。

 おそらくこれが「魔法」なのだろう。


 便利な力だと思う。

 だけど。


 「ぐあっ!!」


 背後から来る彼を鎌の持ち手を使い吹き飛ばす。

 態勢を崩した彼が倒れるが、再び瞬間移動をし、見えなくなる。


 が、まっすぐ。

 まっすぐ向かって、俺にその首元を掴まれる。


 「なにっ!! くそっ!!」

 「遅いと言っただろう?」

 

 顔を歪め、彼が力づくで俺の拘束から脱出する。

 そして瞬間移動。


 なるほど、人々が殺されたのはこの力があってだろう。

 瞬間移動を使い一瞬で近づき首を刈る。これが彼の戦い方なのだろう。

 なるほど効率が良い。


 だけど。


 「ぐぅっ!!」


 再び、俺は彼の首を掴む。ワンパターンな攻防。


 彼の攻撃方法には大きな弱点があった。彼は瞬間移動でこちらに近づける。

 だが近づくという事はこちらにも攻撃チャンスがあると言う事。

 故に機動さえ読んでしまえは対処は容易いのだ。


「遅い。駄目だよ。もっと早く近づけないのかい?」


 アンノウン形態では光速での戦闘も強いられる。その為に強化された「目」

 彼には悪いが敵ではない。


 瞬間移動と言ってもうっすらと行く方向は見える。

 だから彼が来る方向は全て把握している。


 だから。


 俺は彼の首根っこを掴んで離さない。

 今度は強く。そう思う。本当の体じゃない。だから「願う」ことしか出来ないのだ。

 ゲームの体はその願いを受け入れ、彼の首を強く掴んだ。

 

 「こ、このっ!!」


 しかしゲームの肉体は彼よりも力が弱いのか、その手を離してしまう。

 離れた彼は再び瞬間移動し、それから。


 静かになる。彼は瞬間移動した瞬間、透明化する。

 ならばその力を使い透明化した状態でこちらを焦らしながら攻撃のチャンスを伺っているのだろう。


 螺旋階段の上、そこに居る。

 

 体を透明にしても音までは消せない。飛んで、そこに移動した。

 その音を聞いた。階段の石畳を擦る音も聞こえる。


 吐息がやや激しい。焦っているのだろう。


 俺は彼が来るのを待つ。待つ間、彼から奪った鎌を振ってみる。

 そこで気づいた。振る速度が変わらない。


 恐らくゲームの設定以上に振る事が出来ないのだろう。

 不便に思えるが。


 しかしこれだけあれば。


 彼が向かってくる。


 俺は向かってくる彼の太ももを鎌で傷つけた。


 「ぐぁああああっ!!」


 彼が倒れる。足を負傷し、その場で倒れ込む。

 動かそうとするが、痛みから顔が歪む。血がドクドクと流れ止まらない。


 「人と急所は同じか」


 太ももの内側。そこにある太い血管。それを切った。

 人体の大きな急所だ。人の形をしているならば彼らも急所は同じ筈。

 もう動く事は出来ない。


 しかし彼は何かしらを唱え、するとたちまちその怪我は回復する。

 その勢いで彼はまたこちらに飛んでくる。


 飛んで来た彼の手首を切り落とした。


 「な、うぐぅうああああっ!!」


 彼は手に小さなナイフを持っていた。戦うならそちらの方が効率的。

 持っていた大鎌は何らかのデモンストレーションだったのだろう。


 見た感じナイフの方が使い慣れている印象を感じた。

 そのナイフが落ちる。自らの体の一部と共に。


 痛がる彼を観察しながら動向を見る。

 すると彼はまた何かを唱え、すると彼の手は瞬く間に再生した。


 どうやら部位の欠損も直す事が出来るらしい。

 中々高性能だと感じた。


 回復した彼がこちらを一瞥する。視線の先には落ちた手首に握られたナイフが。

 だが、それは俺の鎌の範囲内にある。拾えない。そう判断したのだろう。


 彼が。


 また来る。

 

 もう素手だ。


 俺は鎌を持ち。



 彼のその二本の足を切断した。


 「うぐぁぁあああああっ!!」


 短く悲鳴を上げ、彼が悶絶する。彼が再び唱え、足が再生した。

 それから短く飛んで、俺の元から離れた。


 離れて。


 そのまま、来ない。


 彼はその場で静止し、こちらをじっと眺めている。

 そして小さく呟いた。


 「話が違う……」


 どうやら最初に遭遇した幹部。名前は忘れた。

 彼女から俺の事を聞いての接触だったらしい。


 ならば、そうだろう。当時と今とでは状況はだいぶ違う。

 脳波コントロールである程度自由に動ける今と。コントローラー越しでしか動かせなかった前。


 ならば話が違うと愚痴る気持ちも分かる。

 彼は動かない。


 動いても勝てないという実感が湧いてきたのだろう。

 しかし逃げない。


 ならば。


 奥の手があるのだろう。


 「ぐっ……」


 歯を食いしばりながら、彼は大きな声で。


 「出でよっ!! 魔獣っ!!」


 唱えた。


 魔獣、とは。


 その動向を見守る。魔獣が来ると言う。

 待つ。

 待つ。


 待つ、が。


 しかしその魔獣を待てど暮らせど現れる事は無かった。


「なに……。こ、ない……」


 当てが外れたような顔をして、彼がその場で固まっている。

 片手を前に出し、いかにも何か出すぞという姿勢のまま。


 彼は。


 その場で固まっている。


 何かの作用かこのアンデールという場所故か。

 魔獣は出てこない。

 そうして彼は切り札を失い、どうすれば良いのか分からず固まっている。


 一瞬ピクリと体を動かす。反撃を試みようとしたのだろう。

 だがこちらも鎌を動かすとその動きは止まる。


 恐れている。踏み出せない。

 なら。


 勝負は決まった。

 

 

 俺は彼の首元に大鎌を当て。


 「話をしようか」


 

 彼との「相互理解」を開始した。


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