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第24話 大切なものを自分で壊した

 美織は何度も牧子に電話をかけ直した。


 するとLINEの電話がかからなくなった。しばらくコール音がかかると「応答できません」というテキストが表示される。


 慌てて千花に通話するがしばらくすると「応答できません」。

 

 ブロックされたのだ。さあっと頬から血の気が引く。


 すると母からのLINEの通知があり、一度家に帰った。

 

 深夜、母から解放された美織は電話、メール、SMS、SNSと千花と牧子にあらゆる手段で千花と牧子にコンタクトをとった。


 しかし、全て表示されない。電話をかけても「おつなぎできません」と流れるだけだ。

 

 全て二人からブロックされたのだ、と深夜二時になって悟った。

 

「どうして……」

 

 千花と牧子は帰ってくるはずだったのに。

 

 美織は行き場もなくSNSに籠った。


『なんで』『私は悪くない』『寂しかっただけ』。


 そんな言葉を誰も見ていない場所に投げる。


 もちろんなんの反応もない。

 

 ポストをするのが虚しくなって、ずっとタイムラインを見る。


 美織はフォロー数が少ないがおすすめ欄にはそれなりに他人のポストがある。それをじっと眺めている。

 

 更新。眺める。尽きる。更新。

 

 それを繰り返しているとふとあるポストが目にとまった。

 

『真の弱者は憎い相手ではなく、助けてくれようとした相手に攻撃をする』

 

「……私のことじゃん」

 

 美織はぽいとスマートフォンを布団に投げた。


 そのままじっと暗い天井を見上げていた。そのまままた母との朝が来る。

 

 牧子と千花、毒親同盟を失ってしまった。


 唯一の支えだったのに自分で壊してしまった。もう時間は戻らない。




 

 牧子は暗い目でスマートフォンを見下ろしていた。しばらくそうしていると声をかけられた。

 

「……牧子、どうかしたの?」

 

 千花だった。さっきまで青くなって寝ていたはずだ。親が待ち伏せしたショックで自宅に帰れなくなり、牧子の家に泊まっている。


 本人は帰ると震えながら言っていたが、過呼吸になった姿を思うと引っ越し先が決まるまで泊めると牧子が決めていた。

 

「千花……美織と電話したよ。やっぱり美織が親に住所バラしたみたい」

「……やっぱり、裏切ったのは美織だったんだ」

 

 千花は目に涙をにじませて爪を噛んで俯いた。

 

「美織、なんで? 私たちあんなに話したのに……でもどこかで分かってた。美織はおかしい。母親に執着してどんな目にあっても親孝行って言葉にこだわった……でもまさか本当に毒親同盟を裏切るなんて。許せない、親に住所を教えるって私を殺すようなものなのに」

 

 牧子は千花の手を取るとソファへ導いた。


 柔らかなソファで手を繋いでいると千花は少し落ち着いたようだった。その様子を見て牧子はスマートフォンを千花に示した。

 

「千花、今日で毒親同盟は解散しよう。美織は助からなかった。美織は私たちを売った。もう繋がっていることはできない」

「……うん」

「美織と繋がりを絶とう。全部ブロックしよう」

 

 千花ははっと顔を上げたがすぐに頷く。


 千花の脳裏に父親が待ち伏せしていた瞬間の絶望が思い浮かぶ。


 牧子が一緒で本当に助かった。牧子は父親を平手打ちして怒鳴った。その姿を見て千花は震える足でなんとか立ち上がった。


 父親は驚くほど小さくなり、捨て台詞を残して去っていった。

 

「そうだね……ブロックするしかないね」

「……うん、私はともかく千花にとって美織はあまりにも危険だよ。私も怒ってる。やっていいことと悪いことがある」

「分かった……」

 

 まだわずかな未練を残したが千花は美織のLINEをまずブロックして、電話番号を着信拒否にした。


 メール、SNSと一つずつブロックしていく。その姿を見て、牧子も一つずつ美織をブロックしていく。


 毒親同盟が助けられなかった美織を断絶していく。それは胸がすくというより無力感を感じた。

 

「美織はどうして助からなかったんだろう。牧子はずっと待っててくれたのに」

「分からない。美織は千花と違って、私とあまりLINEのやりとりをしなかったから……ただ、母親との共依存だと思う。それがあまりにも強固で私たちの声は届かなかった。美織は私たちと違った。親を毒親だと受け入れられなかった」

「信じられないな……私、美織の愚痴をいっぱい聞いたよ。お母さん、いつも酷かった。美織に愚痴を押し付けて、お菓子も無理やり食べされて、精神科にかかることだって許さなかった。どうしてそんなお母さんを庇うの?」

「あくまで本の知識だけど、子供は親から虐待されると自分が全部悪いと思うことがあるんだよ。子供にとって親は絶対。親から見放されたら生きていけない。だから、親に嫌われたと思うと自分が悪い子だからだ、いい子になれば好きになってくれる。そんな風に認知を歪めていくのよ」

「でも……美織はもう大人でしょ?」

「そう思ったのがきっと間違いだった。美織は子供のままだった。身体は大人でも心は親を求める子供のままだったんだよ」

 

 しばし沈黙が通り過ぎる。丁度、二人とも美織を全てブロックし終えた。


 じきに千花は引っ越す。もう美織との繋がりはなくなる。

 

(私は住所を変えない。美織が手紙を送ってきたら……)

 

 そんな夢想に牧子は首を振った。


 さっきの電話で分かる。美織は無理なのだ。母親への隷属を選んだ。

 

「千花、篠田さんには連絡しなくていいの?」

 

 篠田は千花の付き合ってる男だ。牧子も会ったことがあるが優しい男で、これならと思った。


 しかし千花は首を横に振る。

 

「別れたの……篠田さんは優しい人だった。でも優しい親に育てられてて、親孝行を大切にする人だった。言われたの。結婚するなら私の両親に会いたいって、それが人間として当然だって」

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