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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第三章 「罪人」、森で密猟技術をあげる

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第二十一話 罪人、岩猪と戦う

翌朝、僕たちは昨日より少し多めの食料と水を持って森へ入った。


向かうのは、昨日森狼たちが来た北側だ。僕の左腕にはまだ薄く傷が残っているけれど、ユラの【緑癒】のおかげで、動かしてもほとんど痛くなかった。


「腕は」


「大丈夫です」


「脇腹は」


「そっちも大丈夫です」


「なら行くぞ」


グレンはそれだけ確認すると、先に歩き始めた。


昨日より森の奥へ入る。


しばらくは鳥の声が途切れず、枝の上を小さな獣が走る姿も何度か見えた。


途中、前方の茂みの向こうに細い脚が見えた。


昨日、グレンに教えてもらった森鹿だ。


一頭だけじゃない。


三頭いる。


僕たちとの間にはかなり距離があったけれど、森鹿たちはこちらを見ようともせず、木々の間を抜けて南へ走っていった。


グレンが足を止める。


「また南ですね」


「ああ」


昨日見つけた足跡も、北から南へ向かっていた。


僕は森鹿が消えた方を見たけれど、もう枝が揺れているだけだった。


グレンは追わず、地面へ視線を戻す。


僕たちもそのあとをついていった。


◇


森の奥へ進むほど、足元は歩きにくくなった。


太い木の根が地面から盛り上がり、場所によっては大きな岩まで顔を出している。足元を気にして歩いていると、前を行くグレンが止まったことに気づくのが少し遅れた。


「止まれ」


慌てて足を止める。


「何かいました?」


「まだ見えん」


グレンは右手の茂みを見ていた。


少しして、僕にも音が聞こえた。


枝が揺れる。


その奥から、土を掻くような音がする。


ユラがしゃがみ、地面へ手をついた。


【樹脈感知】。


「動いてる」


「どっちだ」


「こっち」


ユラが右を指す。


「速い?」


少し間を置いて、首を振った。


「まだ」


グレンが弓を手に取った。


その時、茂みが大きく割れた。


最初に見えたのは、茶色い塊だった。


猪に似ている。


でも、大きい。


僕の腰よりずっと高く、頭の横から太い牙が二本伸びている。


何より目につくのは身体の表面だった。背中から脇腹にかけて、灰色の岩みたいなものが皮膚を覆っている。


「……岩?」


「岩猪だ」


グレンが言った。


「前に立つな」


「はい」


岩猪が僕たちを見た。


鼻を鳴らし、前脚で地面を掻く。


「来るぞ」


次の瞬間、地面を蹴った。


速い。


あの身体から想像していたより、ずっと速かった。


僕とユラが左右へ逃げる。


グレンの矢が飛んだ。


岩猪の肩へ当たる。


甲高い音がして、矢が弾かれた。


「え」


ほとんど刺さっていない。


岩猪はそのまま木の横を駆け抜け、土を削りながら身体の向きを変えた。


「矢、効いてないですよ」


「岩皮にはな」


グレンはもう次の矢をつがえている。


「腹と脚の内側は普通の皮だ」


「先に言ってください」


「今言った」


岩猪がもう一度走り出した。


今度は僕の方だ。


「ユウ!」


ユラの声。


身体を横へ投げるようにして避ける。


岩猪がすぐ横を通った。


短剣を抜き、すれ違いざまに脇腹へ振る。


ガッ、と手に強い衝撃が返ってきた。


「っ!」


刃が弾かれる。


危うく短剣を落としかけた。


「そこは岩皮だ!」


「見ればわかります!」


「切ってから言うな!」


岩猪がまた身体をこちらへ向ける。


短剣では、あの灰色の部分を斬れない。


なら。


【密猟】を意識する。


岩猪の身体に淡い線が浮かんだ。


岩皮。


牙。


脚。


魔石。


獲物を処理する時に見てきた線だ。


岩猪が動いていても、岩皮の範囲は見える。


背中から肩、脇腹。


その下。


前脚の付け根では、灰色の岩皮が途切れていた。


「……そこ」


