閑話-1 罪人の友人たち、役に立つ力について考える
「三体、右へ抜けた!」
山本さくらの声が飛んだ。
森の奥。
粗末な木柵に囲まれた、小さな集落。家と呼ぶには簡素すぎる小屋が十ほど並び、その間を緑色の小柄な影が走り回っている。
ゴブリン。
数は二十数体。
王国軍の斥候が事前に調査した、小規模な集落だった。
「健太、右!」
「わかってる!」
佐藤健太が剣を構えた。
その横から、棍棒を持ったゴブリンが飛び出す。
「うわっ!」
「前見ろ!」
田中弘の槍が伸びた。
穂先がゴブリンの胸へ入る。
一撃では倒れない。
そこへ健太が踏み込み、剣を振り下ろした。
ゴブリンが倒れる。
「入った!」
健太が声を上げる。
「経験値!」
「戦闘中だぞ!」
弘が怒鳴った。
「わかってるって!」
昨日までなら、そのやり取りを聞いて少しくらい笑ったと思う。
今は、剣にもそんな余裕はなかった。
「剣、左!」
善の声。
「おう!」
天道剣は振り返る。
ゴブリンが二体。
一体は棍棒。
もう一体は錆びた剣を持っていた。
剣を構える。
日本でやっていた剣道とは違う。
防具も違う。
剣も違う。
相手は人間ですらない。
それでも、足運びや間合い、相手の動きを見ることなら使える。
一体目の棍棒をかわす。
踏み込む。
斬る。
浅い。
ゴブリンが叫び、もう一体が横から迫った。
「危ない!」
赤星蘭の声。
身体を淡い光が包む。
さっき剣先がかすめた腕の痛みが、すっと引いていった。
「蘭、助かった!」
「うん! でも無茶しないで!」
「わかってる!」
わかっているつもりだった。
でも。
今は倒せる。
昨日より速い。
昨日より強い。
自分でもわかるくらい、身体が動くようになっている。
二体目の剣を受ける。
弾く。
そのまま胴へ斬り込んだ。
ゴブリンが倒れる。
【経験値を獲得しました】
残った一体が襲いかかってくる。
「はあっ!」
剣を振り下ろした。
倒れる。
【経験値を獲得しました】
そして。
【レベルが一定値に達しました】
【Lv4 → Lv5】
【基礎身体能力が大幅に上昇しました】
「……っ?」
剣は一瞬、足を止めた。
身体が。
急に軽くなった。
さっきまで息が上がっていた。
腕も重かった。
なのに。
肺へ入る空気。
地面を蹴った時の力。
剣を握る指。
視界の端を走るゴブリンまで、さっきよりはっきり見える。
「剣!」
善の声。
前から、もう一体。
剣は反射的に踏み込んだ。
速い。
自分で驚くくらいに。
ゴブリンも反応した。
でも、遅かった。
一撃。
刃が通る。
ゴブリンが倒れた。
「……なんだ、これ」
自分の手を見る。
その向こうから、善が走ってきた。
「剣!」
「善」
「今、上がった?」
「ああ。五」
善が笑った。
「やっぱり!」
善も、すでにLv5になっている。
昨日、初めて五へ到達した時、同じことを言っていた。
身体が変わる。
「全然違うだろ?」
「ああ」
「四までと、五は別物だ」
善が言ったところで。
「話は後だ!」
低い声が飛んだ。
ロドリゴ・デ・シルヴァ。
少し離れた位置から戦場全体を見ていた近衛騎士団長が、二人へ声を飛ばす。
「まだ終わっていない!」
「はい!」
二人同時に返事をした。
その時、集落の奥で爆発音が響いた。
「きゃっ!」
「凛!」
蘭の声。
赤星凛が杖を振り下ろしている。
ゴブリンが三体まとめて吹き飛び、その後ろの小屋まで半分崩れていた。
「ちょっと強すぎた!」
「小屋まで壊れてる!」
「仕方ないでしょ!」
その横から来た一体へ、黒い影が突っ込む。
霧島刃。
大きな剣を肩から振り下ろした。
ゴブリンが地面へ叩きつけられる。
