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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第三章 「罪人」、森で密猟技術をあげる

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第二十話 罪人、森狼と戦う

翌朝、村を出る前にグレンが僕の脇腹を確認した。


傷の周りを何か所か指で押されても、痛みはほとんどない。昨日ユラに【緑癒】を使ってもらってから、かなり楽になっていた。


「痛むか」


「ほとんど大丈夫です」


「走ったら?」


「それは……やってみないと」


「なら無理に走るな。痛んだら言え」


「はい」


隣では、ユラが昨日より大きな水袋を背負っている。マルタが貸してくれたものらしい。


グレンが弓を背負った。


「今日は昨日より奥へ入る。森狼を狩るのが目的じゃない」


「どこから来てるのかを見る」


「ああ。行くぞ」


僕たちは、昨日羊を見つけた森へ入った。


◇


朝の森では、あちこちから生き物の音が聞こえた。


鳥の声が頭上を行き交い、茂みの中では小さな獣が走っている。


少し歩いたところで、前方の葉が揺れた。


何かいる。


足を止めると、木の陰から細長い顔がのぞいた。


鹿に似ている。


でも、日本で見たことのある鹿より毛の色が濃く、耳も少し大きかった。


「……鹿?」


ユラも僕の隣から顔をのぞかせる。


「あれ、なに?」


「森鹿だ」


グレンが答えた。


「森鹿」


ユラが繰り返す。


森鹿はこちらをじっと見ていた。


数秒して身体を見せると、そのまま木々の間を走り去っていく。


グレンがその背中を目で追った。


「珍しいな」


「珍しい?」


「森鹿は警戒心が強い。普通なら、人間に姿を見られる前に逃げる」


僕は森鹿が消えた方向を見る。


もう何も見えない。


「じゃあ、今のは僕たちに気づいてなかった?」


「それなら、もっと近くまで来る」


グレンは少しだけ周囲を見た。


「何かに気を取られてたのかもしれん」


「何かって?」


「知らん」


いつもの答えだった。


グレンはそれ以上考え込まず、地面へ視線を戻した。


何度か立ち止まりながら進み、やがて僕たちを手招きする。


「ここ」


足元を見る。


土の上に森狼の足跡が残っていた。その中の一つだけ、右前脚の爪跡が短い。


「昨日見た個体と同じ可能性が高い」


「もう先に言われるようになった」


「お前が言い切る前にな」


森狼の跡は、村とは反対側へ続いていた。


グレンの後ろを歩きながら地面を見る。


昨日までなら、ただ土と落ち葉しか見えなかった。でも今は時々、踏まれた草や削れた土が目に入る。


何の跡なのかまでは、まだわからない。


それでも、少しは見えるものが増えてきた。


しばらく進んだところで、グレンが突然足を止めた。


片手が上がる。


僕も止まった。


ユラもすぐ動きを止める。


森の音に耳を澄ます。


風。


葉。


鳥。


その中に、低い唸り声が混じっていた。


短剣へ手を伸ばしかけると、グレンが小さく首を振る。


まだ抜くな、ということらしい。


ユラが僕の袖を掴んだ。


「ユウ」


「なに?」


「いる」


小さな声だった。


その場へしゃがみ、指先を土につける。


【樹脈感知】。


少ししてユラが顔を上げた。


「前」


それから左を見る。


「そっちも」


グレンの手が弓へ伸びる。


「数は」


「わかんない」


「動いてるか」


「うん」


その直後、前方の茂みが揺れた。


灰色の身体が現れる。


森狼。


一頭。


低く身体を沈めたまま、僕たちを睨んでいた。


「下がれ」


グレンが言う。


僕とユラがゆっくり後ろへ下がった。


森狼は逃げない。


むしろ牙を見せながら、じりじりと距離を詰めてくる。


グレンが弓を構えた。


その瞬間だった。


「左!」


ユラの声。


振り向く。


木の陰から、もう一頭が飛び出していた。


「っ!」


短剣を抜く。


横へ逃げたつもりだった。


でも、遅い。


森狼の前脚が学生服を掠め、左腕に鋭い痛みが走った。


「痛っ!」


森狼は僕の横を抜けて着地し、すぐにこちらへ向き直る。


「止まるな!」


グレンの声が飛ぶ。


僕も短剣を構え直した。


怖い。


手が震える。


森狼が地面を蹴った。


今度は見えた。


横へ動く。


牙が目の前を通り過ぎる。


追わない。


角兎の時に言われたことを思い出す。


森狼が着地する。


身体を反転させる。


首が横から見えた。


僕は短剣を握り直して踏み込んだ。


「っ!」


刃が首元へ入る。


浅い。


森狼が暴れ、短剣ごと腕を持っていかれそうになる。


「離せ!」


グレンの声。


