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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第二章 「罪人」、偽名で街に忍び込む

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閑話-1 罪人の友人たち、役に立つ力について考える

「三体、右へ抜けた!」


山本さくらの声が飛んだ。


森の奥。


粗末な木柵に囲まれた、小さな集落。家と呼ぶには簡素すぎる小屋が十ほど並び、その間を緑色の小柄な影が走り回っている。


ゴブリン。


数は二十数体。


王国軍の斥候が事前に調査した、小規模な集落だった。


「健太、右!」


「わかってる!」


佐藤健太が剣を構えた。


その横から、棍棒を持ったゴブリンが飛び出す。


「うわっ!」


「前見ろ!」


田中弘の槍が伸びた。


穂先がゴブリンの胸へ入る。


一撃では倒れない。


そこへ健太が踏み込み、剣を振り下ろした。


ゴブリンが倒れる。


「入った!」


健太が声を上げる。


「経験値!」


「戦闘中だぞ!」


弘が怒鳴った。


「わかってるって!」


昨日までなら、そのやり取りを聞いて少しくらい笑ったと思う。


今は、剣にもそんな余裕はなかった。


「剣、左!」


善の声。


「おう!」


天道剣は振り返る。


ゴブリンが二体。


一体は棍棒。


もう一体は錆びた剣を持っていた。


剣を構える。


日本でやっていた剣道とは違う。


防具も違う。


剣も違う。


相手は人間ですらない。


それでも、足運びや間合い、相手の動きを見ることなら使える。


一体目の棍棒をかわす。


踏み込む。


斬る。


浅い。


ゴブリンが叫び、もう一体が横から迫った。


「危ない!」


赤星蘭の声。


身体を淡い光が包む。


さっき剣先がかすめた腕の痛みが、すっと引いていった。


「蘭、助かった!」


「うん! でも無茶しないで!」


「わかってる!」


わかっているつもりだった。


でも。


今は倒せる。


昨日より速い。


昨日より強い。


自分でもわかるくらい、身体が動くようになっている。


二体目の剣を受ける。


弾く。


そのまま胴へ斬り込んだ。


ゴブリンが倒れる。


【経験値を獲得しました】


残った一体が襲いかかってくる。


「はあっ!」


剣を振り下ろした。


倒れる。


【経験値を獲得しました】


そして。


【レベルが一定値に達しました】


【Lv4 → Lv5】


【基礎身体能力が大幅に上昇しました】


「……っ?」


剣は一瞬、足を止めた。


身体が。


急に軽くなった。


さっきまで息が上がっていた。


腕も重かった。


なのに。


肺へ入る空気。


地面を蹴った時の力。


剣を握る指。


視界の端を走るゴブリンまで、さっきよりはっきり見える。


「剣!」


善の声。


前から、もう一体。


剣は反射的に踏み込んだ。


速い。


自分で驚くくらいに。


ゴブリンも反応した。


でも、遅かった。


一撃。


刃が通る。


ゴブリンが倒れた。


「……なんだ、これ」


自分の手を見る。


その向こうから、善が走ってきた。


「剣!」


「善」


「今、上がった?」


「ああ。五」


善が笑った。


「やっぱり!」


善も、すでにLv5になっている。


昨日、初めて五へ到達した時、同じことを言っていた。


身体が変わる。


「全然違うだろ?」


「ああ」


「四までと、五は別物だ」


善が言ったところで。


