1-4
「お兄、おそーい」
「わ、悪い」
俺は自転車通学、風花はバス通学なので、学校で一度解散となった。
待ち合わせ場所は自宅最寄りのスーパーマーケット。
到着すると、すでに風花の姿があった。あまりにも考えることが多く、ボーっとチャリを漕いでいたのが原因だろう。
「一つ確認なんだが、リオンはいつまでいんの?」
そして、何故かリオンの姿もある。どうやら周囲の人間には見えていないようだ。
道行く人がリオンに気付いた様子はない。
「いつまで? 二人が結ばれて、証拠を回収する時までだよ!」
「それは勝手にしてくれればいいけどさ。衣食住はどうするつもりだ?」
悪い予感がしている。
「ふへ? 二人の家にお世話になるよ?」
「何を言っている? ウチはペット禁止だから無理だぞ」
「ペットじゃないよ! 可愛い天使だよ!」
ほら見ろ、予感的中じゃないか。
風花の件は諦めるとしても、これ以上はもう譲歩するつもりはないぞ。愛すべき平和な日常を侵されてたまるか。
「大丈夫! 二人が性行為をするときは席外すから!」
「そこを心配してるんじゃねぇよ! んなことするつもりはねぇし!」
「えー、お兄ぃー? 人類が滅んでもいいのー?」
「やめろ! 今は何も考えたくない!」
先程の話を総合すると、妹と付き合うだけじゃ駄目なのだ。風花を『処女ではなくす』必要がある……どうやって?
うん、考えたくないよね。現実逃避も時には必要だ。
「とにかく、うちには金がない! 人一人、天使一体、養えんぞ!」
双子というのは、進学の度に二倍費用がかかる。
ただでさえ親父の仕事は不安定で、これ以上負担になることをしたくない。
「そこは無問題! 実体化さえしなければ、愚かな人間みたいにエネルギーを必要とすることもないから!」
この天使、ちょくちょく人間を見下してくる。
「なら、家にこだわる必要もないよな。その辺の公園とかでいいだろ」
「嫌だ嫌だぁ! せっかく人間界に来たんだよ!? コーラも飲みたいし、ポテチも食べたいし、ゲームもいっぱいしたい! だから、常に実体化できる環境が理想!」
「煩悩まみれだな、おい」
結局、実体化したいのかよ。
「いいの!? こんな可愛い子が夜の公園に突然現れて、ロリコンばかりの日本人男性が我慢できると思う!?」
「よし決めた。全ての日本男性を代表して、お前を懲らしめる」
「そんな意地悪ばっか言うと、実体化して『おまわりさん、この人ロリコンです!』って叫ぶからね! 雪月の人生終わっちゃうよ?」
「安心して、お兄! 『この人はシスコンです!』ってしっかりフォローするから!」
「だから、フォローになってねぇよ!?」
どっちにしろ、現代の社会ではアウトなんです。
「はぁ、分かったよ。ウチに居候するのは構わないけど、娯楽費とかは自分で捻出しろよ? そこまで面倒みないからな」
冷静に考えれば、この天使を野に放った方が危険だ。制御下に置く方がいい。
食費や光熱費が発生しないのであればギリギリ許容できる。
「心配しないで! お金は支援団体から貰えるから!」
「支援団体?」
「うん! 天使が人間界でも活動できるように、裏から支援する組織が複数あるんだよ! えっとね、有名なところだと――」
聞いたことがある団体名がちらほら出てくる。
これはあれだ、墓まで持っていかないと危険な話題だな。とにかくリオンの資金が潤沢であることは理解した。
「まぁ、自活をしてくれるなら文句はない」
「じゃあ、リオンも家族の一員だね! ようこそ、一ノ宮家へ!」
「いえーい、よろしくぅ! しめしめ、これで自堕落な生活が送れるじぇ」
あ、判断を誤ったか?
「んじゃ当初の予定通り、夕飯の買い出しをするか」
「じゃあじゃあ! リクエストしてもいい!」
「あ、あぁ」
風花が手を挙げて猛アピールしてきた。その事実に若干驚いてしまう。
普段は何を作っても文句言わないし、感想などは口にしなかった。
風香の好きなもの、嫌いなものが、イマイチ分かっていない。褒めるにしろ、貶すにしろ、意見やフィードバックを求めていた。
風花曰く、俺から家族認定されないようにあえて距離を取っていたと。そのために甘えや弱さを隠していと。
――――俺は、それがずっと寂しかった。
だから、こうして風花のことを知れるのは少しだけ嬉しいのだ。
「カレーがいい! お兄の作るカレー、好きなんだよね!」
「カレー、カレーな。うん」
男が料理を始めると、最初はカレーにこだわり出す(俺調べ)。
市販のルーではなくてスパイスから作る。
親父からは好評だったが、風花にもそう言ってもらえるのは、その、なんだろう。
報われた気持ちになれた。今後はカレーの日を増やそうかな。
「たまねぎとじゃがいもはあったはずだから、ニンジンと豚こまかな」
「あれは? パイナップル! お兄、隠し味にパイナップル入れてるでしょ!?」
「入れてねーよ! どういう味覚してるんだよ!」
「えぇ!? 入ってないの!?」
そんなバカ舌だと、料理を褒められても嬉しくないぞ。
「もしや、奥に感じるサーモンの風味も幻想?」
「もう、俺の料理を食うな!」
そんなアバンギャルドなカレーを作った覚えはない。
「あ、なら、フーが料理してあげよっか?」
「絶対にやめろ!?」
入ってないパイナップルとサーモンのニュアンスを感じる人間。
そんな奴が作った料理がどうなるか。推して知るべし、と便利な言葉があります。




