第100話 人類の救世主
とんでもない事になった。
ニートさんに会いたくて、古都地区にやってきた。
その為彼の元を尋ねたのだが、いつもの家に彼は居なかった。
だから近くの民家の住人に彼の事を訪ねて。
そして、彼を見つけた。
それまでは良かったのだが……。
彼が話しかけていた老人が突如人の形をした狼となり……。
それから。
私は戦っている。
「くそっ!! 強い……っ!! これが人狼っ!!」
それから私は戦っている。彼の前で超兵となって。
超兵形態は外骨格で銀色になる為そのまま大きくなるよりは恥ずかしくはないが。
体のラインがしっかり出る為やはり恥ずかしいと言ったら恥ずかしい。
本来なら体を保護する伸縮性のスーツがある筈だが、まだ支給されていない。
だからこのまま戦わなきゃ。
だけど強いっ!!
どれだけ殴っても殴っても血一つ流さない。体長はこちらと同じくらい。
ならば出来るか。とも思っていたがどうにも相手し辛い。
たっぱが同じという事もあり、どうしても対等な格闘戦になる。
これが大型怪獣だったら足元を切りつけるだけで良いのだが。
恐らくこれが説明を受けた「人狼」なのだろうと推測する。
騒動後、こいつの存在の事を聞いた。
人に紛れ、人を襲う。人の形をした狼。
大きな戦闘後、その存在は人家に紛れて人を殺して襲うそうだ。
それを聞いて不安になって「彼」の元を訪れた。
様子を見に来たのだ。人狼は昼には人を襲わないという。
だから昼に。
でも。
嘘つき。
昼にも襲ってくるじゃないの。
「うわあああああああああああああああ————っ!!」
精いっぱい大声を出して人狼へと向かう。なるべく彼が逃げる時間を確保する。
こいつを釘付けにして。
このまま、戦う。
しかし。
「ぎぃいいいいひひひひひひひひひっ!!」
人狼の拳がボディに。こいつ、さっきから腹ばかり殴る。
そしてその一撃も重い。
一撃で臓器を破壊され、体をぐちゃぐちゃにされる。
痛い。
だがその痛みも再生剤の効果で麻痺し、肉体が再生する。
かつて「兵器」から戦場の主役を奪ったその薬剤が、自らの価値を証明してくれている。
誰かを守るための力。
そう、それは。
彼を守るために。
「くそ狼がぁあああああああああああ————っ!!」
「人間さまの言う事を聞けぇええええええええええ――っ!!」
肉体がまだ完全再生していない為、話す度に吐血してしまう。
だがこうして声を張る事で肉体のリミッターが一部外れ、大きな力が出るようになる。
それは別に何か人工的な作用という事ではない。
武道ではごく当たり前の常識。こうする事で大きな力が出るのだ。
だから声を出す。そうして、相手を倒すんだ。
倒す。倒す。私達超兵こそが人類を守る盾で。
その筈で。
だから。
私が。
その筈なのに……。
「ズルいっ!!」
思わず叫んでしまう。分かっている。
お門違いだって。
それでも……。
「ズルい……。ズルいよ」
「アンノウン」
「全部、全部持って行っちゃって……」
「貴方……」
「ずるいわ……」
人狼は倒された。それは一瞬の出来事だった。
人狼に再び吹き飛ばされ、私は民家に飛んだ。
そうして人狼との距離が開く。
その隙。っとばかりに一筋の閃光。
目の前を何かが通り過ぎ、そうして対峙していた筈の人狼が弾け飛んだ。
敵は倒された。
自分があれだけ苦戦していた敵が。
目の前で、一瞬に。
倒れる敵の下半身を踏み出しにして、そこに彼が居た。
「アンノウン……」
それは私達を救ってくれた救世主。
あの時、大人の誰もが到来を歓喜した究極の存在。
人類の救世主。
アンノウン・ゼロ。その人物だった。
漆黒の外骨格を纏うその風貌は異様さを放ち、そして威容を醸し出している。
かつて人類をその身一つで救ったと言われるそれが。
私の命を救ってくれた。
のだろうが。
「ズルいっ!!」
私から出た言葉は感謝では無かった。
それは。
嫉妬だ。
私はアンノウンの。その何者も守れる強力な力に大きく嫉妬した。
私もああなれたら……。
彼に救われた瞬間、そう感じてしまった。
自分という存在が「主人公」が訪れるまでの前座でしかなかった事が。
どうしようもなく、悔しかった。
私の言葉を聞いて、アンノウンは何も言わず。
そのまま、どこぞへと飛んで行った。
全てを救い、世界をたった一人で守った癖に。
見返りも賞賛も何一つ求めず、20年、私達の世界をただ見守っていた。
そんな嘘みたいな存在が……。
頑張ったからご褒美が欲しい。
なんて考えてしまう自分の浅はかな気持ちと反比例する気がして。
どこまでも、眩しかった……。
ありがとう。
なんで、そんな言葉が言えなかったんだろう……。
彼の姿を追う事が出来ず、下を向いてうな垂れる。
有無を言わさないような圧倒的な「英雄」を目撃し。
賞賛ではなく妬みが出る。
自分のそんな気持ちが信じられなかった。
私は……。私は……。
「智代ちゃ――――んっ!!」
あ。誰かが、声を掛けてきた。
相手は。
ああ。
彼は。
「智代ちゃん、大丈夫っ!? うわぁ、おっきいねぇ」
「あの怖いのが倒れてるの。智代ちゃんがやっつけたのかい?」
「凄いねっ!! 流石超兵さんだっ!!」
なんて。
変わらないその温和な笑顔で……。
いや身なりを整え小奇麗になった彼は……。
ちょ、ちょっとイケメンすぎない?
や、やだぁ……。カッコいい。
「智代ちゃ――――んっ!!」
「頑張ったねっ!!」
「ありがとう」
「ありがとう、ねっ!!」
彼が、私にお礼を言う。彼は知らないのだ。
敵は私ではなく「英雄」によって倒された事を。
私はただその場で足掻いていただけ。
本当に敵を倒したのは……。
「ありがとう智代ちゃん」
「ありがとう、ね」
彼が巨大化した私の足に振れ、小さく撫でてくれた。
優しい、彼の仕草。
あの時、一緒にご飯を食べていた時から変わらない。
温和で、優しいその様子は……。
ああ。
日常に帰ってきたんだ……。
そんな気持ちを思い出させてくれて。
「どういたしまして」
思わず、嘘を付いた。私は笑う。その大きな姿で。
彼も同じように笑った。
柔和で、温厚で。そして。
美しい……。
最初見た時もその美しさの片りんは感じていた。彼は美しかった。
しかし磨かれ、研ぎ澄まされ。美しくカットされたその原石は。
私の前で、手が届かないような。綺麗で高価な宝石にようになって。
こんな汚い石ころの私に振れてくれている。
ああ、綺麗だなぁ……。本当に……。
ニートさん。
私は。
貴方の、英雄になりたい。
なりたい。な……。




