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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第二章 「罪人」、偽名で街に忍び込む

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第九話 罪人、「詐欺」に手を染める

マルグが見えてきたのは、それからしばらく歩いたあとだった。


「……あれかな」


森と草原の向こうに、低い石壁で囲まれた町が見える。茶色や白の屋根がいくつも並んでいて、王都みたいな巨大な城壁も、空を塞ぐような城もない。


町の前には街道が通り、荷車や人が行き来していた。


「マルグ?」


隣を歩いていたユラが聞く。


「たぶん」


「はちみつある?」


「着いて最初に探すもの、それなの?」


「ある?」


「町なら……あるんじゃないかな」


「ほんと?」


ユラは嬉しそうに僕を見る。


確証はない。


でも、ないとは言いにくかった。


僕たちは街道の端を歩きながら町へ近づいていく。


人が増えてきた。荷車を引く商人に、剣や弓を持った人。王都から追手が来ているかもしれないと思うと、その一人一人が少し怖い。


「……その前に」


外套の内側を確認する。


角兎から取った角が二本と、小さな魔石が二つ。それから、ゴブリン狩りの男にもらった極小魔石が一つ。


町へ着いても、お金がなければ宿にも泊まれない。


「まず、これ売らないとね」


「うる?」


「お金にする」


「はちみつ?」


「だから、その前に宿」


ユラは納得していない顔だった。


町の門が見えてくる。


その少し手前、街道から外れたところに簡単な屋根を組んだ店があった。


皮、牙、角、乾いた薬草。いかにも魔物や獣から取ったようなものが、無造作に並べられている。


店というより、露店に近い。


ちょうど武器を持った男が小さな袋を店主へ渡し、代わりに何枚か硬貨を受け取っていた。


「あそこなら売れるかな」


ユラと一緒に近づく。


店番をしていた男が、僕を見るなり聞いた。


「売りか?」


「あ、はい」


話が早い。


布に包んでいたものを台の上へ出した。


角兎の角が二本。小さな魔石が二つ。極小魔石が一つ。


男はまず角を手に取り、切り口を確認した。


「角兎か」


「はい」


「解体したのは?」


「僕です」


男が僕の顔を見る。


「初めてだろ」


「……わかります?」


「そりゃな」


やっぱり。


「線から外れちゃったりして」


「線?」


「あ」


僕にしか見えないんだった。


「なんでもないです」


男は怪訝そうな顔をしたけれど、それ以上は聞かなかった。


「まあ、角そのものには傷がない。こっちの魔石も使える」


最後に極小魔石をつまむ。


「これはゴブリンか」


「それは、もらったものです」


「ふうん」


全部を台へ戻すと、男が手を出した。


「狩猟札」


「え?」


「持ってないのか?」


「……はい」


忘れていた。


王都を出たところで会った男が言っていた。


魔物を倒すだけならともかく、角や魔石みたいな素材を取って売るなら、狩猟の許可がいる。


「じゃあ、買ってもらえないですか?」


男は鼻で笑った。


「誰がそんなこと言った」


「え?」


「二十銅」


「全部で?」


「全部で」


安いのか高いのかも、まだわからない。


僕が迷っていると、男が続けた。


「狩猟札持って組合通しなら、もう少しまともな値になる」


「どれくらいです?」


「状態次第だが、三十前後じゃねえか」


「…………」


かなり違う。


「なんでそんなに安いんですか?」


「こっちは、どこでどう取った素材か聞かねえからだよ」


男が僕を見る。


「札なしの素材を買うってのは、そういう値段だ」


なるほど。


僕には狩猟許可がない。


正規の店へ持っていけば、当然それを確認される。


「嫌なら門の中で売ってみろ」


「狩猟札、聞かれますよね」


「まともな店ならな」


選択肢がなかった。


「……お願いします」


「毎度」


二十銅貨。


本来ならもっと高く売れるものを、かなり安く手放したらしい。


それでも、ゼロよりはいい。


男が出したのは銀色の硬貨が二枚だった。


「……これで二十?」


「あ?」


「すみません。このお金、初めてで」


男が少し呆れた顔をする。


「銀貨一枚で銅貨十枚だ」


「なるほど」


銀貨二枚で、二十銅貨。


初めて手にした、この世界で本当に使えるお金だった。


「ユラ」


「なに?」


「お金になった」


ユラが僕の手を見る。


「はちみつ?」


「まだ言うの?」


「買える?」


「宿代がわかってから」


耳が少し下がった。


「そんな顔しないでよ」


店を離れる。


角兎を二匹倒して、自分で解体までして二十銅貨。ちゃんと許可があれば、もっと高く売れたらしい。


この先も素材を売って生活するなら、この差はかなり大きい。


「……狩猟許可、欲しいな」


「しゅりょう?」


「取った素材を、ちゃんと売れるようにする許可」


「とる?」


「町の商業組合で申請できるらしいんだけど……」


「いく?」


「うーん」


本当に行って大丈夫なんだろうか。


僕の情報が商業組合まで回っていたら?


