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【12作目】双子の妹と××しないと人類が滅ぶらしい。  作者: あぱ山あぱ太朗
人類が滅ぶらしいので、妹と付き合うことになりました
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6/21

1-5

「ふぅ、やっと帰ってこれた」

 リオンが大量購入したコーラとポテチに圧迫されながら帰宅する。

 自腹(謎のクレカを手渡された)なので止めはしなかったが、それを持つのが俺であることを失念していた。

 リオンは実体化しないと、モノに触れることが出来ないらしい。

 見えている俺たち双子は例外との事だけども。

「早速、実体化! きゅいーん! よーし、久々のコーラとポテチ!」

 頭のリングと翼が消える。人間離れをした整った容姿は相変わらずだが、この状態なら海外の子供とかでギリギリ通せそうだ。

「夕飯前に菓子を食うな」

「へ? え、その……リオンも食べていいの?」

「そりゃ、リオンだけ仲間外れなのは気分悪いだろ。食材代も払ってもらったし」

「ゆ、雪月っ!!」

「うわっ、なんだよ!」

 リオンがいきなり抱きついてきた。

 ふわっと甘い香りがする。柔らかい感触に頭がクラクラした。

「根暗で捻くれてそうなのに、意外と良いところあるねっ!」

「貶すか褒めるか、どっちかにしろ!」

「褒めてるよ! リオンは、リオンに優しくしてくれる人が好き!」

「結局、都合のいい人間が好きなだけかよ! つか、いいかげん離れろ!」

 こんな幼児体型なのに、体に当たっている部分が全部柔らかくて、もちもちしていて、邪な感情が沸々と湧いてくる。

 天使に性別があるかは知らないが、肉体のベースが女性に近いのは確かだ。女嫌いを公言しているのに、女体には反応するのか。それは筋が通らない。

 自分で自分が嫌になる。そんな自己嫌悪に陥っていると――――――

「リオン、お兄から離れて?」

『ひぃ!?』

 風花の姿を見て、悲鳴が漏れてしまう。

 目のハイライトが消え、口元は不自然に吊り上がり、頬をピクピク痙攣させている。

 手には陸上スパイクが握られ、靴裏の鋭いピンが鈍く妖しく光っていた。

「リオンって、いま実体化してるんだよね?」

「えっ!? う、うん!? そ、そ、そうだけど!?」

「じゃあ、このスパイクで殴り続けたら……どうなるのかなぁ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 なにこの惨状。リオンが床に頭をこすり付けている。

 対してメンヘラ女は「ストライク一個で即アウト判定だけどねぇ。リオンにはお兄との関係を進展させてもらったし、特別に許してあげようかなぁ」とブツブツ呟いている。

 怖いです。これ、僕の妹みたいです。助けてください。


「お兄」

「はひ!」


 やばい、こっち見たぞ。殺される。

「浮気はめっだよ?」

「ち、ちなみに、浮気のラインはどこからですか……?」

 後学のために知っておきたい。この妹の地雷がどこにあるのか。

「別にラインとかないよぉー。常にフーのことを考えてくれればいいよ? 起きてる時も寝てる時も。一分一秒すべての時間でフーを想って? 愛して? だから、強いて言うのなら、フー以外のことを考えたり、意識したら、浮気だよね。まぁ? お兄は大丈夫だと思うけど。お兄はフーを愛してるもんね? フーが一番大切だもんね?」

