1-3
「お兄が好き。付き合って」
「正気か?」
えーと、何故か、双子の妹から告白されました。現場からは以上です。
本当にどうしたらいいんでしょうね? まずは色々と確認してみますかね?
「えー、質問いいか?」
「何、お兄?」
「手紙のT・Sはどこからきたんだ?」
まずは軽いところから。『ICHINOMIYA FUKA』だと、どうやってもT・Sにはならない。
仮にI・Fと記載があったとしても、まさか妹とは思わなかっただろうけどな。
「それはあれだよ! 『TWIN・SISTER』だね! 双子の妹!」
事前に分かった人はDMで教えてください(いや、どこに?)。
「そっすか……双子の兄妹って自覚はあるのね」
「当たり前じゃん! 生まれてからずっと兄妹でしょ! お兄、変だよ?」
「変なのはお前だと思うぞ……」
やばい、なんかもう頭痛い。
俺がおかしいのか。どうしてこうも開けっ広げなんだ。
「お兄って彼女いないでしょ? ノリで付き合っちゃおう?」
普通はもっとシリアスで然るべきじゃないのか。なのに現状は明るくて軽い。
「もしかしたら、『付き合う』の定義が違うのかもしれないな。お前の言う『付き合う』はどういう意味なんだ?」
「えっ、それは……えと、その、恥ずかしいよぉ……」
頬を赤くして、モジモジとしている。どうしよう、すげぇ気持ち悪い。
「だ、だからさ。それは、あの! お兄とチューしたり、あ、あとは……その、あのあの、エ、エ、エッチなことも……し、したいよ?」
「ほう、なるほどな――――――おうええええええええええええええええええええ」
その場でゲロをぶちまけた。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。後で掃除します。とりあえず、なんかキレイ目なBGMでも流してくれますか。
実の妹からこんなこと言われたら無理です。耐えられないっす。
「うわぁ!? 何やってんの、お兄っ!? フ―も割と頭おかしいけどさ。お兄もお兄で結構イカれてるよね!?」
「げほっ、げほっ……反論できねぇ……確かに、俺もやばいことしてるな……」
というか、自分で頭おかしいとか言うなよ。頭おかしいけど。
「あ、お兄さ。タッパーとかある? お兄の体が排出されたものは全部大切にしたい」
「やっぱり、お前はレベルが違うよ!?」
狂人界で金メダルを狙える。
とりあえず兄妹で仲良く吐瀉物の処理をした。どんな絵面やねん。この物語に構成作家がいるなら速攻クビにした方がいい。そいつも狂人だ。
「夫婦はじめての共同作業だったね」
「ケーキ入刀に謝れ。あれとは正反対の行為だろ。つか、誰が夫婦だよ」
「ツッコミが多いなぁ。キレが悪いね。最初のフレーズだけで、よかったんじゃない?」
「だまれ!」
どういう目線なんだよ。家柄的にも笑いにうるさいのは分かるけども。
「それで、お兄――」
「さっきから気になってんだけど、『お兄』ってなんだよ? いつもは『ねぇ』だったり、『ちょっと』だったり、名前すら呼ばないじゃんか」
思春期以降、雪月はおろか兄と呼ばれたことすら一度もない。
「ほんとはずっと『お兄』とか『お兄ちゃん』って呼びたかったの! だって妹ですもん!