そもそも、身分を証明するものも何もない。


今のところ僕が素材でお金を稼ぐなら、許可なしで取ったものを、こういう店へ安く売るしかなさそうだった。


「……世知辛い」


「せちがらい?」


「気にしないで」


町の門へ向かうにつれて、さらに人が増えた。


荷車を引く商人。大きな荷物を背負った人。武器を持った人。子どもの手を引いて歩く家族。


その景色を見て、少し不思議な気持ちになる。


地下牢。


兵士。


逃亡。


ゴブリン。


この世界へ来てから、そんなものばかり見ていた。


でも、ここでは普通に働いて、買い物をして、家族と歩いている人がいる。


当たり前なんだけど。


異世界にも、普通の生活があるんだ。


「ユウ」


ユラの声で我に返る。


門の脇には兵士が立っていた。


身体が少し固くなる。


王都で僕を追っていた兵士とは装備が違うし、こちらを気にしている様子もない。それでも、兵士を見るだけで緊張した。


「……大丈夫」


誰に言ったのかわからない。


ユラの手を取って、列の最後に並ぶ。


前の人たちを見ると、札を見せて通る人もいれば、名前を告げる人、硬貨を払う人もいる。


順番が近づいてきたところで。


気づいた。


「……名前」


榊優。


王都では僕の名前を知られている。


もし手配がここまで届いていたら、本名を名乗った瞬間に捕まるかもしれない。


「ユラ」


「なに?」


「ちょっとだけ、僕に合わせてね」


「?」


説明する前に、順番が来た。


兵士が僕を見る。


「身分証は?」


「……ありません」


「初めてか?」


「はい」


「名前」


わかっていたのに、聞かれると頭が真っ白になった。


「……ユウトです」


自分の名前を少し変えただけ。


もっと何かあっただろうと思うけど、もう遅い。


兵士が手元の紙へ何かを書く。


「出身」


「…………」


日本。


とは言えない。


「サカキ村です」


言ってしまった。


あるんだろうか。


サカキ村。


「仕事は?」


「えっと……雑用を」


昨日からずっと雑用の人になっている。


兵士が顔を上げた。


怪しまれたかと思ったけれど、視線は僕を通り越してユラへ向かう。


「そっちは?」


「妹です」


言ってから気づいた。


無理がある。


少し尖った耳。


緑色に光る髪。


僕と同じ種族にすら見えない。


兵士が僕とユラを見比べた。


「妹?」


「血はつながってません。家族みたいなもので」


急いで付け足す。


ユラが僕を見る。


お願いだから、今は何も言わないで。


少しの沈黙。


心臓が速くなる。


でも兵士は、再び紙へ何かを書いただけだった。


「入街税。二人で銅貨四枚」


「……通っていいんですか?」


「税を払えばな」


「はい!」


銀貨一枚を渡す。


銅貨六枚が返ってきた。


これで残りは十六銅貨。


「行っていいぞ」


「ありがとうございます」


ユラの手を引いて門を抜ける。


その瞬間。


目の前に文字が浮かんだ。


【条件を満たしました】


【技能【詐欺 Lv1】を取得しました】


「…………」


詐欺。


名前。


出身。


仕事。


妹。


ほとんど嘘だった。


「……まあ、そうなるか」


「ユウ?」


「しっ」


慌てて指を口元へ持っていく。


「ここではユウトね」


「ユウト?」


「そう。人がいるところでは」


「なんで?」


「僕の本当の名前を知ってる人に見つかると、困るかもしれないから」


ユラは少し考える。


「ユウト」


「うん」


「ユウト」


「うん」


「ユウト」


「何回呼ぶの」


ちょっと楽しそうだった。


町の中は、王都とは全然違った。


道の両側に店が並んでいる。


野菜、肉、布、鍋、果物。焼いた魚みたいなものに、見たことのない道具。


