番外 とある主婦の一幕2
「うう――ん……」
「あ、気が付きましたか――?」
はっ!? な、なに……。え、あれ? なんか、景色が違う……。ここは?
「あっ。どうも宮田さん。お目覚めになりましたー?」
お目覚めになったって……? うん? ここは?
うわっ!! イケメンが居るっ!! な、なにここは。
なんかボロっちい所に居るっ!! 隣にはイケメンが……。
や。やだ……。も、もしかして私……。
そ、そんなっ!! 私には旦那も子供の居るのにっ!!
そ、そんな駄目よっ!!
まさか私、顔だけの男に釣られて「間違い」を起こしたって言うのっ!?
そ、そんな馬鹿なっ!!
「お、良かったです。お目覚めになったんですねーっ!!」
うん、なんだ? 女の子? あ、隣に女の子が居る。
若い、学生さんかな? 髪は青。ミクスレイの子か。
可愛いな。まぁミクスレイの子に不細工は居ないけど。
元の型がどれも美形ぞろいだしね。
それにしても。
「ここはどこ?」
凄く見知らぬ場所。ここはどこ?
「いやぁ、目覚めて良かったです宮田さん。大丈夫ですか?」
えっと、このイケメンは。
ああ、そうだ。
「ニートさん、一体どうしたんですか?」
輝いてるけど腐ってる。目の前の見るからに美青年な彼はニートさん。
髭を剃り、髪を整え、しっかりした服を着ればたちまちイケメンニートさん。
ぱっちり二重に大きな目。優しそうな顔つき。ニートの癖に歯並びも良い。
常に柔和な笑顔を浮かべなんとなく立ち振る舞いが気品溢れる。
年は36歳。私より圧倒的に年上。ごくつぶし界のエリート。
彼こそ噂のニートさん。顔をだけ見ればその美青年ぶりにクラクラするが。
中身はしっかりごく潰し。それを考えて動かないときっと痛い目を見る。
そんなごく潰しな彼が……。
ああ、イカン。顔を直視するとなんか目覚めそう。
隣の女の子……。うん、女の子。
え――っと。この子は? ニートさんとどんな関係?
ま、まぁそんな事はともかく。ともかくニートさんを見ると惚けちゃう。
だから彼女の方を向きながら。
「えっと、なぜ私はこんな所に?」
そうそうっ!! これ、これを聞きたかったのよっ!! よく言えたわ私。
それで、私はなぜここに?
「ま、まぁそれは、後で。今はともかく安静にしてましょう」
女の子が言い辛そうに笑う。なによもう。
まぁ良いけどね。
そういう態度、わりと慣れてるから。
昔から大人はそんな感じでいつも言い辛そうだった。
それでなんでなんで。なんてしつこく聞くと怒るのだ。
だから私はこういう時。
「そう、分かったわ」
大人しく引き下がる事にしてる。
言い辛そうにしてる人から何かを引き出しても良い事なんて何一つ無いのだ。
それが25年生きてきて分かった私の処世術というものだ。
「まぁ良いわ。ともかくここはどこかだけ教えて」
「えっと、ここはニートさんの自宅、です」
女の子が答える。ニートさんの家? ふぅん。このこじんまりとした一軒家が。
一軒家というか。昔の古民家を思わす面持ち。縁側があって。
えっと。草ボーボー?
「なんか雑草沢山生えてない?」
「え? あ、えへへへへ」
ニートさんがばつが悪そうに頭を掻く。あら可愛い。
じゃなかった。まったくこれだからニートはっ!!
こう怒るべきだな。うんうん。
「ともかくなんかあってここに運ばれたって感じ?」
状況はなんとか掴めた。つまりなんか気絶しちゃってここに運ばれた訳だ。
まぁまぁ、よくある事だ。
小さい頃はよくこうやって運びされた気がする。
気絶したり、何かに襲われたり。何か? えっと……。
何かってなんだっけ?
まぁ。
ともかく何かだ。昔何かに襲われた。
そして助けられた気がする。
何に助けられたんだっけ? えっと。
なんか。
黒っぽい、何かに助けられた気がする。
そうだ。
この状況、あの頃に似てるな。まだ5歳くらいだった。
あの時、あの黒いのは……。
私の頭を撫でてくれた気がする。
黒くて、怖い顔だったけど。
優しい、黒いのだった。
名前は。
名前はなんて言ったっけなぁ。
「まぁ良いやっ!!」
「あ、あのぉ、宮田さん?」
ニートさんが戸惑ってる。あはは、ちょっと自分の世界に入り過ぎ?
でも私達の世代なんて基本こんなもんでしょ。
昔、ほんとに子供の頃は。
ずっと、ずっと怖かった。だから私は空想の中に逃げた。
そうすれば怖い事も通り過ぎて行ったから。
あの頃の恐怖は……。あれ、何を恐怖していたんだっけ?
ともかく昔は怖かった。でも今はそれから解放された。
かつてあのノアに乗っていた頃は本当に毎日が怖くて……。
アレ?
なんで怖かったんだっけ?
ううんと。
まぁ良いやっ!!
「ニートさんっ!!」
「あ、はいなんですかっ!?」
「……………………」
いやぁ。ほんとに、良い男だなぁ。
じゃ、じゃなかったっ!!
