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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第一章 「罪人」、認定される

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第六話 罪人、初めてゴブリンを見る

「王都各門を封鎖しろ!」


城壁の向こうから響いた声に、休んでいた身体を起こした。


「……行こう、ユラ」


「うん」


王城からは出られた。


でも、まだ王都の中だ。


ここで捕まったら、あの水路を這ってきた意味がない。


濡れた外套をできるだけ深く被り、ユラにも頭を隠してもらう。


「苦しくない?」


「だいじょうぶ」


「なるべく僕から離れないでね」


「うん」


建物の陰へ入り、狭い道を進んだ。


大きな通りには出ない。


兵士の姿を見つけるたびに引き返し、人が多い場所も避けた。


あちこちから声が聞こえる。


「黒髪の少年と亜人の少女だ!」


「城門へ向かわせるな!」


たぶん、僕たちのことだ。


黒髪の学生服姿と、裸足の小さな女の子。


外套を盗んでおいてよかった。


百円玉では買えていないけど。


「ユウ」


ユラが僕の袖を引いた。


「なに?」


「あっち」


細い路地を指している。


「何かある?」


「お水」


また水だった。


僕には何も感じない。


でも、王城から出られたのもユラが水を見つけたおかげだ。


「行ってみよう」


路地を進む。


建物が少なくなっていく。


やがて、石で固められた細い水路に出た。


水は王都の外側へ向かって流れている。


「これ、外まで続いてる?」


「たぶん」


「たぶんかあ」


僕だって他に案はない。


水路に沿って進んだ。


しばらくすると、巨大な壁が見えてくる。


王城を囲んでいたものより、さらに大きい。


「……あれが王都の壁か」


その手前には兵士がいた。


門の方は特に多い。


正面から出るのは無理だ。


僕たちは建物の陰を通りながら、水路を追った。


水はやっぱり壁の方へ流れている。


そして壁の根元。


小さな排水口があった。


「……あった」


ただし。


やっぱり鉄格子付きだった。


「ですよね」


もう驚かない。


鍵へ触れる。


【解錠可能】


開けることを意識した。


カチリ。


「あれ?」


王城で鍵を開けていた時より、少し早い。


ほんの一瞬だけど、触れてから鍵が外れるまでが短くなっていた。


【解錠の熟練度が上昇しました】


「……これがLv2ってことかな」


確かめている暇はない。


鉄格子を押す。


開いた。


「行こう」


「うん」


また水路だ。


今日だけで何回濡れればいいんだろう。


僕が先に入り、ユラも続く。


王城の水路より長かった。


途中で何度か止まり、外から人の声がしないか確かめながら進む。


やがて。


前に光が見えた。


「ユラ」


「うん」


出口から顔を出す。


人はいない。


草。


土。


その先には木々が広がっていた。


僕は外へ這い出した。


ユラも続く。


振り返る。


巨大な壁が、僕たちの後ろにそびえていた。


「……今度こそ」


王城じゃない。


王都の外だ。


「出た……」


その場に座り込みたくなった。


でも、壁の近くにいるのは怖い。


「もう少し離れよう」


街道も見えたけれど、そちらへは行かなかった。


兵士が追ってくるなら、まず探すのは道だと思う。


僕たちはそのまま近くの森へ入った。


木々の間まで来て、ようやく足を止める。


「疲れた……」


木の幹にもたれた。


ユラは地面にしゃがみ込んでいる。


王城の庭に出た時と同じように、土へ手をついていた。


木漏れ日の中で顔を上げる。


持ってきた水を少し飲む。


さっきまでより足取りもしっかりしている。


「ユラ、元気になった?」


「うん」


「すごいね」


「すごい?」


「……いや、何でもない」


僕は水を飲んだところで、ようやく少し息をついた。


王都から出た。


これで終わりじゃない。


どこへ行けばいいのかも知らない。


この世界のお金もない。


食べ物だって、さっき盗んだパンしかない。


でも。


少なくとも今すぐ兵士に囲まれることはなさそうだった。


「ユラ、パン食べ――」


枝が折れる音がした。


僕は口を閉じた。


ユラも音のした方を見る。


木の陰で何かが動いた。


「……なに?」