「もちろんさ!」

 これ以外を口にしたら、おそらく命はない。

「よかったぁ。そうだ、一応ね? ないとは思うけど――――もしもお兄が浮気したら、フーは浮気相手を消すよ。だから、お兄? フーを犯罪者にしないでね?」

「…………(絶句)」

 初めて知りました。「殺す」より「消す」の方が恐ろしいんですね。

 人類の滅亡を回避するため、風花と向き合うことにしたけど、それがなくてもこの妹はヤバすぎる。世のためにも縛り付けたほうがいい。

 俺は人身御供だ。風花を釘付けにして、世界を、人類を守らなくては。

「じゃ、ご飯にしよー? お兄のカレー、楽しみだなぁ!」

『…………』

 リオンと目を合わせて頷いた。これからの共同生活は想像以上に命懸けである。

 俺たちは協力者だ。力を合わせて、怪物に対処をしよう。


「お兄、おにぃ、お・に・ぃ♪」


 野菜を切っていたら、真横から視線を感じる。気になって仕方ない。

 横目で盗み見ると、風花がこちらを凝視していた。とてもご機嫌そうである。

「なんだよ」

「お兄の指ってきれいだよね。色白くて、細くて。でも、男性的な力強さもあって。あぁ好き。切られる野菜が羨ましいよぉ! あぁ、フーも野菜になりたいぃ!」

「だ、大丈夫か?」

 頭とか特に。

「大丈夫じゃないよ! お兄への愛で溺れそう! 人工呼吸して!」

「あはは、風花は面白いなぁ」

 雪月はスルースキルを獲得した!

「……人工呼吸、して?」

 しかし、まわりこまれてしまった!

「まずはゆっくり着実にな? 風花のことを丁寧に知っていきたいんだよ。急ぎ過ぎて、大事なことを見落としたくない…………だから、な?」

 雪月は『風花処理レベル1』を獲得した!