岩猪が地面を蹴った。


また来る。


「ユラ、離れて!」


「うん!」


僕も横へ動く。


でも、岩猪は途中で身体の向きを変えた。


こっちへついてくる。


「曲がるの!?」


「猪だぞ!」


知らないよ。


日本の猪とも戦ったことはない。


岩猪は地面の凹凸をものともせず、距離を詰めてくる。


その時、ユラが叫んだ。


「ユウ、左!」


考えずに左へ飛んだ。


直後、岩猪が僕のいた場所を駆け抜ける。


【技能【樹脈感知】の熟練度が一定値に達しました】


【樹脈感知 Lv2 → Lv3】


岩猪は止まらない。


グレンの矢が飛んだ。


今度は顔の横。


岩皮のない場所へ刺さる。


岩猪が激しく頭を振った。


「こっちだ!」


グレンが声を上げる。


岩猪がグレンへ向きを変えた。


走り出す。


「グレン!」


グレンは動かない。


岩猪との距離が一気に縮まる。


まだ動かない。


「危ない!」


ぎりぎりまで引きつけてから、グレンが横へ跳んだ。


岩猪はそのまま大きな木へ突っ込む。


鈍い音が森に響き、枝から葉が落ちた。


岩猪の身体も、一瞬ふらつく。


「今だ!」


僕は走った。


でも、近づいたところで岩猪が頭を上げる。


まだ動ける。


牙が目の前を横切った。


「うわっ!」


後ろへ転がる。


岩猪が僕へ身体を向けようとする。


ユラはもう地面へ手をついていた。


岩猪の後ろ脚の周りで草が伸びる。


【芽吹き】。


太い脚を縛れるほどじゃない。


岩猪が一度脚を動かしただけで、蔓は次々に千切れた。


それでも、ほんの一瞬だけ動きが止まる。


前脚の付け根が見えた。


岩皮が途切れている場所。


僕は立ち上がって走った。


短剣を両手で握る。


「っ!」


刃を突き込む。


今度は弾かれなかった。


皮を抜けて、奥まで入る。


岩猪が大きく暴れた。


「離れろ!」


すぐに手を離す。


岩猪が身体を振ると、短剣が抜け落ちた。


それでも倒れない。


血を流しながら、またこちらを向く。


「まだ……?」


グレンの矢がもう一本飛んだ。


僕がつけた傷のすぐ近くへ刺さる。


岩猪が大きくよろめいた。


「優!」


短剣は足元にある。


拾う。


岩猪が身体を沈める。


もう一度走るつもりだ。


怖い。


でも、今度は刃を入れる場所を探さなくていい。


地面を蹴る。


正面からぶつかる前に身体を横へずらし、前脚の内側へ回る。


さっきの傷。


そこへ短剣を突き込んだ。


深く。


岩猪が吠える。


腕ごと振り回されそうになる。


それでも押し込む。


やがて前脚が崩れ、大きな身体が地面へ倒れた。


しばらく脚が動いている。


それも少しずつ弱くなった。


やがて、動かなくなった。


僕はその場へ座り込んだ。


「……怖い」


口から勝手に出た。


グレンが岩猪へ近づき、目と呼吸を確認する。


「死んでる」


「それは……よかった」


息が切れている。


腕も痛い。


でも、血は出ていなかった。


ユラが駆けてくる。


「ユウ」


「大丈夫」


「ほんと?」


「たぶん」


少し考える。


「……大丈夫」


言い直すと、ユラは僕の腕や身体を見回してから頷いた。


「樹脈感知、三になった」


「やったね」


「うん」


それだけ言うと、ユラも倒れた岩猪を見た。


◇


グレンは岩猪の傷を確認していた。


僕が刺した場所。


自分の矢。


そして、岩のような皮膚。


「岩猪って、いつも人を襲うんですか」


「近づけばな。元から気が荒い」


「じゃあ、さっきのは普通?」


「襲ってきたこと自体はな」


グレンは岩猪の脚についた泥を見る。


「ただ、この辺まで出るのは少し珍しい」


「もっと北にいるんですか」


「普段はな」


また北だ。


グレンはそれ以上何も言わず、岩猪を横向きにした。


「優」


「はい」


「こいつもやるぞ」


「ですよね」


何をするのかは聞かなかった。


短剣についた血を拭き、岩猪の前へしゃがむ。


【密猟】。


線が浮かぶ。


岩皮。


牙。


肉。


魔石。