「軽いな! 次どこだ!」
「前に出すぎ!」
少し離れた場所から、伊藤大地の矢が飛ぶ。
刃の背後へ回ろうとしていたゴブリンへ突き刺さった。
「お前、後ろ見ろよ!」
「見てる暇あったら斬る!」
「それ見てないって言うんだよ!」
そのさらに後ろでは、小林陸が必死に声を張っていた。
「行け! そこ! 噛め!」
王国軍から預けられた、犬に似た小型魔獣がゴブリンへ飛びかかる。
「よし!」
【テイマー】。
召喚されたばかりの頃は「ドラゴンも操れるかも」と喜んでいた陸だけれど、今連れているのは小型魔獣一匹だけだ。
それでも。
ちゃんと戦っている。
みんな。
少しずつ。
この世界での戦い方を覚え始めていた。
◇
最後のゴブリンが倒れたのは、それから十分ほど後だった。
「周囲確認!」
ロドリゴの声が飛ぶ。
「勝ったからといって気を抜くな! 山本、外周!」
「はい!」
さくらが森へ走る。
「伊藤、高所から確認!」
「はい!」
「小林は使役獣に臭いを追わせろ!」
「わかりました!」
王国兵たちは集落の中を確認していく。
隠れているゴブリンがいないか。
負傷した仲間はいないか。
別の群れが近くに潜んでいないか。
そこでようやく、クラスメートたちも少し緊張を解いた。
「疲れた……」
健太が地面へ座り込む。
「でも俺、三になった」
弘が槍を地面へ立てた。
「俺も」
「マジ?」
「最後の二体で入った」
「いいなあ」
少し離れた場所では、蘭が怪我をした生徒たちを治療している。
「次、誰?」
「俺」
「ちょっと待って」
治癒を繰り返すたび、蘭の技能も少しずつ上がっているらしい。
その隣で、凛が自分の手を見ていた。
「どうした?」
善が聞く。
「【魔術操作】、五になった」
「五?」
剣も見る。
凛が指先へ小さな火を灯した。
最初は、今までと同じように見えた。
でも。
次の瞬間。
一つだった火が、三つに分かれた。
「え?」
凛自身が一番驚いている。
三つの小さな火が、それぞれ別の方向へ浮かんだ。
「昨日まで、そんなことできた?」
蘭が聞く。
「できない」
凛は火を見たまま答えた。
「一個を動かすので精一杯だった」
ロドリゴが近づいてきた。
「技能も五か」
「はい」
「覚えておけ」
クラスメートたちがロドリゴを見る。
「個人のレベルは、一から四まででも少しずつ身体を強くする。だが五へ達した時、基礎身体能力が一段大きく上がる」
剣は自分の手を見る。
確かに。
さっきまでとは違う。
「十、十五も同様だ。五つ上がるごとに、大きな変化が起きる」
「技能もですか?」
善が聞いた。
「ああ。技能も一から四までは、主に既にできることの精度や効率が上がる。だが五、十と節目に達すると、性能そのものが大きく伸びたり、新しい使い方が可能になることがある」
ロドリゴが凛を見る。
一つの火を動かす技能だったものが、今は三つの火を別々に操っている。
「ただし、何がどう伸びるかは技能次第だ」
「じゃあ」
健太が言った。
「五まで上げれば、全員かなり強くなるってことですか?」
ロドリゴは、すぐには答えなかった。
「戦い、経験値を得られる者ならな」
その言い方が。
剣には少しだけ引っかかった。
◇
王都へ戻る馬車は、二つに分かれていた。
前を走る馬車には、今日ゴブリン集落へ入った生徒たち。
善。
剣。
蘭。
凛。
刃。
健太。
弘。
大地。
さくら。
陸。
ほかにも戦闘向きの天職を持つ生徒が何人かいる。
みんな疲れている。
でも、雰囲気は悪くなかった。
「俺、あとどれくらいで四かな」
「知らねえよ」
「善、今いくつ?」
「五」
「やっぱ勇者ずるくね?」
「俺だって戦ってるからな!」