でも、そう呼んじゃうと関係が固定されちゃうでしょ!? 妹心と恋心に揺られる乙女の気持ちを分かってよぉ! とにかく今は、お兄が爆発しちゃってるの!」
「ほう、何を言ってるのかさっぱりだ」
そして、普通に気持ち悪い。胃液が上がってくる。また吐きそう。
クネクネしている実妹の姿が見るに堪えません。
「てかてか、話が脱線しすぎ! しっかり、お兄の返事を聞かせてよ!」
「この反応を見て分からないか?」
告白の返事とかそういう次元じゃないんだよ。
普通に家族問題だわ。俺はこいつと一緒に住める自信がなくなったぞ。
「まぁ、妹だからね。お兄の気持ち分かっちゃうよ。つまりOKってことでしょ」
「おお、すげぇ。一ミリも分かってないじゃないか」
共に過ごしてきた一六年間の人生は何だったんだろうなぁ。
「それはそれでいいよね。これからお兄のこと、沢山知っていけるわけでしょ?」
「鋼のメンタル!」
「恋する乙女は強いんだよ!」
相手が俺じゃなければ、いくらでも応援してやるのに。
「はぁ……その、まず第一にさ。俺のどこを好きになったんだよ?」
「え、そんなの――――――」
あ、やばい。ミスった。
発言してから悪手だったことに気が付く。こんなの藪蛇でしかないだろ。
「まずは生まれてきてくれてありがとう。お兄がこの世に誕生したこと、その奇跡に感謝。さて、どこから始めようか。好きなところだよね。お兄が聞いたんだから覚悟してよね。まず声かなぁ。低くて男の人っぽい声、でもどこか中性的な印象もあって聞き心地がいい。録音したお兄の声を寝る前に聞くのが日課なんだ。えへへ、カミングアウト。恥ずかしい。次に顔。面食いみたいで嫌なんだけどね。お兄のクラスのバカ女と一緒にされたくないし。それでも、やっぱりカッコいいよね。特に目。長いまつ毛、透き通った瞳、優しげな目元。もう大好き。可能であればお兄の目玉とか舐めてみたい。美味しそう。顔のパーツで好きなところを挙げるとキリがないからこんくらいにしとくね。これでも自重してるんだから。褒めてほしいなぁ。お兄に頭なでなでしてほしい。やばい願望が。あぁ、本当に言葉って遅いよね。脳内ではお兄への愛が溢れているのに言葉が追い付いてないよ。テレパシーがあれば、このお兄への愛を一瞬で伝えられるのに! でもでも、それも味気ないか。言葉でいーっぱい好き好き大好きって伝えるね。あーもう好き、大好き。えーと、続きだよね。身長もちょうどいいよね。175・8cmってのが大きすぎなくて、小さすぎずでベスト。あんまり離れてると、ねぇ? ほら、そのキスがしづらいから! あーお兄とキスしたいキスしたい。薄い唇が好き。あ、お兄の飲みかけのジュースはいつも勝手に飲んでるよ。だから、間接キスは経験済み。それとそれと、さっきから外見的な特徴ばっかりだけど、内面も愛してるよ。お兄って基本ツンデレじゃん? そこが可愛い。今だってこんな意味不明な状況なのに、フーを傷つけないようにちゃんと向き合ってくれる。優しい。好き。大好き。結婚したい。お兄を独占したい。えーと、あとはそうだな――――」
「ふむふむ、やべーな」
途中までゲロ吐きそうだったけど、なんかもうライン超えたよね。色々と。
一周回って冷静だもん。この特級呪物をどう祓うか。臨戦態勢である。
「で、あとはね」
「いや、大丈夫だ。伝わったから」
「えー」
不満そうに頬を膨らませている。
何も知らない男子が見たら可愛いとか言うんだろうな。だけど、俺はもう怖いよ。
今もおしっこチビりそうだけど、なんとか気合で耐えてます。
「お前の気持ちはとりあえず分かった」
「何言ってるの、お兄? こんなの序の口だよ? 分かった気にならないで?」
こーわ。
「そ、それはすまない。だけど、多少はな? その、受け取ったつもりだぞ……?」
「ふふ、嬉しいなぁ。言いたくても、ずっと我慢してきたから」
そのまま我慢してほしかった。
しかし、どういう心境の変化なのだろうか。今の物言い的に、風花自身も『兄への告白』が忌避されることだと理解しているようだ。
俺と違って優等生なんだから、分かって当然なんだよ。
それがどうして急に。その理由に問題のすべてがあるんだと思う。
「どうして、今なんだ?」
だから、その理由とやらを聞かせてもらおう。
「叶わない恋だって知ってたよ」
風花が真面目なトーンで語り出す。
「実の兄妹だし、当たり前だよね。何度もネットで調べたけど、法的にも、道義的にも、倫理的にも、お兄とフーが結ばれる未来はない。その結論は出ていて」
