第98話 テレビテレビ……。テレビを求めてご近所を。
「ここも、留守、か……」
地区の人々にテレビを借りるベき、住宅地に移動し色々回ってみる。
だが、平日の午前という事もありあまり人が居ない。
いや、だが普段は井戸端会議に勤しむ主婦層のご婦人方は居る筈だ。
ここ20年人口増加の意味も兼ねて、子供が居る世帯の男性の給料を上げる制度がある。
その制度を使い専業主婦となって子供を育てるスタイルが現在確立させている。
子育て世代と独身世代では倍以上の給料の差がある。故に共働きが少ない。
全ては人口増加の為。
モデルとしてベビーブームがあった昭和時代の家庭環境を再現している。のだとか。
妻と夫。そして子供2人くらいが家庭の理想。そうあって欲しい政府の思惑だ。
家庭を築いて、せめて2人くらいは子供作ってね。って話。
俺も子供が居たら奥さんに家庭を任せてお仕事に行ったりしてぇ……。
おっと。やめとこやめとこ。
そんな訳で平日でも家庭の奥さんが掃除したり、奥さん同士で話し合ったりしてた筈。
なんだけどぉ。
「人居ないなぁ……」
どうにも、留守が多い。
シンと静まり返った住宅街。まぁ最近はノア地区みたいな都会に住む事がトレンドみたいだけど。
みんなあっちに引っ越しちゃったのかな。
「警察を呼びますよっ!! 今電話しますから」
あら、人の声。良かったっ!! 人が居たみたいだっ!! あの人は宮田さんか。
この辺りに住んでるご婦人。まだ25歳。ピッチピチの若奥様だっ!!
彼女なら、テレビを持ってるんじゃないかな。
◇ ◇ ◇
駄目だった……。
彼女はテレビ撤去に関しての訪問を受けている最中だった。
まぁ地区外れのウチにも来るくらいだ。それなら一般的な住宅地ならば勿論来ているだろう。
うう……。テレビ。他にも伝手みたいなのはぁあ……。
無いんだよなぁ。あんまり知り合いとか居ないし。
まぁそういうのはなるべく絶ってたからどうも……。
しかし。
回収に来たのは、あそこだけ。
他の家には、来ている様子が無かった。
ならば政府は死傷者に関する情報を取得したのか。
ああ。そうだな。現状全国民には追尾出来る生体IDが組まれてるから。
そこから政府が。まぁ、死傷者の有無とかを調べたのだろう。
つまり。
「この付近で生きてるのは宮田さんだけ……」
そういう事になるか……。つまり他の人はノア地区に居て……。
最近はノア地区の人口過密が問題になってたけど……。
まぁ外出するとなったら、ノア地区に行くよなぁ。
あそこが一番都会だし。
かつての東京の繁華街をモデルに新しく生まれ変わったお洒落な街。
ショッピングに食事。遊ぶ所なんかも充実してて。
みんな出かけるとなったらあそこに行く。
でも本来は地区ごとに住人を分けて「いざ」と言う時に備えるのが本来で。
だけど、結局みんな都会の誘惑に負けてしまって……。
とほほ――。何人くらい死んだんだろ。
まぁ「ロード」されて戻ってくるから、死傷者は無い。みたいなものなんだけど。
それでも、やっぱりなんかねぇ。
人格データを保存して、そこから人物の複製を図る。
そんな夢みたいなほんとの話。
だからあのノア地区で死んだ人達も全て戻ってくるだろう。
でも。
それは本当に「本人」なのか?
って問題が出てくる。
だから平時においてはそれが使われる事はない。
しかし今はがっつりと戦時な訳で。
だから皆戻ってくる。
どう死んだか。って情報を忘れて。
まっさらになって帰ってくる。
持病も一緒に返って来るのだから今の再生技術は大したものだと思う。
思うけど。
思うけどさぁ。
そういう変な事気にせず、皆には穏やかに暮らして欲しいよねぇ。
ああ、これから沢山の再生人間が溢れる事になるのか。
ロードされる人格は定期的に行われる健康診断の時を参考している。
それがいつ行われるかは会社だったり学校の都合だったり様々だ。
だから戻ってきた人達の記憶は……。きっとまちまちだ。
ロードされた人達の記憶は診断を受けた後の記憶が無いのだから。
きっと色々揉める。それでも政府は情報を統制しようとするだろう。
戦時下という中の地獄……。
ああ、あんまり思い出したくないなぁ。
やっぱり平和に、穏やかに暮らすのが一番だよ。
その為にもその「根」をしっかり断たないと駄目なんだけど。
「テレビが無いとなぁ……」
もういっそ春美博士を頼ってしまうか? しかしそうなると「なぜ」という話になってくる。
その先の会話で俺の正体がバレる可能性だってある。
そうなれば、彼女を俺の戦いに巻き込んでしまう。
「一人でやらないと。一人で……」
そう。ずっとそうしてやってきた。アンノウンの力を他人にばらす訳にはいかない。
ああ、あの頃のニートに逆戻りだ。
これから色々ライブとか仕事とか挑戦出来たらなぁって思ってたんだけど。
「まぁ、無理だろうなぁ……」
先の展望というものが無くなり、少し憂鬱になる。
でも、俺がやらなければ皆死んでしまう。
たった30万人しか救えなかった。本当はもっと出来た筈だと思う……。
でも、それでも救えた命だ。
だから、この命尽きるまで。俺は……。
「後任とか……。無理だしなぁ」
ともかく俺が老衰で死ぬくらいになるまで頑張らないと。
新たな人生、新たな門出。
それを堪能するのはまだまだ先だ。
全部終わった頃には還暦になってそうだけど。
それで皆が救えるなら……。
「たかしくんが大人になるまで頑張らないと。たかしくんの子供とか……」
「ふふ、先走りすぎ?」
未来へのちょっとした希望。たかしくん。まぁツールも渡したし大丈夫だろう。
春美博士も。きっと無事だろう。アンノウンの力で、まぁ、分かる……。
まったくとんでもない宿命を背負ってしまったけど。
でも、それが俺にしか出来ないなら。
「やるしかないよなぁ。京子」
ふふふ。よしっ!! 元気出てきたぞっ!!
アンノウン・ゼロ。こと鷹司京介。
本日再稼働っ!! あはは。
さて、そう言う訳でまずはテレビを探しに行かないとなぁ。
色々とやりにくい事もあるけど、まずあの世界に慣れないと。
だからこそテレビは是が非でも入手したいっ!!
んだけど、どうしようかなぁ。
俺はちらりと、無人であろう空き家を見る。
そこでちょっと……。ああ、だめだめっ!! 泥棒なんてっ!!
それでなくとも化け物みたいな力を持ってるんだから。
強い力を持ってるからこそ責任がどうとかってテレビも言ってたぞっ!!
心まで化け物になってはいけない。
まぁ智代ちゃんの剣を取ってった件はぁ……。あ、あれは没収だからっ!!
ともかく泥棒はNG。
正攻法でテレビ探さないとなぁ。
うん?
あ、あそこに人が居る。
えっと。
見た事ない人だなぁ。おじい、さん……?
なんか、様子。おかしいような。
まさか。
まさか、ねぇ……。