笑い声が起きる。
剣も少し笑った。
今日、初めて本格的に魔物の集落へ入った。
怖かった。
でも。
勝った。
そして。
強くなった。
それを自分の身体で実感できる。
「次、もう少し大きい集落らしいぞ」
刃が楽しそうに言った。
「まだ行くの?」
蘭が嫌そうな顔をする。
「強くなれるだろ」
「怪我するの、治すの私なんだけど」
「治せるだろ?」
「そういう問題じゃない!」
また笑い声が起きる。
その時。
剣は、後ろを走っているもう一台の馬車に気づいた。
「あっちは?」
善も振り返る。
同乗していた王国騎士が答えた。
「戦闘適性が低い方々です」
「今日、来てたんですか?」
剣が聞く。
「集落には入れていません。後方待機です」
「なんで?」
騎士は少し困った顔をした。
「危険ですので」
それは正しい。
剣だって、今日の戦いへ戦えない人間を連れて入れろとは思わない。
でも。
「経験値は?」
「ほとんど得ていないでしょう」
「…………」
剣は後ろの馬車を見る。
同じクラスのはずなのに。
いつから。
馬車まで分かれたんだろう。
◇
王城へ戻ってから、剣はロドリゴに呼ばれた。
「今日の動きを確認する」
「はい」
訓練場で木剣を持つ。
ロドリゴが向かいに立った。
「打ってこい」
「はい!」
剣が踏み込む。
速い。
自分でもわかる。
でも、ロドリゴは簡単に受けた。
「っ!」
「もう一度」
「はい!」
打つ。
受けられる。
もう一度。
また。
何度やっても当たらない。
「五になって、浮かれていたな」
「……少し」
「正直でよろしい」
ロドリゴの木剣が動く。
見えた。
と思った時には。
剣の木剣が弾き飛ばされていた。
カラン、と乾いた音がする。
「え……」
「身体能力が上がっても、技量まで突然上がるわけではない」
「はい」
「強くなった時ほど覚えておけ」
ロドリゴは剣を見る。
「自分より弱い者が、急に遅く見えるようになる」
「…………」
「そこで、自分が偉くなったと勘違いする者がいる」
ロドリゴは木剣を下ろした。
「増えたのは力だ。人間の価値ではない」
「……はい」
剣は地面に落ちた木剣を拾った。
この人は厳しい。
でも、わかりやすかった。
できていない時は、できていないと言う。
できた時は認める。
無理なものを、気合いで何とかしろとも言わない。
近衛騎士団のほかの教官とは、少し違っていた。
「もう一回、お願いします」
「いいだろう」
剣が構え直そうとした時。
歌が聞こえた。
「……?」
別棟の方から。
男の声。
ロドリゴもそちらを見る。
「藤原か」
「奏?」
藤原奏。
同じクラスの男子。
天職は、確か。
【歌い手】。
今日。
後ろの馬車に乗っていた一人だ。
「行くぞ」
ロドリゴが歩き出す。
「どこへ?」
「聞こえただろう」
剣も後を追った。
◇
歌声は、小さな中庭から聞こえていた。
藤原奏が一人で立っている。
少し離れた場所には、柳琴音、桜井舞、四宮弦たちもいた。
戦闘訓練から外された生徒たちだ。
奏が歌っている。
日本語の歌。
学校にいた頃にも、どこかで聞いたことがある気がした。
上手い。
剣は歌のことなんて詳しくない。
それでも、上手いことくらいはわかる。
「おい!」
王国側の教官が声を上げた。
歌が止まる。
「何をしている!」
奏が振り返った。
「練習です」
「何のだ」
「歌です」
「見ればわかる!」
教官は苛立っていた。
「ほかの勇者様方は今日、命をかけてゴブリンと戦ってきたんだぞ。それをお前は、朝から歌か?」
奏が黙る。
「僕の天職が【歌い手】だからです」
「だから何だ」
「歌わないと、技能が上がらないので」
教官がため息をついた。