「話は後だ!」


低い声が飛んだ。


ロドリゴ・デ・シルヴァ。


少し離れた位置から戦場全体を見ていた近衛騎士団長が、二人へ声を飛ばす。


「まだ終わっていない!」


「はい!」


二人同時に返事をした。


その時、集落の奥で爆発音が響いた。


「きゃっ!」


「凛!」


蘭の声。


赤星凛が杖を振り下ろしている。


ゴブリンが三体まとめて吹き飛び、その後ろの小屋まで半分崩れていた。


「ちょっと強すぎた!」


「小屋まで壊れてる!」


「仕方ないでしょ!」


その横から来た一体へ、黒い影が突っ込む。


霧島刃。


大きな剣を肩から振り下ろした。


ゴブリンが地面へ叩きつけられる。


「軽いな! 次どこだ!」


「前に出すぎ!」


少し離れた場所から、伊藤大地の矢が飛ぶ。


刃の背後へ回ろうとしていたゴブリンへ突き刺さった。


「お前、後ろ見ろよ!」


「見てる暇あったら斬る!」


「それ見てないって言うんだよ!」


そのさらに後ろでは、小林陸が必死に声を張っていた。


「行け! そこ! 噛め!」


王国軍から預けられた、犬に似た小型魔獣がゴブリンへ飛びかかる。


「よし!」


【テイマー】。


召喚されたばかりの頃は「ドラゴンも操れるかも」と喜んでいた陸だけれど、今連れているのは小型魔獣一匹だけだ。


それでも。


ちゃんと戦っている。


みんな。


少しずつ。


この世界での戦い方を覚え始めていた。


◇


最後のゴブリンが倒れたのは、それから十分ほど後だった。


「周囲確認!」


ロドリゴの声が飛ぶ。


「勝ったからといって気を抜くな! 山本、外周!」


「はい!」


さくらが森へ走る。


「伊藤、高所から確認!」


「はい!」


「小林は使役獣に臭いを追わせろ!」


「わかりました!」


王国兵たちは集落の中を確認していく。


隠れているゴブリンがいないか。


負傷した仲間はいないか。


別の群れが近くに潜んでいないか。


そこでようやく、クラスメートたちも少し緊張を解いた。


「疲れた……」


健太が地面へ座り込む。


「でも俺、三になった」


弘が槍を地面へ立てた。


「俺も」


「マジ?」


「最後の二体で入った」


「いいなあ」


少し離れた場所では、蘭が怪我をした生徒たちを治療している。


「次、誰?」


「俺」


「ちょっと待って」


治癒を繰り返すたび、蘭の技能も少しずつ上がっているらしい。


その隣で、凛が自分の手を見ていた。


「どうした?」


善が聞く。


「【魔術操作】、五になった」


「五?」


剣も見る。


凛が指先へ小さな火を灯した。


最初は、今までと同じように見えた。


でも。


次の瞬間。


一つだった火が、三つに分かれた。


「え?」


凛自身が一番驚いている。


三つの小さな火が、それぞれ別の方向へ浮かんだ。


「昨日まで、そんなことできた?」


蘭が聞く。


「できない」


凛は火を見たまま答えた。


「一個を動かすので精一杯だった」


ロドリゴが近づいてきた。


「技能も五か」


「はい」


「覚えておけ」


クラスメートたちがロドリゴを見る。


「個人のレベルは、一から四まででも少しずつ身体を強くする。だが五へ達した時、基礎身体能力が一段大きく上がる」


剣は自分の手を見る。


確かに。


さっきまでとは違う。


「十、十五も同様だ。五つ上がるごとに、大きな変化が起きる」


「技能もですか?」


善が聞いた。


「ああ。技能も一から四までは、主に既にできることの精度や効率が上がる。だが五、十と節目に達すると、性能そのものが大きく伸びたり、新しい使い方が可能になることがある」