森狼より、ずっと複雑だった。


「これ、剥がせるんですか」


「岩皮は売れる」


灰色の表面へ触れてみる。


硬い。


本当に石を触っているみたいだった。


「一枚じゃ取れん。境目から外す」


グレンが岩皮の端を指す。


そこには【密猟】が示す線も走っていた。


短剣を差し込む。


「奥まで入れるな」


「はい」


「皮の下を滑らせろ」


森狼の時より力がいる。


それでも岩皮と普通の皮膚の境目に沿って刃を進めていくと、大きな一枚が外れた。


持ち上げる。


「重っ」


「落とすな」


「これ持って帰るんですか」


「持てる分だけな」


外した岩皮を地面へ置く。


【密猟の熟練度が上昇しました】


次は牙だった。


付け根を傷つけないよう肉を避けていく。形は見えているけれど、力をかける方向を間違えると途中で折れるらしい。


「引っ張るな。回せ」


言われた通りに少しずつ動かす。


やがて、大きな牙が外れた。


反対側も同じように処理する。


そのあとは胸を開いた。


「周りから外せ」


「はい」


グレンが示したところへ刃先を入れ、魔石の周囲を少しずつ切り離す。


最後に取り出した魔石を、グレンが受け取って袋へ入れた。


【密猟の熟練度が上昇しました】


「肉は?」


「持って帰れる分だけ取る。残りは目印をつけておく」


「あとで取りに来る?」


「村に人を連れてくる」


グレンはそのまま次の作業へ移った。


僕も横で、言われたところから肉を分けていく。


しばらくすると、小さな黒い虫が何匹か岩猪の周りを飛び始めた。


一匹が肉へ止まる。


グレンが手で払った。


「何ですか、それ」


「肉喰い虫だ。放っとくとすぐ増える」


「噛みます?」


「噛む」


「人も?」


「ああ」


一歩下がる。


さらにもう一歩。


グレンが僕を見る。


「そこまで離れなくていい」


「先に言ってください」


「今言った」


さっきも聞いた気がする。


◇


持てるものをまとめてから、僕たちはもう少しだけ北へ進んだ。


枝の上を小さな獣が走り、遠くでは鳥が鳴いている。時々、茂みの奥から何かが草を踏む音も聞こえた。


グレンはそのたびに周囲を見たけれど、足を止めるのは地面に何かを見つけた時だった。


「まただ」


呼ばれて近づく。


地面に足跡がある。


さっき教えてもらった岩猪のものだった。


「これも南?」


「ああ」


少し先には森鹿の跡がある。


さらに小さな獣の足跡。


どれもまっすぐ同じ方向へ進んでいるわけではない。それでも、グレンが拾っていく跡には北側から南へ抜けているものが多かった。


ユラも近くの木へ手をついた。


【樹脈感知】。


しばらく目を閉じる。


前より結果が出るのが少し早い。


「向こう」


ユラが北を指した。


「いっぱい?」


「うん」


そこから指を南へ動かす。


「こっち来てる」


【樹脈感知の熟練度が上昇しました】


グレンは地面の跡をもう一度見てから立ち上がった。


「今日は戻る」


「もういいんですか」


「岩猪まで持ってる。これ以上奥へ行けば帰りが面倒だ」


確かに、来た時より荷物はかなり増えている。


「明日は荷物を減らして、もっと奥へ入る」


グレンが北を見る。


僕も同じ方向へ目を向けた。


朝に見た森鹿。


昨日の森狼。


今日の岩猪。


グレンが拾った足跡も、ユラが感じた動きも、北から南へ向かっているものが多い。


岩猪がどうしてここまで来たのか。


森鹿がどうしてあんなふうに南へ走っていたのか。


まだ何もわからない。


その答えを探すなら、明日はもっと北へ行くことになる。


――――――――――

【現在のステータス】


榊 優 Lv.2

天職:【罪人】


【解錠 Lv.3】

【窃盗 Lv.2】

【密猟 Lv.3】

【詐欺 Lv.1】

【文書偽造 Lv.2】


ユラ Lv.1


【芽吹き Lv.2】

【樹脈感知 Lv.3】

【緑癒 Lv.2】


【今回の成長】


ユラ

【樹脈感知 Lv2 → Lv3】

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