低い。


僕の胸くらいまでしかない。


緑がかった肌。


尖った耳。


汚れた布を身体に巻き、手には短い刃物を持っている。


見たことはない。


でも。


「……ゴブリン?」


ゲームなら、たぶんそう呼ばれる。


そいつがこちらを見た。


次の瞬間。


走ってきた。


「えっ」


速い。


刃物が振られる。


「うわっ!」


反射的に身体を横へ投げた。


刃が外套をかすめる。


「ユウ!」


「下がって!」


立ち上がろうとする。


ゴブリンがまた迫ってきた。


刃物。


こっちは素手。


無理だ。


勝てるわけがない。


どうにかしないと。


その時。


ゴブリンの持っている刃物に文字が浮かんだ。


【窃盗可能】


「……え?」


一瞬、意味がわからなかった。


でも。


パンと同じなら。


取れる?


ゴブリンが刃物を振り上げる。


「取れ!」


そう思った瞬間。


ゴブリンの手から刃物が消えた。


ずしり。


僕の右手に重さが来る。


「……できた」


【窃盗の熟練度が上昇しました】


ゴブリンも、自分の手を見る。


何もない。


これで。


武器がなければ――


逃げてくれる。


そう思った。


「ギャッ!」


全然そんなことはなかった。


ゴブリンが飛びかかってくる。


「うわっ!」


拳が飛んできた。


顔を逸らす。


鼻先をかすめた。


今度は爪。


腕で受ける。


「痛っ!」


外套が裂けた。


殴る。


引っ掻く。


掴もうとしてくる。


口を開けて噛みついてまでくる。


「ちょ、待って!」


待ってくれるわけがない。


刃物は僕が持っている。


刺せばいい。


頭ではわかる。


でも。


目の前の相手へ刃を向けた瞬間、手が止まった。


これを。


刺す?


生きて動いているものに?


ゴブリンの拳が飛んでくる。


「っ!」


身体を横へずらす。


次の腕もどうにか避けた。


掴まれそうになって振り払う。


また飛びかかってくる。


必死に身体を捻る。


何度目かわからない攻撃をかわした時、足がもつれそうになった。


「このっ!」


思い切り蹴った。


足がゴブリンの腹に当たる。


小さな身体が転がった。


「はっ……はっ……」


逃げよう。


今なら。


そう思った。


「ユラ、行――」


ゴブリンが起き上がった。


でも。


今度は僕を見ていなかった。


その視線の先にいたのは。


ユラだった。


「……え」


ゴブリンが走り出す。


「ユラ!」


ユラが固まった。


ゴブリンが手を伸ばす。


僕も走った。


持っている刃物を見る。


刺したくない。


怖い。


でも。


このままだとユラが。


「やめろ!」


追いついた。


無我夢中で、刃物を突き出した。


ぐっ。


手に重い感触が伝わった。


止まる。


刃がゴブリンの身体に入っている。


「…………」


息ができなかった。


ゴブリンが振り返る。


まだ動いている。


「え」


僕の腕を掴もうとする。


その向こうにユラがいる。


「まだ……」


刃物を引き抜いた。


赤いものがついていた。


手が震える。


でも、ゴブリンはまだユラの方へ行こうとしている。


「やめろ……」


もう一度刺した。


まだ動く。


「やめろ!」


もう一度。


それでも止まらない気がした。


何度刺したのかわからない。


気づいた時には。


ゴブリンは地面に倒れていた。


動かない。


森が静かだった。


「…………」


手から刃物が落ちた。


膝の力が抜ける。


その場に座り込んだ。


手が震えている。


息がうまく吸えない。


「僕が……」


殺した。


自分の手で。


ゲームじゃない。


倒したら消えるわけでもない。


目の前に身体が残っている。


僕が刺した。


何度も。


「ユウ」


ユラの声がした。


顔を上げた。


「ユラ……」


ユラが近くにいた。


慌てて立とうとする。


「怪我、ない?」


「うん」


「ほんと?」


「うん」


腕。


足。


顔。


見えるところには血もない。


「そっか……」


力が抜けた。


よかった。


その時。


目の前に文字が浮かんだ。


【経験値を獲得しました】


続けて。


【榊 優 Lv1 → Lv2】


「…………」


僕は地面に座ったまま。


その文字を見つめていた。

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