「随分お気楽な天職だな」
空気が変わった。
奏は何も言わない。
「仲間が命をかけている間に歌っていれば、強くなれるのか?」
「……キャラクターのレベルは上がりません」
「当たり前だ」
教官が吐き捨てるように言った。
「今日の討伐へ参加した者たちは、何人もレベルが上がった。天道殿は五へ達したそうだ」
奏が剣を見る。
目が合った。
剣は何も言えなかった。
「お前はいくつだ」
「一です」
「召喚された時から?」
「はい」
「それで歌っている場合か!」
「でも」
奏が初めて、少しだけ強い声を出した。
「歌わなかったら、僕は何を上げればいいんですか」
教官が止まる。
「剣を振れ」
「【剣術】はありません」
「走れ」
「走ってます」
「身体を鍛えろ!」
「鍛えてます。でも」
奏は剣を見る。
「天道みたいにはならない」
責める言い方ではなかった。
ただ。
事実を言った。
「今日も、ずっと後ろで待ってました。戦闘には参加させてもらえないから、経験値も入らない」
「それは、お前が戦えないからだ」
「はい」
奏は認めた。
「だから歌ってます」
「…………」
「これなら上がるから」
教官は、それが気に入らないらしい。
「遊びに来たんじゃないんだぞ」
その時。
「やめろ」
ロドリゴが言った。
教官が振り返る。
「団長」
「藤原奏の天職は何だ」
「【歌い手】です」
「現在の技能は?」
奏が答える。
「【歌唱 Lv4】です」
「四か」
ロドリゴが奏を見る。
「もうすぐ五だな」
「たぶん」
「なら歌え」
奏が瞬きをした。
教官が慌てる。
「しかし団長。戦況を考えれば、彼らにも最低限の戦闘能力を――」
「最低限の体力訓練は必要だ」
ロドリゴは言った。
「だが、歌い手へ歌うなと言う理由にはならん」
「ですが、歌など戦場では――」
「役に立たんか?」
「……少なくとも、今は」
「なら、今は、だ」
ロドリゴは奏へ向き直る。
「技能レベルは五刻みで大きく性質が変化する場合がある」
「はい」
「お前の【歌唱】が五へ達した時、何が起きる」
奏は少し困った顔をした。
「わかりません」
「私も知らん」
ロドリゴはあっさり言った。
「なら、確かめればいい」
教官が黙る。
奏も少し驚いた顔をしていた。
「ただし」
ロドリゴが続ける。
「身体は鍛えろ」
「はい」
「走れ」
「はい」
「戦えないからと腐るな」
「はい」
「それと」
少しだけ間を置く。
「歌え」
奏が初めて笑った。
「はい」
ロドリゴは、横にいる生徒たちも見た。
「お前たちも同じだ。自分の天職を鍛えることまで怠るな」
柳琴音たちが、小さく頷く。
「ただし、何が役に立つかはまだわからん。五へ上がったからといって、戦闘に使える保証もない」
奏が頷いた。
「わかりました」
「それでいい」
◇
帰り道。
善が二人を待っていた。
「何してたんだ?」
「奏のところ」
剣が答える。
「藤原?」
「ああ」
「また歌ってた?」
善に悪意はなかった。
「技能、四らしい」
「へえ」
善が少し考える。
「五になったら、戦闘でも使えるようになるかもな」
ロドリゴが善を見る。
「なぜ戦闘で使う必要がある」
「え?」
善が振り返った。
「いや、せっかく技能が強くなるなら、その方がみんなの役に立てるじゃないですか」
「歌は、人を斬るためのものか」
「そういう意味じゃないです」
善は笑った。
「でも、この世界で生き残るには強くならないといけないでしょう?」
間違ってはいない。
今日、実際にゴブリンと戦った。
弱ければ怪我をする。
下手をすれば死ぬ。
「だから奏たちにも、ちゃんと役に立てる方法を探した方がいいと思うんです」
