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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第99話 人狼。その存在は。


 「ブツブツブツブツブツ……」


 人が少なくなった住宅地の一角で老人がぶつぶつと何かを呟きながら徘徊している。

 老人と言っても5、60代だろう。ボケるにはまだ早い。

 それとも若年性の? なんて思うが……。


 まさか。とは思う。いやでも十分に。

 「残党」の可能性があるのだ……。


 まさかとは思う。だけど。

 

 「す……」

 「すいませ――ん。おじいさんっ!!」


 俺はご老人に声をかけて見る事にした。

 ひとまず彼の様子を観察してみよう。ひとまず。


 「うん? はい、なんですか?」

 

 話しかけた瞬間、正気に戻った風の態度……。

 うん。うん……。

 ああ……。なんというか、その。


 まぁ。


 ここには俺しか居ないか。

 それなら……。

 

 「すいませんおじいさん。俺は政府の人間なんですか」

 「……はい。なに?」


 「IDを見せてもらえませんか? 携帯してますよね?」

 「は? ID? すいませんが田舎から来たもので」


 「ここも田舎ですよ。今の世に田舎なんかありません」

 「都会に見せかけた場所も、デカいだけの田舎みたいなものです」


 「ははぁ、そうなんですか? すいません年のせいかボケてしまいまして」

 「まだボケるような年ではないでしょう」


 「こう見えても80は超えてるんですよ。ほほほ。寄る年波には勝てませんなぁ」

 「ノアには60を超えるような老人は乗れませんでした。未来の為に」

 

 「だから今の世界には80の老人が居るなんて事態は皆無です」

 「大体が4、50台。80を超えるようなご老体など」


 いはしないのだ。皆死んでしまったのだから。

 だから。


 この老人は。


 「あっ!!」

 「ニートさ――んっ!!」


 え?


 「うわぁニートさん居たっ!! 探しましたよぉこんな所に居たんですかっ!?」


 アレは……。


 「残ってる住人さんに聞いたんです。こっちの方に行ったってっ!!」

 「見つかって良かったです――っ!!」


 うわ、あ……。


 「そうか」


 あ。


 「この時代にはもうそんな老人は居ないのかい。ふん、情報が古かったな」


 やめろ。

 

 「教えてくれてありがとう若い人。お礼に」


 今は。


 「苦しめながら殺してやるよっ!!」


 ああ、やっぱりか……。

 彼は。

 

 「人狼」だ。


 「え、なにっ!?」


 老人が体をメキメキと変形させながら己の肉体を変化させていく。

 体中から毛が伸び初め、牙の露出していく。その姿はまるで。


 「狼っ!? ひ、人が狼にっ!?」


 正解だよ智代ちゃん。これは人狼。今の世に生体IDが普及した訳。

 夜、ID不携帯で出歩けない理由。

 

 これが人狼だ。夜、民家に入り込んで人を殺す「怪獣」

 恐らくマリスの置き土産だろう。


 ああ、くそ。智代ちゃんが居た状態じゃ。

 変身出来ないっ!! くそっ!!


 「うわああああああああ——————っ!! あっ!!」


 とりあえず彼女に危機を知らせる為、大声を出して人狼から逃げてみる。

 そうすれば彼女も一緒に逃げてくれる筈で。


 「ま、まさかこれが話に聞いてた人狼っ!?」

 

 ああ、そうだしまったっ!! 彼女は超兵だったんだっ!!