ロドリゴが凛を見る。


一つの火を動かす技能だったものが、今は三つの火を別々に操っている。


「ただし、何がどう伸びるかは技能次第だ」


「じゃあ」


健太が言った。


「五まで上げれば、全員かなり強くなるってことですか?」


ロドリゴは、すぐには答えなかった。


「戦い、経験値を得られる者ならな」


その言い方が。


剣には少しだけ引っかかった。


◇


王都へ戻る馬車は、二つに分かれていた。


前を走る馬車には、今日ゴブリン集落へ入った生徒たち。


善。


剣。


蘭。


凛。


刃。


健太。


弘。


大地。


さくら。


陸。


ほかにも戦闘向きの天職を持つ生徒が何人かいる。


みんな疲れている。


でも、雰囲気は悪くなかった。


「俺、あとどれくらいで四かな」


「知らねえよ」


「善、今いくつ?」


「五」


「やっぱ勇者ずるくね?」


「俺だって戦ってるからな!」


笑い声が起きる。


剣も少し笑った。


今日、初めて本格的に魔物の集落へ入った。


怖かった。


でも。


勝った。


そして。


強くなった。


それを自分の身体で実感できる。


「次、もう少し大きい集落らしいぞ」


刃が楽しそうに言った。


「まだ行くの?」


蘭が嫌そうな顔をする。


「強くなれるだろ」


「怪我するの、治すの私なんだけど」


「治せるだろ?」


「そういう問題じゃない!」


また笑い声が起きる。


その時。


剣は、後ろを走っているもう一台の馬車に気づいた。


「あっちは?」


善も振り返る。


同乗していた王国騎士が答えた。


「戦闘適性が低い方々です」


「今日、来てたんですか?」


剣が聞く。


「集落には入れていません。後方待機です」


「なんで?」


騎士は少し困った顔をした。


「危険ですので」


それは正しい。


剣だって、今日の戦いへ戦えない人間を連れて入れろとは思わない。


でも。


「経験値は?」


「ほとんど得ていないでしょう」


「…………」


剣は後ろの馬車を見る。


同じクラスのはずなのに。


いつから。


馬車まで分かれたんだろう。


◇


王城へ戻ってから、剣はロドリゴに呼ばれた。


「今日の動きを確認する」


「はい」


訓練場で木剣を持つ。


ロドリゴが向かいに立った。


「打ってこい」


「はい!」


剣が踏み込む。


速い。


自分でもわかる。


でも、ロドリゴは簡単に受けた。


「っ!」


「もう一度」


「はい!」


打つ。


受けられる。


もう一度。


また。


何度やっても当たらない。


「五になって、浮かれていたな」


「……少し」


「正直でよろしい」


ロドリゴの木剣が動く。


見えた。


と思った時には。


剣の木剣が弾き飛ばされていた。


カラン、と乾いた音がする。


「え……」


「身体能力が上がっても、技量まで突然上がるわけではない」


「はい」


「強くなった時ほど覚えておけ」


ロドリゴは剣を見る。


「自分より弱い者が、急に遅く見えるようになる」


「…………」


「そこで、自分が偉くなったと勘違いする者がいる」


ロドリゴは木剣を下ろした。


「増えたのは力だ。人間の価値ではない」


「……はい」


剣は地面に落ちた木剣を拾った。


この人は厳しい。


でも、わかりやすかった。


できていない時は、できていないと言う。


できた時は認める。


無理なものを、気合いで何とかしろとも言わない。


近衛騎士団のほかの教官とは、少し違っていた。


「もう一回、お願いします」


「いいだろう」


剣が構え直そうとした時。


歌が聞こえた。


「……?」


別棟の方から。


男の声。


ロドリゴもそちらを見る。


「藤原か」


「奏?」


藤原奏。


同じクラスの男子。


天職は、確か。


【歌い手】。


今日。


後ろの馬車に乗っていた一人だ。


「行くぞ」


ロドリゴが歩き出す。


「どこへ?」


「聞こえただろう」


剣も後を追った。


◇


歌声は、小さな中庭から聞こえていた。


藤原奏が一人で立っている。


少し離れた場所には、柳琴音、桜井舞、四宮弦たちもいた。


戦闘訓練から外された生徒たちだ。


奏が歌っている。


日本語の歌。


学校にいた頃にも、どこかで聞いたことがある気がした。