「…………」
何も間違ってはいない。歴とした事実であり、社会のルールだ。
だけど、それを口にする風花の顔は見ていられない。悲しそうに笑うなよ。
「それでも、お兄を他の女に奪われるのだけは許せなかったから、妨害工作はずっと続けていたんだけどね。あのミーハー女たちがお兄に近づかないように奮闘したよ。そういう意味では夏野天君の存在には救われたなぁ。自分がダメな場合の第二プラン。お兄と夏野君が結ばれるのを陰ながら応援していたよ」
「……続けてくれ」
なんかとんでもないことを聞いてしまった気がする。
でも怖いので深堀りはしません。臭い物に蓋。今日から座右の銘にします。
「正直、諦めていた。なのに、女神――じゃなくて、天使が微笑んだの」
「天使? 何かの比喩か?」
「ううん、そのままの意味だよ。あのね、お兄。なんかさ、フーとお兄が結ばれないと、人類が滅んじゃうんだって」
「は、はぁ?」
想定外の方向に話が転がっていく。いきなり何を言っているんだ。
悪徳宗教に勧誘でもされたのだろうか。そんな荒唐無稽な話を信じられるわけがない。先程から頭がおかしいのは、その影響なのかもしれない。
「フーもまだ半信半疑ではあるけど……でも、少なくとも天使はいるよ」
「ちょっと待て、急にどうしたんだよ?」
「百聞は一見に如かず、かな――ってことで、リオン出てきてよ!」
「リオン?」
外国人だろうか。聞き馴染みがない名を虚空に向かって投げかける。
ぐにゃり。数秒もしないうちに、風花の視線の先に変化が生じた。
空間が捻じ曲がっている……? 校舎と空の境界線が陽炎のように揺れた。
「はいどーも! 天使のリオンちゃんでーす! いえい、ぴーすぴーす!」
「って、うわあっ!」
歪みから白いワンピース姿の少女(?)が立ち現れた。
銀髪藍眼。白い翼に金の輪っか。受け入れがたいが『天使』としか表現できない。
「あ、お兄にも見えるようになったね」
「……頼む。順を追って、説明してくれ」
実妹から告白されるのも非現実的だが、それよりもファンタジーな状況だ。
「さっきも言った通りだよ。この子は天使で名前はリオン。んで、この子から聞いたの。お兄とフーが結ばれないと人類が滅ぶって」
「なるほどな、そいつはすげぇや――んな、簡単に納得できるかぁ!」
「お兄は好きだけど、お兄のノリツッコミは嫌い」
「今、それ言う!?」
笑いに関しては相変わらず妥協がない。
「あはは! 面白いね、二人とも!」
宙にぷかぷか浮いている天使(?)は呑気に笑っていた。
頭を掻く。ぼちぼちスルーもしていられないよな。
「はぁ、それで? 貴方は?」
「可愛い天使ちゃん、かな?」
「あーなるほどね。面倒なタイプか」
俺の訊き方が悪いのか、頓珍漢な答えが返ってくる。
「えぇ、だって可愛くない!? この愛らしい顔! 小さいけどキュートな胸とお尻! 日本人の男が好きそうなロリ美少女って感じだよ?」
「日本人男性への偏見がすごいな」
一部そういう人がいるのは否定しないけど。
「お兄はロリコンじゃなくて、シスコンだからね!」
「どっちでもないわ!」
俺は天一筋だ。天、愛してるぜ。
「とりあえず、リオンだっけ? なんで人類が滅ぶ事態に?」
「リオンのミスが原因だね、てへ」
「てへ、じゃないわ! お前が諸悪の根源か!」
一体の不手際で人類滅亡とか、天界(?)の運営体制やばすぎだろ。
「うるさい、うるさーい! 君ら愚かな人間は『リオンちゃん可愛い』って、馬鹿の一つ覚えみたいに言ってればそれでいいんだよ!」
「なんだその態度! そっちのミスが原因なんだよな!?」
「戦争、不平等、飢餓、貧困、差別、汚職。君たち人類はどれだけの失態を犯してきた?」
「それはすみませんね!?」
我々人類の歴史を振り返って、完璧だったとはとても言えなかった。
なので、その点を指摘されると弱い。
「リオンも汚職疑惑だっけ? それが今回の原因なんだよね?」
「よくも人類のことを責められたなぁ、おい!」
「ひぃ、ごめんなさい~!」
ここまでの会話でリオンがお調子者であることは理解した。ポンコツさ具合も。
込み入った話を聞くなら、要領がいい人間の方が適任だろう。
「風花の方で細かく聞いてるんだろ? なら、風花から聞いたほうが早そうだ」
「りょーかい! なんか間違ってたら、リオンからも補足してー」
「任せて!」
得意顔をしているが、たぶん出番ないと思うぞ。
今日はなんかトチ狂っているけど、基本的に風花は優秀な人間だ。