知らない匂いと声が、あちこちから飛んでくる。


つい周りを見てしまう。


「ユウト」


「なに?」


返事がない。


見ると、ユラが立ち止まっていた。


視線の先には、小さな瓶がいくつも並んでいる。


中身は黄金色。


「……もしかして」


ユラの翠色の瞳が輝いた。


「はちみつ」


本当にあった。


「すぐ見つけたね」


「買う?」


「値段を聞いてからね」


店の人へ声をかける。


「これ、いくらですか?」


「二銀」


二銀。


つまり二十銅貨。


今の全財産は十六銅貨。


「…………」


そもそも買えなかった。


「ユラ」


「うん」


「足りない」


「…………」


ものすごく悲しそうな顔をされた。


「いや、僕だって買ってあげたいけど、お金がないんだから」


「はちみつ……」


「また稼ごう」


その時、瓶の横に小さな焼き菓子が並んでいるのが見えた。表面が少しだけ光っている。


「これも蜂蜜ですか?」


「ああ。薄く塗ってあるよ」


「いくらです?」


「二銅」


それなら買える。


ただ、手持ちは十六銅貨。


まだ宿代もわからない。


少し迷って、ユラを見る。


蜂蜜の瓶をずっと見ていた。


「……一つください」


銅貨二枚を渡す。


残り十四銅貨。


受け取った焼き菓子を半分に割った。


「はい」


「はちみつ?」


「ちょっとだけね」


ユラが口に入れる。


もぐもぐ噛んで。


止まった。


「……どう?」


翠色の瞳が大きくなる。


「おいしい」


「そんなに?」


「おいしい」


今度は小さくかじった。


大事に食べているらしい。


僕も残りの半分を食べる。


少し固くて、甘さも控えめだった。


でも今日は、朝から何もかもがありすぎた。


疲れた身体には、その少しの甘さがものすごく美味しかった。


「ユウト」


「ん?」


「もう一個」


「無理です」


「なんで?」


「本当にお金がなくなるから」


「…………」


「またその顔」


財布を確認する。


銀貨一枚と銅貨四枚。


十四銅貨。


角兎を二匹狩って、素材を売って、町へ入って、蜂蜜のお菓子を一つ買った。


それだけで、もう六銅貨減っている。


この世界で生活するって。


思っていたより、ずっとお金がかかるらしい。


「まず宿を探そう」


「ねるところ?」


「うん。今日はさすがにベッドで寝たい」


町を歩き始めて、すぐに別の問題へ気づいた。


「……字が読めないんだよな」


店先には看板がある。


でも、僕には読めない。


言葉は通じるのに、文字は全然わからない。


「ユラ、読める?」


「よめない」


「そっか」


二人揃って駄目だった。


仕方なく、絵の看板を頼りに歩く。


少し進んだところで、ユラが僕の袖を引いた。


「ユウト」


「なに?」


「あれ、とり」


指差した先に、赤い鳥が描かれた看板がぶら下がっていた。


ちょうど建物から荷物を持った人が出てくる。一階の窓からは、食事をしている人たちも見えた。


「……宿かな」


扉の前まで行き、中を覗く。


カウンター。


階段。


食堂。


たぶん、宿だ。


財布を見る。


十四銅貨。


「……泊まれるといいけど」


「はちみつ買ったから?」


「それは言わない約束で」


「やくそくしてないよ」


「そうでした」


ユラが少し笑った。


僕も笑って、扉を開ける。


この世界に来て初めて。


今夜眠る場所を、自分のお金で探し始めた。

榊 優 Lv.2

天職:【罪人】

【解錠 Lv.2】

【窃盗 Lv.1】

【密猟 Lv.1】

【詐欺 Lv.1】


ユラ Lv.1

【芽吹き Lv.1】


今回の変化

優:【詐欺 Lv.1】取得

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