上手い。


剣は歌のことなんて詳しくない。


それでも、上手いことくらいはわかる。


「おい!」


王国側の教官が声を上げた。


歌が止まる。


「何をしている!」


奏が振り返った。


「練習です」


「何のだ」


「歌です」


「見ればわかる!」


教官は苛立っていた。


「ほかの勇者様方は今日、命をかけてゴブリンと戦ってきたんだぞ。それをお前は、朝から歌か?」


奏が黙る。


「僕の天職が【歌い手】だからです」


「だから何だ」


「歌わないと、技能が上がらないので」


教官がため息をついた。


「随分お気楽な天職だな」


空気が変わった。


奏は何も言わない。


「仲間が命をかけている間に歌っていれば、強くなれるのか?」


「……キャラクターのレベルは上がりません」


「当たり前だ」


教官が吐き捨てるように言った。


「今日の討伐へ参加した者たちは、何人もレベルが上がった。天道殿は五へ達したそうだ」


奏が剣を見る。


目が合った。


剣は何も言えなかった。


「お前はいくつだ」


「一です」


「召喚された時から?」


「はい」


「それで歌っている場合か!」


「でも」


奏が初めて、少しだけ強い声を出した。


「歌わなかったら、僕は何を上げればいいんですか」


教官が止まる。


「剣を振れ」


「【剣術】はありません」


「走れ」


「走ってます」


「身体を鍛えろ!」


「鍛えてます。でも」


奏は剣を見る。


「天道みたいにはならない」


責める言い方ではなかった。


ただ。


事実を言った。


「今日も、ずっと後ろで待ってました。戦闘には参加させてもらえないから、経験値も入らない」


「それは、お前が戦えないからだ」


「はい」


奏は認めた。


「だから歌ってます」


「…………」


「これなら上がるから」


教官は、それが気に入らないらしい。


「遊びに来たんじゃないんだぞ」


その時。


「やめろ」


ロドリゴが言った。


教官が振り返る。


「団長」


「藤原奏の天職は何だ」


「【歌い手】です」


「現在の技能は?」


奏が答える。


「【歌唱 Lv4】です」


「四か」


ロドリゴが奏を見る。


「もうすぐ五だな」


「たぶん」


「なら歌え」


奏が瞬きをした。


教官が慌てる。


「しかし団長。戦況を考えれば、彼らにも最低限の戦闘能力を――」


「最低限の体力訓練は必要だ」


ロドリゴは言った。


「だが、歌い手へ歌うなと言う理由にはならん」


「ですが、歌など戦場では――」


「役に立たんか?」


「……少なくとも、今は」


「なら、今は、だ」


ロドリゴは奏へ向き直る。


「技能レベルは五刻みで大きく性質が変化する場合がある」


「はい」


「お前の【歌唱】が五へ達した時、何が起きる」


奏は少し困った顔をした。


「わかりません」


「私も知らん」


ロドリゴはあっさり言った。


「なら、確かめればいい」


教官が黙る。


奏も少し驚いた顔をしていた。


「ただし」


ロドリゴが続ける。


「身体は鍛えろ」


「はい」


「走れ」


「はい」


「戦えないからと腐るな」


「はい」


「それと」


少しだけ間を置く。


「歌え」


奏が初めて笑った。


「はい」


ロドリゴは、横にいる生徒たちも見た。


「お前たちも同じだ。自分の天職を鍛えることまで怠るな」


柳琴音たちが、小さく頷く。


「ただし、何が役に立つかはまだわからん。五へ上がったからといって、戦闘に使える保証もない」


奏が頷いた。


「わかりました」


「それでいい」


◇


帰り道。


善が二人を待っていた。


「何してたんだ?」


「奏のところ」


剣が答える。


「藤原?」


「ああ」


「また歌ってた?」


善に悪意はなかった。


「技能、四らしい」


「へえ」


善が少し考える。


「五になったら、戦闘でも使えるようになるかもな」


ロドリゴが善を見る。


「なぜ戦闘で使う必要がある」


「え?」


善が振り返った。


「いや、せっかく技能が強くなるなら、その方がみんなの役に立てるじゃないですか」


「歌は、人を斬るためのものか」


「そういう意味じゃないです」


善は笑った。


「でも、この世界で生き残るには強くならないといけないでしょう?」