「えーとね。まず、リオンがやったっていう汚職の証拠があるらしいんだけど」
「あ、疑惑じゃなくて確定でやってんのね」
天使のくせに真っ黒じゃん。
「それが流出すると、リオンが所属する政党が大ピンチらしいの」
「政党?」
「なんか天界にも政党があるみたい。与党であるリオン側は『今の人類を推進する』って思想で、野党側は『地球全体の調和を優先する』って考え方みたいだよ」
「なるほど。つまり、リオンが人類サイドなのか。なんか嫌だな」
「どういう意味かなぁ!?」
ぷんすか怒っている。こんなちんちくりんが、政治家とは到底思えないが。
「その汚職の証拠が、フーの身体の中に隠されているんだって」
「……どうしてそうなった」
天界の問題と、俺達の関係は、そうやって繋がってくるのか。
「細かいところは端折るけど、リオンはその証拠を回収したいみたい」
「よく分からんけど、普通に取り出せばいいんじゃないの?」
「それが無理らしいの。フーが処女だから」
「処っ!? ば、バカ! 何言ってんだよ、いきなり!」
鳥肌が立った。妹のそういう話は聞きたくない。
「そこは喜ぶとこでしょー。妹の『はじめて』を貰えるなんて、兄の役得だよ?」
「頼むから『役得』を辞書で引いてくれ!」
確実に使い方を誤っている。
そして、常識や倫理観が欠如している。
「とにかく! 証拠を回収するためには、フーの貞操の問題が関わってくるの」
「いや、その……なんだ。お前だって、いずれはそういうことを経験するだろ……」
最悪すぎる。どうして妹と、妹の貞操の話をしないといけないんだ。
「無理無理。お兄しか愛せないもん。お兄からフラれた場合は出家するよ」
そういうことか。ようやく問題の本質が見えてきたぞ。
選択を迫られているのは俺なんだ。風花の方針は明白だ。俺と結ばれないのなら、別に人類が滅んでもいいと思っている。
だから、俺が選ばないといけないんだ。
――――風花を選んで、人類を守るか。
――――風花を選ばず、人類を滅ぼすか。
「おい、リオン! どうして、この激ヤバ女の中に証拠を隠したんだよ!」
「し、仕方なかったんだよ! 突然のことだったし! そんな中でも美人を選んだつもりだよ! 男女交際する可能性が高いからね。まさかこんなイカれた娘だとは!」
「ねぇちょっと! 二人ともひどくなーい!?」
ひどくない。自分の恋愛のため、人類全体を人質に取っている奴よりは。
俺の選択に人類の命運がかかっているとか、どうしてこんな事態になってしまった。
「で、お兄。さっきの返事だけどどうする?」
「……一旦は検討ってことでいいか?」
人類が滅亡する前提がなければ迷わず断っていた。当たり前だ。
しかし、こうなってくるとワケが違う。
俺の我儘で人類全体を巻き込むわけにはいかない。最悪、人類はどうでも良いとしても、『天』と『ライオンズ』だけは守りたい。
「検討、検討って、政治家みたいなこと言って~。男らしくないよ、雪月!」
「うるせぇ! 汚職政治家!」
諸悪の根源がうるさい。この天使からの批判は一切受け付けないぞ。
いきなりOKができる訳がない。一六年間を共にした家族を、今すぐに異性と意識するなんて無理な話だ。
「え、ほんと!? お兄って意外と頑固だからダメだと思ってた! やった! 嬉しい! お兄と恋人になれるぅ! イチャイチャする! いっぱい、イチャイチャするぞぉ!」
「だから、まだOKだとは――」
「NOじゃない時点で大勝利だからっ! ゼロを五分五分、それ以上に持ってこれた時点で勝ったも同然! うっひょひょ、テンション上がるぅ! いやっほぉぉぉぉぉぉ!」
「…………」
今にも踊り出しそうな勢いだった。
妹とか関係なく、女としても全然惹かれないんだが。
「この後どうする? ホテルでも行く?」
「お前の恋愛観は、身内としてめちゃくちゃ心配なんだが!?」
兄として妹がビッチとか嫌すぎます。
「冗談だよ~☆ せっかく同居してるんだから、ホテル代が勿体ないでしょー?」
「あれ、問題ってそこなのか……?」
色々と疲れすぎました。ツッコミ力も低下しています。
「初日だしおうちデートにしよ? お兄の手料理が食べたいっ!」
おうちデートも何も同じ家で暮らしている。
もっと言えば、手料理も毎日振る舞っている(一ノ宮家の家事担当です)。
「もう、それでいいです……」
「ってことで、スーパーに買い出しに行こっ!」
言いたいことは山程あるが、逆らう体力は残っていなかった。