「お兄ちゅきぃ!」

「ちょっと待ってろよー。もう少しで出来るからなー」

 昨日までの日々が懐かしい。

 一人黙々と準備する夕餉。風花に支度が整ったことを伝えても無視され、俺の食事が終わるタイミングを見計らい食卓にやってくる。

 それもそれで寂しかったが、今は絶対にやり過ぎだ。

「もっと構ってよ~! えい!」

「ちょ、ばか! 包丁、扱ってるんだぞ!」

 風花が後ろから抱きついてくる。けど、あれだな。リオンとは違って、風花からの抱擁だと何も感じないな。

「くんくん、フー以外の事考えてない?」

「か、考えてねーよ!」

 なんかよく分からない匂い(?)を嗅ぎ分けている。

 この妹、どんどん人間離れしていくな。

「というか、ほんとに危ないから――――――痛っっ!」

「お、お兄っ!」

「あー言わんこっちゃない。絆創膏取ってくるから、一旦離れてくれ」

 揉みくちゃになったタイミングで指先を軽く切ってしまう。思った以上に出血しているが慣れたものだ。かれこれ何年も包丁を扱っているからな。

「ご、ごめん! ごめんね、お兄……」

「大丈夫だ。次から気を付けてくれればいいよ。じゃあ、いいか?」

「だめっ!」

 移動したいのに、風花が頑なに離れようとしない。

「だめって言われても……」

「フーのせいだからっ! フーが責任取る!」

「ちょ、ちょ、待て待て待てっ!?」

 手をがっしりホールドされる。

 この時点で何をされるか想像がつく。だが、静止の声は届かなかった。

 風花は躊躇うことなく、俺の指を口に咥える。

「衛生観念! 汚いって!」

「ほんなことらい。おにーのふぁいえき、おいちい」

「……っ!」

 なんだよ、この光景は。妹が自分の指を咥えている。おかしい、おかしいぞ。

 唇をすぼめて、ちゅーちゅーと血を吸い出し、舐るように舌を這わせる。

 指先が温かくなって、ピリピリしてきた。それは痛みによるものではなく、認めたくはないが、快楽に近しいものだ。夢中になって指を舐める表情も官能的で艶めかしい。

 脳が麻痺しているのかもしれない。妹から『エロさ』を感じている。

「ひたくらい?」

「だ、大丈夫だ……」

 やめろと言いたいが、なかなか言葉に出来なかった。

 目先の快楽から逃れられない。そんな自分の短絡さに絶望しながらも、指先の温もりに意識が集中してしまう。

「――――これで、よし」

 血を吸い終わったみたいで、風花が指から口を離す。どれくらい経ったのか。既に時間の感覚はない。湿った指先は外気に晒されて、急速に熱を失っていく。

 その温度の変化に名残惜しさを感じてしまう自分が嫌になる。

「お兄、可愛い……」

「はぁ!?」

「気持ちよさそうな顔してた」

「し、してねーわ!」

 断固として認めたくない。妹の前でそんな醜態を晒してしまった事実を。

「ううん、してたよ? すっごいエッチで、かわいい顔」

 はぁはぁと荒い息で顔を近づけてくる。

「近い、近いって!」

「フーもえっちな気分になってきた――――お兄しゅき、しゅきぃ、しゅきぃぃぃ!」

「ちょ、落ち着け! リオンもいるんだぞ!」

 居間でゲームしているリオンに助けを求める。

 目が合う。ニコっと笑う。親指を立てて、玄関の方に向かっていく。

「待て、リオン! 薄情もの!」

 やばい、発情した妹と二人放置される。

 肉食動物と同じ檻に入れられた草食動物の気分です。

「ねぇ、お兄……? フー、ね? 今、すっごく濡れてるよ……?」

「やだぁ! 助けてぇ! そらぁ!」

 どこが濡れているのか怖くて聞けない。聞いたら終わる。

 無理だって。本当に無理。はじめては好きな人(天)って決めているんだ。


「――――只今帰りました……いや、『ただいま』の正式なやつ!」


 咄嗟の判断だった。

 風花と互いを突き飛ばしあって、ほんの一瞬にして物理的な距離を空けた。

「ん、なんだー? 珍しいな、雪月と風花が一緒にいるなんて」

「それより親父。そのギャグつまらんから、金輪際やらないでくれ」

「何だと! 面白いだろ! 三日三晩考えたんだぞ!」

「芸人人生、ほんとにお疲れさま」

「勝手に引退させるな! ばかやろう!」

 芸人なのに間が悪い。いや、この場合はいいのか。サンキュー親父、助かった。

 我らが双子の父。一ノ宮太郎。職業はお笑い芸人。

 数十年前に『あぱダンス』という意味不明なギャグで一世を風靡した一発屋芸人。

 キー局の番組出演はほぼ皆無で、たまに呼ばれても「あの芸人は今」枠である。地方での営業や仕事がメイン。そういう仕事柄、家にいる時間もバラバラだ。

「あ、そうだそうだ! 玄関で銀髪のかわいい子ちゃんと遭遇したんだった!」

「えへへ……つい、玄関でばったり」

 親父の後に続いて、リオンが居間に戻ってきた。気まずそうにしている。

 実体化中のため、親父にもしっかり認識されていた。

「この子、どっちの知り合いだ?」

 今日まで俺と風花が一緒にいる事はほとんどなかった。それもあって、共通の知り合いという発想はないらしい。

 風花に目で合図を送った。上手いこと誤魔化してくれ。

「……ん(俺の方を指さす)」

「はぁ!?」

 おいおい、無茶ぶりが過ぎるだろ! 