「ニートさん、ここ、貴方の家の庭よねっ!!」
「あ、はい。そうですが」
「草ボーボーねっ!!」
「あ、さ、最近ちょっと家を空けてる事が多くて……」
「こういうの、良くないと思うわっ!! 庭は家の家格みたいなもんよっ!!」
「家格、ですか?」
「そうそうっ!!」
昔、私の家は老舗のお店を経営していたと聞く。しかもこの辺の。
その時今は亡き祖母が言っていた事が家訓として残っている。
庭は家の家格。屋根は家の財力。と言っていた。
庭の作りでその家の家格が分かり、屋根の形でその家の裕福さが分かったという。
ウチは別に偉い旧家とかじゃなかったけど。
舐められないようにそういうのにはこだわってたみたい。
昔は家の場所だけでも凄い差があったってお父さんが言ってた。
まぁ今そういうのはないけど。
そういった価値観を持ち合わせてる人も少ないし、私くらいか。
昔はニートさんの土地はものすっごく格式が高くて、偉い皇帝様が住んでた土地なんだけど。
今じゃあ顔だけが良いごく潰しのニートが住み着いてるのみ。
でも昔は。昔のここは超一等地で。
だから。
「ニートさん。庭をこんな風にするのは私、駄目だと思うわっ!!」
だから許せないっ!! そんな一等地がこんなボロボロなんてっ!!
「ニートさんっ!!」
「は、はいぃぃ?」
はいぃぃ。だって。ふふふ、可愛い。
じゃなかったっ!!
「草むしりっ!!」
「はい?」
「草むしりっ!! 必要ですよねっ!!」
「えぇ?」
「え――っと」
「そうかも」
「草むしり」
「必要かもですね」
「よしっ!!」
「それなら」
「草むしりしましょうっ!!」
◇ ◇ ◇
女子校生らしき者と顔だけが良いニート。そして経産婦3人で黙々と草むしりをする。
誰も何も言わない。でも草を刈る。それだけは一致して。
ちょっと顔を合わせたくらいのニート男の庭を刈る。
元は一等地だった。そんな草地を整備する。
そうする事で元の威光が戻ってくるような気がして。
勿論そんな事はないんだけど。
「歴史」があるその土地に関われて、ちょっと嬉しかった。
全て無くなってしまったような世界だけど。
全て、ではない。
かつては、しっかりとそこにあった。
だから。
ああ。
もう日が暮れそうだなぁ。
「日が落ちてきましたね」
女子高生が同じ事を口にする。言いたい事をしっかり口で言える。
まっすぐなこの世代の子が好きだ。
誰の子でもない彼女達だけど、まぁ長い目でみればウチの子みたいなもんだ。
きっと彼女達の中に一人がウチの子のお嫁さんなったり、なんて……。
そうすれば私は姑か? ふふふ。まだ気が長い話か。
あれから20年。もうだいぶ経ってしまったけど。
ああ。
夕日が綺麗だ。
地球に帰ってこれて良かった。
やっぱり。
帰るなら歴史がある所の方が良い。
まっさらは嫌だ。「初代」になるほどの覚悟もない。
歴史があって、かつて誰かが居て。
やっぱり、住むならそんな所が良い。
まぁ子供や旦那はノア地区の方が心地よさそうだけど。
はぁ。
地方は地方で暮らしやすいんだけどなぁ。
まったく、皆分かってないんだから。
「あの、宮田さん」
あら何かしら顔だけニートさん。なんて、ふふふ。
「今日はありがとうございました。おかげで綺麗になりましたよ」
「まだちょっと残ってますけど?」
「それはぁ。まぁ後でやりますので」
ほんとかなぁ? あはは、でもまぁ良いやっ!!
「疲れたっ!! 家まで送ってもらえる?」
最後にこの顔だけ男を侍らせながら帰りましょうか。
正直こんな甲斐性なしより旦那の方が100倍魅力的だわ。
でも顔だけは勝ち。
あはは、しかしこの女子校生は誰なのかしら。
う――ん。彼の彼女、だったり……?
はぁ――――。やめときなさい女子校生。こういう顔だけ男は将来苦労するわよ。
男ってのはやっぱり甲斐性っ!! 給料としっかり仕事っ!!
まぁ、若い内でそれに気付けってのは無理な話かもしれないけどさ。
でも、若い内にその若さを吸収できるのは良い事かもね。
私の時代は……。やっぱり。平和が一番っ!! 何事さもっ!!
「じゃあ行きましょうかっ!!」
「ええ――っと」
「は、はぃぃいい――」
ふふふ、ニートさんがまたはぃいいーって。
あははっ!! 可愛いっ!!
なんか言い難い事でもあるのかしら?
でも。
「あの頃」に比べたら。
きっとなんだって「小さい事」よっ!! あ――――はっはっはっはっはっ!!
私も大人になったわね――――っ!!
◇ ◇ ◇
「ぎゃああああああああああああああああああああ————っ!!」
「うちが……」
「家が潰れてるぅううううううううっ!!」
「あ、夏美っ!! 良かった無事だったのかっ!!」
「母さんっ!! なんか家が潰れてるんだけどっ!!」
「うぉおおおお家族が無事だったっ!! でも、でも」
「私の庭がぁああああああっ!! ガーデニングした綺麗なお庭がぁああああっ!!」
「誰っ!! 一体誰っ!! わたしの、私の家の家格を汚したのはぁああああああ――っ!!」
「ちっくしょおおおおおおおおお————っ!!」
「お……。お。お……」
「だ、だれ」
「誰でしょうね――――?」