ロドリゴが聞く。
「本人は、何をしたいと言っていた」
「本人?」
「藤原奏だ」
善が少し考えた。
「歌いたいんじゃないですか?」
「聞いたのか」
「いや。でも【歌い手】なんだから」
「そうか」
それだけ言って、ロドリゴは歩き出した。
善が少し納得できない顔をする。
「団長、俺、何か変なこと言いました?」
「いや」
「ですよね」
「お前は、人の役に立つことを大事にしている」
「はい」
「立派なことだ」
善が少し笑った。
「だが」
ロドリゴは続けた。
「役に立つ形を、お前が決めるな」
善の笑顔が止まる。
「どういう意味です?」
「そのままの意味だ」
「でも、本人が間違ったことをしてたら?」
ロドリゴが振り返った。
「止めることはある」
「だったら――」
「その前に聞け」
「…………」
「何があった」
ロドリゴが言う。
「どうしてそうした」
そして。
「お前は、どうしたい」
善は少し眉を寄せた。
「でも、それで間違ってたら、結局は正さないと駄目ですよね」
「そうかもしれん」
ロドリゴは答える。
「だが、聞いたあとに止めるのと、聞く前から正しい場所へ連れていくのは同じではない」
善はしばらく何も言わなかった。
剣も黙っていた。
でも。
頭の中に、一人の顔が浮かんだ。
榊優。
牢へ連れていかれてから。
一度も話していない。
王国の人間からはいろいろ聞いた。
【罪人】。
逃亡。
ドライアドを連れ出した。
町で偽名を使った。
商会へ侵入した。
でも。
優本人からは。
何も聞いていない。
「団長」
剣が呼んだ。
「何だ」
「もし」
少し考える。
「友達が、みんなから間違ってるって言われることをしてたら」
ロドリゴが剣を見る。
「お前はどうする」
「俺ですか?」
「お前の友人だろう」
剣は考えた。
今日。
ゴブリンを斬った。
自分は強くなった。
Lv5。
これからもっと強くなるかもしれない。
でも。
それと。
優が何を考えているかは。
何の関係もない。
「……聞きます」
「何を」
「何があったのか」
それから。
「どうして逃げたのか」
もう一つ。
「優が、どうしたいのか」
ロドリゴが少しだけ笑った。
「なら、それでいい」
「でも」
善が言った。
「優は戻ってきた方がいいよ」
剣が善を見る。
善は本気だった。
「俺たちがいるんだから。俺から王国の人たちにも説明するし、誤解があるなら解けばいい」
迷いなく続ける。
「俺たちで迎えに行けばいい」
そして。
いつものように爽やかに笑った。
「ちゃんと連れて帰ろう」
剣は少し黙った。
「俺は」
「ん?」
「会ったら、先に優に聞く」
「何を?」
「全部」
善が首を傾げた。
「それからでよくないか?」
「何が?」
「帰るかどうか決めるの」
善は少し驚いた顔をした。
「いや」
すぐに笑う。
「帰った方がいいに決まってるだろ」
「そうかもしれない」
剣は答えた。
「でも、それも優に聞く」
善は。
やっぱり少し。
わからないという顔をしていた。
その時。
後ろの建物から、また歌が聞こえた。
藤原奏。
さっきより。
少し大きな声だった。
剣は振り返る。
今日。
自分たちは二十数体のゴブリンがいた集落を潰した。
経験値を得た。
レベルが上がった。
身体が強くなった。
王国の人たちにも褒められた。
その同じ一日。
奏は戦場の後ろで待っていた。
経験値は入らなかった。
身体も強くならなかった。
そして今。
自分にできることを鍛えるために、歌っている。
どちらが、この世界で役に立つのか。
今なら答えは簡単だった。
戦える方だ。
でも。
それがずっと正しいのかは。
剣にはまだ。
わからなかった。