すぐに柄から手を離した。


森狼が身体を振ると、短剣が抜けて地面へ転がる。


血を流している。


それでも、まだ倒れない。


短剣は森狼の向こう側。


取りに行けない。


森狼が身体を沈めた。


また来る。


その時、足元の草が一気に伸びた。


細い蔓が森狼の前脚へ絡みつく。


「ユラ!」


ユラが片手を土についていた。


【芽吹き】。


森狼の身体が崩れる。


ほんの一瞬。


それだけで十分だった。


僕は地面へ落ちた短剣を拾い上げた。


森狼はもう蔓を引きちぎっている。


立ち上がる前に踏み込む。


首の下。


さっき傷つけた場所へ、短剣を深く押し込んだ。


森狼が激しく暴れる。


身体ごと押し返されそうになる。


それでも柄を離さなかった。


やがて脚から力が抜ける。


森狼が地面へ倒れた。


動かない。


僕は短剣を握ったまま、その場で息を吐いた。


手が震えている。


自分で倒した。


その感覚が、まだ身体についてこない。


「優!」


グレンの声で顔を上げた。


終わっていない。


最初に現れた森狼が、グレンへ向かって走っていた。


グレンが矢を放つ。


森狼は横へ跳んだ。


外れる。


そのまま一気に距離を詰めていく。


「グレン!」


反射的に身体が動いた。


「来るな!」


もう走り出している。


森狼の横から声を上げる。


「こっち!」


一瞬だけ、森狼の頭が僕へ向いた。


その間にグレンが数歩下がる。


次の矢をつがえる。


森狼が僕へ向きを変えた。


まずい。


「ユウ、右!」


ユラの声に従って右へ跳ぶ。


直後、森狼がさっきまで僕のいた場所を駆け抜けた。


弓弦の音が鳴る。


グレンの矢が森狼の脇腹へ深く刺さった。


森狼はそのまま数歩走り、地面へ倒れた。


しばらく動かない。


【樹脈感知の熟練度が上昇しました】


【芽吹きの熟練度が上昇しました】


グレンはすぐに周囲へ目を向けた。


「もう一頭いる」


「え?」


ユラも目を閉じる。


「向こう」


森の奥を指差した。


「離れてく」


グレンは弓を下ろした。


「追わないんですか」


「必要ない」


森狼が消えた方向を見る。


「北へ行ってる」


それだけ確認すると、倒れた二頭へ歩いていった。


◇


ユラが僕の左腕を見る。


学生服が裂け、その下から血が流れていた。


「痛い?」


「ちょっと」


ユラは水袋を下ろし、中を確認した。


それから僕を見る。


「治す?」


「お願いしていい?」


「うん」


グレンも傷を見る。


「先に洗え」


「はい」


水で傷口を洗う。


思った以上にしみた。


「……痛い」


ユラが僕を見る。


「すごい顔」


「水が痛いんだよ」


洗い終えると、ユラがしゃがんだ。


片手を土へ置き、もう片方を僕の腕へ近づける。


淡い緑色の光が広がった。


痛みが少しずつ引いていく。


流れていた血も止まった。


【技能【緑癒】の熟練度が一定値に達しました】


【緑癒 Lv1 → Lv2】


ユラが指を二本立てた。


「緑癒、二になった」


「おめでとう」


「うん」


ユラは水袋へ口をつけた。


グレンはもう森狼の方へ向かっている。


「終わったなら、こっち来い」


「はい」


◇


倒れた森狼を、村へ持ち帰れる形にする。


グレンは一頭目を仰向けにすると、僕へ短剣を渡した。


「こっちからやれ」


「僕が倒した方?」


「ああ」


【密猟】を意識する。


森狼の身体に何本もの線が浮かんだ。


角兎とも羊とも違う。


毛皮。


脚。


胸。


魔石。


前よりも、線が何を示しているのか考えやすい。


「皮からですか」


「そうだ。ここから入れろ」


グレンが首元を示した。


「線と少し違います」


「今取るのは皮だ」


「あ」


技能が見せる線と、作業の順番は同じじゃない。


短剣を入れる。


「立てすぎ」


少し寝かせる。


「そこ。押すな」


刃を滑らせる。


途中で何度か止められたけれど、一枚の皮として外せるところまで進めることができた。


【密猟の熟練度が上昇しました】


グレンはすぐに二頭目をこちらへ向けた。


「次」


「もうですか」


「疲れたか」


「……やります」


今度は、グレンの矢が刺さった森狼だった。


傷の位置が違う。


同じ種類でも、一頭目とまったく同じようには切れない。


「矢の周りは?」


「広めに避けろ」


「はい」


もう一度【密猟】を使う。


線を見る。


傷を見る。


筋肉の向きを見る。


グレンに教わったことを思い出しながら、短剣を動かしていく。


途中で、二つの線のどちらを先に進めるか迷った。


「ここ、どっちからですか」


「自分で決めろ」


「え」


「どっちだ」


少し考える。


「こっち。矢の傷から離れてるから」


