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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第一章 「罪人」、認定される

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第四話 罪人、少女の鎖を「開錠」する

男たちの足音が聞こえなくなっても、しばらく誰も喋らなかった。


ユラの腕には、まだ赤い跡が残っている。


「……痛い?」


「うん」


「さっき、大丈夫って言ってたよね」


「うん」


「でも、痛いんだよね?」


「痛いよ」


やっぱりわからない。


「じゃあ、どうして大丈夫なの?」


ユラは少し考えた。


「いつものだから」


同じ答えだった。


いつもされているから。


痛くても、嫌でも、それが普通だから大丈夫。


たぶん、そういうことなんだと思う。


僕は鉄格子の前に座った。


「ユラ」


「なに?」


「ここから出たい?」


ユラが僕を見る。


「……出る?」


「うん。ここじゃないところに行きたいとか」


ユラは黙った。


僕は聞き方を間違えたのかもしれない。


「外とか、見たくない?」


「外」


「うん」


少しして、ユラが小さく頷いた。


「……見たい」


初めてだった。


人間のものだから。


逃げちゃ駄目だから。


涙は人間が使うものだから。


そんな答えじゃなかった。


「じゃあ、出ればいいんじゃない?」


ユラが不思議そうな顔をした。


「駄目だよ」


「どうして?」


「私、人間のものだから」


またそこに戻った。


「人間のものだと、外に出ちゃ駄目なの?」


「うん」


「誰が決めたの?」


「……?」


ユラが首を傾げる。


たぶん、そんなことを考えたことすらないんだ。


僕だって、この世界について何も知らない。


今日ここへ来たばかりだ。


ドライアドがどういう種族なのかも知らないし、この国にどんな決まりがあるのかも知らない。


だから、僕が間違っている可能性だってある。


それでも。


鞭で叩かれて。


痛いと言って。


嫌だと言って。


それなのに、人のものだから仕方ないなんて。


やっぱり、おかしいと思う。


「僕は違うと思う」


「違う?」


「うん」


どう言えばいいんだろう。


難しいことなんて説明できない。


だから、そのまま言った。


「ユラは、ユラのものだよ」


ユラが瞬きをした。


「私が?」


「うん」


「私のもの?」


「そう」


ユラは自分の手を見る。


鎖につながれた手。


それから、もう一度僕を見る。


「じゃあ」


少しだけ迷ってから、聞いた。


「外、見たいって思ってもいい?」


「いいよ」


「行きたいって言っても?」


「いいと思う」


また少し黙った。


それから。


「……外、行きたい」


今度は、はっきり聞こえた。


僕は立ち上がった。


「よし」


「?」


「じゃあ、出よう」


言ってから、自分のいる場所を見回す。


鉄格子。


鍵。


地下牢。


当然だけど、普通には出られない。


「……どうやって?」


「それを今考える」


勢いだけだった。


ユラが首を傾げる。


「出られない?」


「たぶん」


我ながら格好悪い。


でも、さっきまでとは少し違った。


待っていれば誰かが説明してくれる。


善や剣が何とかしてくれる。


そう思っていた。


今も、二人が僕のために動いてくれているとは思う。


だけど。


あの男たちは、あとでもう一度来ると言った。


それまで待っていたら。


またユラは鞭で叩かれる。


僕は鉄格子の扉を見る。


鍵穴がある。


当然、鍵は持っていない。


何となく手を伸ばした。


その瞬間だった。


目の前に文字が浮かぶ。


【解錠可能】


「……え?」


思わず手を引いた。


文字も消える。


もう一度、鍵に触れる。


【解錠可能】


やっぱり出る。


「何これ」


ユラがこちらを見る。


「ユウ?」


「ちょっと待って」


文字へ意識を向ける。


どうすればいいのかわからない。


でも。


開けたい。


そう思った瞬間。


カチリ。


小さな音がした。


「…………」


扉を押す。


開いた。


「え?」


僕とユラの声が重なった。


目の前に、新しい文字が浮かぶ。


【条件を満たしました】


【技能【解錠 Lv1】を取得しました】


「技能……?」


手を見る。


何も変わっていない。


鍵を見る。


開いている。


「開いた」


「うん」


「なんで?」


「ユウが開けた」


「そうなんだけど」


自分でも理由がわからない。


でも今は、それより先だ。


牢屋から通路へ出る。


誰もいない。


二つ先。


ユラの牢屋まで走った。


「今、開けるから」


鍵に触れる。


さっきと同じ文字が浮かんだ。


【解錠可能】


開けることを意識する。


カチリ。


【解錠の熟練度が上昇しました】


扉が開く。


ユラのところまで行った。


近くで見ると、思っていたより小さかった。


腕にも脚にも鎖がある。


壁につながれた金具へ触れる。


【解錠可能】


「これもいける……?」


カチリ。


金具が外れる。


【解錠の熟練度が上昇しました】


「わ」


ユラが自分の腕を見る。


反対側も。


足も。


一つずつ外していく。


そのたびに、同じ表示が浮かんだ。


最後の鎖が床へ落ちる。


じゃらん、と大きな音が地下牢に響いた。


ユラはしばらく動かなかった。


手首を見る。


足を見る。


それから、恐る恐る一歩だけ歩いた。


鎖はついてこない。


もう一歩。


「……歩ける」


「うん」


「どこまで?」


「え?」


「どこまで行っていいの?」


僕は少し考えた。


「ユラが行きたいところまでじゃない?」


「…………」


ユラが僕を見る。


ほんの少しだけ。


笑った気がした。


その時。


通路の向こうから音がした。


足音。


さっきとは違う。


何人もいる。


「まずい」


僕はユラの手を取った。


小さな手だった。


「怒られる?」


「うん」


「すごく?」


「すごく」


たぶん、それどころじゃない。


僕は牢から逃げようとしている。


しかも、王国が鎖につないでいた女の子まで連れて。


「ユウも?」


「たぶん僕が一番怒られる」


「そっか」


ユラが僕の手を握り返した。


足音が近づいてくる。


逃げ道なんて知らない。


この城の中がどうなっているのかも知らない。


捕まったらどうなるのかもわからない。


怖い。


ものすごく怖い。


それでも。


もう、元の牢屋へ戻る気にはなれなかった。


僕はユラの手を引いて走り出した。


この世界へ来て初めて。


僕は、自分の意思で法を破った。

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