「雪月の知り合い……だと? まさか誘拐したのか!? この恥知らず! お前みたいなバカ息子に、俺の跡は継がせないぞ!」

「一発屋の跡なんて継ぎたくないわ! だから、違うんだって。えーと、その、幼い外見だけど、海外からの留学生で。そんでウチのクラスになって、まぁ、そんな感じだよ」

「もしかして、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国から?」

「イギリスでいいだろ、そこは!」

 そして、天界からです。こじれるから言わないけど。

「うむ、留学生か。釈然としないが、そういうことにしておこう。あらためまして、雪月と風花の偉大な父です。ゴッドファーザーです。お名前を聞いても?」

 いちいち突っ込むのが面倒なので放置します。

「リオンはリオン!」

「ほうほう、リオンちゃんか。ちなみに雪月とはどういう関係なの?」

 余計なことを言うなよ。目で威圧しておく。

「雪月専用の淫乱肉奴隷です!」

「ふざけんな!?」

 考え得る中で最悪な回答じゃないか。笑ってんじゃねぇ。

「雪月だけズルいぞ! 俺も混ぜてくれ!」

「誤解だっての! 仮にも芸人なんだから、スキャンダルを気にしろよ!」

「安心しろ。俺レベルじゃ記事にもならん。うぅ……ひぐぅ……うえぇ…………」

「マジ泣き!? 父親のマジ泣きとか見たくないんだが!?」

 カオスだ。カオスすぎる。誰かなんとかしてくれ。

 助けを求めて、これまで静観していた風花の方に顔を向ける。

「……ぷい」

 しかし、顔を逸らされてしまう。兄好き好きの態度はどこに消えたのか。

 ふぅ、なるほど。親父の前ではいつも通りってことね。

 ブラコン全開な様子を肉親の前では見せたくない。そんなところだろうか。


「あぁ、もう! とりあえず飯作るから! 座って待ってろ、全員!」


 夕食はいつも以上に賑やかだった。

 ボケ倒す三流芸人、空気を読まない天使、ツッコミに回るしかない俺。一方で風花は、昨日までのように大人しかった。

 ――――もしかして、全部が夢だったんじゃないか?

 電気を消して布団に入る。

 今日の出来事を振り返ってみるが、後半はあまりに現実感がなかった。双子の妹からの告白、天使の登場、人類滅亡の危機、何もかも嘘みたいで。

 でも、親父の帰宅後は風花と会話をしていない。いつもの現実だ。

 だからこのまま朝になってしまえば、すべてが元通りになるんじゃないだろうか。

 冷静に考えて、俺たちが結ばれる未来は――――

「お・に・ぃ♪」

「……はぁ」

 パジャマ姿の風花が部屋に入ってくる。その腕には枕が抱かれていた。

「ねぇ、お兄。一緒に――」

「寝ない」

「えー、ひどーい!」

 くねくね、ふにゃふにゃ、俺の知っている風花ではない。

「やっぱ、夢じゃないんだな」

「夢のような日々だよ! 明日からフーとお兄が過ごしてゆくのは!」

 想像したくない。俺たちの関係が行き着く先、その未来を。

 実の兄妹で恋愛をする。簡単には受け入れられない。

 人類が滅んでしまう。そのインパクトで天秤がつり合っている。

「お兄、大好き!」

「正直さ、俺には分からない」

 風花を恋愛的な意味で好きになれるのか。その答えは俺の中にはない。

 考えたことも、考えようと思ったこともないのだから。

「大丈夫、安心して! 絶対にフーを好きになるよ! ううん、させてみる!」

「安心していいのか、それ……」

「だから、一緒に寝よ?」

「断る。初日からぶっ飛ばし過ぎだって」

「いけずぅ!」

 高校生の妹と同衾とか、考えただけでも悪寒が走る。

「心の準備がいる。急には無理だって」

「徐々に慣らしていく感じ?」

「それで頼む」

 慣れるのかは知らんけど。

「もぉー、仕方ないなぁ。じゃあ、今日はこれでおしまいっ――――ちゅ」

「っっっっ!?」

 風花の顔が近づいたかと思うと、頬に温かいものが触れた。

 指を当てると、わずかな湿り気がある。つまり、そういうことなんだろう。

「ば、ばか! おま、お前っ! 何やってんの!?」

「ふふ、照れちゃって!」

「照れじゃない! 怒りだ、これは!」

「妹のほっぺチューだよ? 嬉しいくせに~~~」

「ちっとは自重してくれ」

「無理ですぅ! 積年の想いを受け止めて(ハート)?」

 幼少期の抑圧が反動として現れる。そういった類の話かもしれない。

 お菓子を禁止されると、逆に甘いものへと惹きつけられてしまう。人は手に入らないものに憧れる。

 だけど、もしも、それを手に入れることができる状態になったら?

 狂ったように求めてしまうのではないだろうか。

「じゃ、お兄! おやすみ!」

「…………おやすみ」

 とにかく、これだけは間違いないだろうな。

 俺が愛した日常は戻ってこない。

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