 智代ちゃんが手提げバックから注射器を取り出して自らの手に打った。

 恐らく超兵になる為の薬剤だろう。


 人狼と同じように智代ちゃんの体がみるみる大きくなっていく。

 それと共に彼女の肉体が銀色の外骨格に覆われる。

 人間らしい肌色の肉体が失われ、機械的にも見えるその様相は。

 変化時、服が破れ裸になる事を考慮しての「配慮」の一面がある。


 そうして銀色の巨人になって智代ちゃんが人狼へと向かっていく。

 ああ、やめてくれ……。こんな市街地で戦闘なんて……。


 身長約2m台の人狼に5mの智代ちゃんが迫る。

 武器は携帯していなかったのだろう。そのまま素手で。


 超兵は変化時、外骨格に覆われ、その皮膚は硬い。

 ならば素手でも十分攻撃力があると思われるが……。


 だが、駄目だ。


 「受け止めたっ!?」

 「ぎひひ。これが話に聞いてた超兵って奴か。データにあるぞぉう」


 「喋ったっ!! くそ、この怪獣めっ!!」


 人狼の筋力は超兵のそれを超える。

 ああ、というより。


 「な、なに? 体が……。大きくなってるっ!?」


 人狼は相手の兵力との差を合わせるのだ。

 昔大型ロボットが主戦力だった頃、10m台に変化した事もある。


 人の世に紛れ、闇夜に乗じて人を狩る。そういうコンセプトの「怪獣」

 それが人狼だ。


 そして。


 「く、くそ……っ!! ち、力が強いっ!! 超兵の私よりっ!!」

 

 そして、その戦力は一般的な50m級怪人より強い。

 大きさと威圧感で人々を恐怖に陥れる怪獣と。


 人狼のような、陰湿さと知性を持ち合わせ。

 単純に強い。そんな怪人。


 マリスの行動原理はともかく「嫌がらせ」に尽きる。

 だからこそ人が嫌がるように設計されたのが人狼。


 見つけて、問いただし。「捕らえる」

 それが出来ない。

 人狼は強い。超兵一人ではどうしようも出来ないだろう。


 下手すれば都市一つ潰すくらいの戦力だ。攻撃すればする程手に負えなくなる。

 人に紛れる。という性質の癖に露見させれば強い。

 そんな嫌がらせの為に作られた怪獣。

 そうして人狼を問いただして、いくつもの都市が消えた。


 人狼と戦うのであれば予め設定した「裏山」におびき寄せて戦う必要がある。

 こんな市街地で戦うのは……。


 「うぉおおおおおおおおおおおおおおお————っ!!」


 智代ちゃんが人狼に向かっていく。

 超兵一人では勝てない。しかし彼女は向かってしまった。


 閑静な住宅街の一角で人狼と超兵の殴り合いが始まってしまう。

 超兵と化した智代ちゃんの拳が人狼にヒットする。


 そしてわざとかくらいの距離を飛んで民家を圧し潰して倒れる。

 わざとだ。


 周囲に被害を与える為わざと民家に飛んで倒れた。

 嫌がらせの為に。


 「てやああああああああああああああああ——っ!!」


 それに気付かず、智代ちゃんが倒れた人狼に向かっていく。

 そうして馬乗りになって人狼の頭を殴っていく。


 そんな事で死ぬような相手ではない。やられた風の態度も演技だ。

 鋼鉄よりも硬い毛が人狼の体をしっかりガードする。


 だがむき出しの皮膚も硬い。

 人狼とはマリスの「嫌がらせ」の概念を深く受け入れた珠玉の「兵士」なのだ。


 「な、なななななっ!! なにっ!? 何事っ!?」


 あ、彼女は宮田さんっ!! しまった騒ぎを聞きつけて様子を見に来たかっ!!

 これは……。


 人狼が彼女を声を聞き、目をぎょろりと動かして一瞥する。

 やっぱりっ!! くそっ!!


 俺は宮田さんの元へ急いで走り出した。俺の見立てが確かなら。

 馬乗りにされていた人狼が智代ちゃんの腹部を思い切り蹴って、彼女を吹き飛ばす。

 

 飛ばす。その先は。

 

 「え?」


 宮田さんのところっ!! 人狼は智代ちゃんを飛ばして宮田さんをぺしゃんこにするつもりだった。

 最大限周囲に被害を与えながら立ち回る。人狼の本能のようなものだ。

 

 「危ない宮田さんっ!!」


 俺は彼女を抱きながら、向かう智代ちゃんの尻から彼女を救出する。

 巨大化した智代ちゃんが民家を破壊しながら転がりまわる。


 立ち上がるが、瞬間大きく吐血する。周囲の住宅地に彼女を血が飛び散り汚していく。

 しかし再生剤の効果で体の修復が完了し、再び彼女が人狼へと向かう。


 泥仕合の様相。人狼と智代ちゃんが取っ組み合いになりながら民家を壊していく。

 被害が、広がっていく。


 「宮田さんっ!!」


 俺は抱きかかえた彼女に呼びかけるが、返事がない。

 どうやら事態に動揺し気絶したようだ。


 気絶。そういう、事なら……。


 

 「変身」


 

 俺の手のひらをギュッと握り、自らを「成らせた」

 アンノウンに。


 今は、それしかない。

 


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