間違ってはいない。


今日、実際にゴブリンと戦った。


弱ければ怪我をする。


下手をすれば死ぬ。


「だから奏たちにも、ちゃんと役に立てる方法を探した方がいいと思うんです」


ロドリゴが聞く。


「本人は、何をしたいと言っていた」


「本人?」


「藤原奏だ」


善が少し考えた。


「歌いたいんじゃないですか?」


「聞いたのか」


「いや。でも【歌い手】なんだから」


「そうか」


それだけ言って、ロドリゴは歩き出した。


善が少し納得できない顔をする。


「団長、俺、何か変なこと言いました?」


「いや」


「ですよね」


「お前は、人の役に立つことを大事にしている」


「はい」


「立派なことだ」


善が少し笑った。


「だが」


ロドリゴは続けた。


「役に立つ形を、お前が決めるな」


善の笑顔が止まる。


「どういう意味です?」


「そのままの意味だ」


「でも、本人が間違ったことをしてたら?」


ロドリゴが振り返った。


「止めることはある」


「だったら――」


「その前に聞け」


「…………」


「何があった」


ロドリゴが言う。


「どうしてそうした」


そして。


「お前は、どうしたい」


善は少し眉を寄せた。


「でも、それで間違ってたら、結局は正さないと駄目ですよね」


「そうかもしれん」


ロドリゴは答える。


「だが、聞いたあとに止めるのと、聞く前から正しい場所へ連れていくのは同じではない」


善はしばらく何も言わなかった。


剣も黙っていた。


でも。


頭の中に、一人の顔が浮かんだ。


榊優。


牢へ連れていかれてから。


一度も話していない。


王国の人間からはいろいろ聞いた。


【罪人】。


逃亡。


ドライアドを連れ出した。


町で偽名を使った。


商会へ侵入した。


でも。


優本人からは。


何も聞いていない。


「団長」


剣が呼んだ。


「何だ」


「もし」


少し考える。


「友達が、みんなから間違ってるって言われることをしてたら」


ロドリゴが剣を見る。


「お前はどうする」


「俺ですか?」


「お前の友人だろう」


剣は考えた。


今日。


ゴブリンを斬った。


自分は強くなった。


Lv5。


これからもっと強くなるかもしれない。


でも。


それと。


優が何を考えているかは。


何の関係もない。


「……聞きます」


「何を」


「何があったのか」


それから。


「どうして逃げたのか」


もう一つ。


「優が、どうしたいのか」


ロドリゴが少しだけ笑った。


「なら、それでいい」


「でも」


善が言った。


「優は戻ってきた方がいいよ」


剣が善を見る。


善は本気だった。


「俺たちがいるんだから。俺から王国の人たちにも説明するし、誤解があるなら解けばいい」


迷いなく続ける。


「俺たちで迎えに行けばいい」


そして。


いつものように爽やかに笑った。


「ちゃんと連れて帰ろう」


剣は少し黙った。


「俺は」


「ん?」


「会ったら、先に優に聞く」


「何を?」


「全部」


善が首を傾げた。


「それからでよくないか?」


「何が?」


「帰るかどうか決めるの」


善は少し驚いた顔をした。


「いや」


すぐに笑う。


「帰った方がいいに決まってるだろ」


「そうかもしれない」


剣は答えた。


「でも、それも優に聞く」


善は。


やっぱり少し。


わからないという顔をしていた。


その時。


後ろの建物から、また歌が聞こえた。


藤原奏。


さっきより。


少し大きな声だった。


剣は振り返る。


今日。


自分たちは二十数体のゴブリンがいた集落を潰した。


経験値を得た。


レベルが上がった。


身体が強くなった。


王国の人たちにも褒められた。


その同じ一日。


奏は戦場の後ろで待っていた。


経験値は入らなかった。


身体も強くならなかった。


そして今。


自分にできることを鍛えるために、歌っている。


どちらが、この世界で役に立つのか。


今なら答えは簡単だった。


戦える方だ。


でも。


それがずっと正しいのかは。


剣にはまだ。


わからなかった。

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