「ならやれ」


短剣を入れる。


止められなかった。


そのまま進める。


胸を開き、魔石の位置までたどり着く。


周りを傷つけないよう刃を入れ、硬い石を取り出した。


【技能【密猟】の熟練度が一定値に達しました】


【密猟 Lv2 → Lv3】


「密猟、三になりました」


「そうか」


グレンは外した皮を指差した。


「畳め」


「はい」


昨日は、どこへ刃を入れるか一つずつ聞いていた。


今日は一か所だけでも、自分で順番を決められた。


少しずつ覚えている。


◇


持ち帰る肉や皮を縄でまとめる。


二頭を丸ごと運ぶのは難しいので、グレンが必要な部位を選んだ。


僕も持てる分を背負う。


ユラは、小さくまとめた皮を一つ抱えた。


「重くない?」


「だいじょうぶ」


グレンはすでに地面を見ている。


「もう少し見る」


指したのは、三頭目の森狼が消えた方向だった。


僕たちは再び森の奥へ進んだ。


少し行くと、森狼とは違う足跡もいくつか見つかった。


さっきグレンに教えてもらった森鹿のもの。


小さな獣のもの。


僕には何のものかわからない足跡もある。


グレンは何度か場所を変えながら、跡を確かめていく。


「多いな」


「何がですか」


「南へ動いてる」


足跡を指で示す。


「この森鹿も。こっちの小さいのもだ」


朝、木の陰から顔をのぞかせた森鹿を思い出す。


普段なら、人間に姿を見られる前に逃げる。


あれも、北から来たんだろうか。


ユラがしゃがみ、土へ手をついた。


【樹脈感知】。


しばらくして北を見る。


「向こう、いっぱい」


「こっちへ来てる?」


僕が聞く。


ユラは少し考えてから、南を指した。


「こっち」


グレンも北の森を見る。


「森狼だけじゃないな」


それ以上は言わなかった。


僕も同じ方向を見る。


木々がどこまでも続いている。


今の僕には、普通の森にしか見えない。


でも、その奥から離れようとしている獣が多い。


◇


村へ戻ると、グレンはそのままバルトのところへ向かった。


僕とユラもついていく。


バルトは家の前で、持ち帰った森狼の皮と肉を見た。


「二頭か」


「一頭は優がやった」


グレンが言う。


バルトの目が僕へ向く。


「お前が?」


「ユラとグレンさんに助けてもらいましたけど」


「それでも一頭は一頭だ」


グレンは地面へ枝を置き、森で見たものを簡単に説明した。


村の近くまで来ていた森狼。


北へ逃げた一頭。


南へ向かう森鹿や小さな獣の足跡。


ユラが感じた動き。


バルトは途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。


「明日は、もう少し北を見る」


グレンが言った。


「森狼だけの話じゃないかもしれん」


バルトが腕を組む。


しばらく黙ってから、僕とユラを見た。


「そういや、お前らに言った三日だが」


心臓が少し跳ねた。


忘れていたわけじゃない。


でも、森のことで頭がいっぱいになっていた。


「……今日まで、ですよね」


「ああ」


ユラもバルトを見る。


「出る?」


バルトは首を振った。


「いや」


僕は思わず顔を上げた。


「森のことが片づくまでは、ここにいろ」


「いいんですか?」


「グレンについて森まで行って、村の仕事もしてる。今追い出す理由もない」


バルトは僕を見る。


「ただし、危ないと思ったら森には入るな。村にいるなら、できる仕事はやれ」


「はい」


「ユラも?」


ユラが聞く。


「お前はまず無理するな」


「ユラも、はたらける」


「元気な時だけでいい」


ユラが少し不満そうな顔をした。


僕はそれを見て、少しだけ笑った。


三日前。


この村に来た時は、三日先にどこへいるのかさえわからなかった。


今も、この先どうなるのかはわからない。


それでも明日の朝、追い出されることだけはなくなった。


バルトがグレンを見る。


「明日も行くのか」


「ああ」


「無茶はするなよ」


「それはこいつらに言え」


「僕ですか?」


グレンは答えず、森狼の肉を持ち上げた。


明日は、もう少し北へ行く。


森狼や森鹿たちが、どこから来ているのか。


その先に何があるのか。


まだ、何もわからなかった。


――――――――――


【現在のステータス】


榊 優 Lv.2

天職:【罪人】


【解錠 Lv.3】

【窃盗 Lv.2】

【密猟 Lv.3】

【詐欺 Lv.1】

【文書偽造 Lv.2】


ユラ Lv.1


【芽吹き Lv.2】

【樹脈感知 Lv.2】

【緑癒 Lv.2】


【今回の成長】


優

【密猟 Lv2 → Lv3】


ユラ

【緑癒 Lv1 → Lv2】

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