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4-2

「お兄と過ごす箱根での休日!」

「あぁ、ライオンズの試合が見たい……」

 なぜか妹と箱根湯本にいた。夢だと思いたいが、しっかりと現実です。

 貴重な土日だというのに、ほぼすべての時間を風花と共に過ごすことになる。

「お兄あれでしょ? TVがある場所に行きたい――つまり、旅館でイチャイチャしたいってことだよね? もぉ、お兄の甘えん坊さん! 少しは観光を楽しもうよっ♪」

「うんちぶりぶり!」

 あはは、もうどうでもいいです。

 普通の神経だと持たないので、早々に壊れることにする。

「……お兄のボケって面白くない。所詮は頭おかしい人間に振り回されて、『バカなの!?』とかツッコんでるだけの人間。自分では『笑い』を生み出してない」

「急に芯食ったこと言うな!?」

 笑いに厳しすぎる。そして、俺を振り回している張本人に言われるのは心外だ。

「この二日間で『笑い』を勉強しよ、お兄?」

「余計なお世話だわ!」

 そこまで言われるほどじゃないと思う。

 ねぇ、俺ってそこそこ面白いよね? 俺と天の絡みとか結構面白いじゃんね?

「つーか、二日も休んでいいのか? 部活は?」

「家族旅行で休むって言ってあるよ」

「嘘ではないな……」

 ただの家族旅行だったら良かったのに。

 親父にはそれぞれ友人の家に泊まると言ってある。

 こんなにも親父にいてほしいと思ったのは人生初めてだ。

「あ、お兄! あそこのお店のはちみつチーズタルトが美味しいんだって!」

「よし、いくぞ!」

「ふふふ、かわいいんだからもぉー」

 なんだよ、はちみつチーズタルトってさ。絶対に美味いだろ。他にも温泉まんじゅう、カステラ焼、ソフトクリーム、魅力的な食べ物が多すぎる。

 恐怖の泊まりが控えているんだから、今だけはスイーツを楽しもう。


「すごっ! めっちゃ、もくもくしてる!」

「温泉の臭いがするな」

 ロープウェイで大涌谷まで移動してきた。

 移動中の景色もワクワクしたが降り立って眺めると圧巻だ。

 立ち上る白煙といわゆる硫黄臭から火山の活動を感じる。遮るものがないため風が強く、大自然の鼓動を体全体で堪能できた。

「お兄! フー、風で飛ばされちゃいそう! 手を繋いで!」

「そんな軽くないだろ」

「あん?」

 凄んでくるけど、どこか楽しそうな表情だった。

「ま、お兄への愛で重いのかもね?」

「うん、重量級だな」

 重すぎて怖いです。メンヘラの階級別では間違いなくヘビー級だ。

「ってことで、重すぎて動けませーん。手ぇ引っ張ってー」

「軽いんだか重いんだか……」

 理屈もクソもなかった。このままでは歩く人の迷惑になるので仕方ない。

「ほら、手」

「わぁい!」

 人間というのは慣れる生き物だ。一度やってしまえば割り切れる。

「ちょ、お前!?」

 前言を撤回します。前は手を重ねただけだったのに、今回の風花は指を絡めてきた。

 恋人繋ぎってやつです。

 同じ手を繋ぐという行為でも、これは初体験だし抵抗感もより強い。

「えへへー」

「いや、えへへじゃねーよ!」

「減るもんじゃないからいいじゃーん」

「神経がすり減ってるんだけど!?」

 何が楽しくて妹と恋人繋ぎをしなきゃならんのだ。

 だけど、こういう行為にも徐々に慣れてしまうのだろうか。次第にハードルが下がっていき、最終的には――考えたくない。

「楽しいね、お兄!」

「ん、まぁな」

 正直に言う。風花が楽しそうにしている姿を見られるのは悪くない。

 だけど、それが恋愛的な感情かといったら違う。

 人類が滅ぶのを回避するために(この設定忘れてない?)、風花とここまで恋人まがいの関係を継続してきた。

 本当にこのままでいいのだろうか?

 痛みを伴うが、別の男を好きになれるよう尽力する。その選択肢だって存在している。俺はどうすればいいのか。

 旅行の間に答えを出すべきなんだろうな。

「はぁはぁはぁはぁはぁ、お兄と指絡めるのしゅきぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃ」

「…………」

 うん、俺に選択肢はないのかもね。

 実妹が桃色吐息でよだれを垂らしている。それを見て、諦めに近い感情を覚えた。

「お兄、見て! あの黒いタマタマと一緒に写真撮ろっ!」

「黒たまごな!? 言い方に気をつけろ!?」

 風花が言っているのは、大涌谷名物『黒たまご』を模した黒いモニュメントだ。

 黒たまごは、地熱と火山ガスを利用することで真っ黒になったゆで卵である。要するにモチーフは卵なのだ。風花の物言いだと卑猥な何かを連想してしまう。

「お兄の黒たまご」

「やめろ! なんか意味深だわ!」

 俺が男であるせいで色々とややこしくなる。

「お兄の金の玉」

「今からお前を殴る!」

 それだとまんまじゃねぇか。

「あ、でもあれか! だったら、二つないとおかしいよね!」

「このネタ、まだ引っ張るの!?」

 いい感じにオチはついた。これ以上はクドい。下ネタは手軽で便利だが、使い過ぎると地獄を見る。親父の遺言だ(死んでない)。

「黒たまごを二つ買って、フーとお兄で一個ずつ食べよ?」

「流れ的にすげー嫌なんだけど!?」

 なるほど、こっちがオチか。

 大涌谷の名物に対して失礼な会話を繰り広げながらも、なんだかんだ旅行の非日常感を楽しんでいた。スマホで撮った写真も一枚二枚と増えていく。

 そのすべての距離が近い。

 事情を知らない人間にはカップルにしか見えないだろう。


実際に、

「なにあの美男美女カップル! え、インフルエンサーとかじゃないよね?」

「あの子可愛いな! けど、やっぱ彼氏いるよなぁ! しかもイケメだし! くそー」

なんて地味に注目を集めていた。


 俺はともかく風花は見た目だけはいいからな。そのヤバすぎる中身が露呈したら、全員が逃げ出すと思うけど。こいつ、ただの怪物ですよ?


「じゃあ、お兄。小涌谷まで移動するよ」


 大涌谷での観光を満喫したところで(黒たまごは何だかんだ美味かった)、次の目的地が告げられる。

 またしても何も知らない一ノ宮雪月さん(16)。

「次もロープウェイで移動するのか?」

「んにゃ、バスで移動するよ! ちなみにバスはあれです!」

「あ、あ、あれは!?」

 車体の中心にライオンズファンお馴染みのマークが! あぁ、まさか箱根でも拝むことができるとは!まだ乗っていませんが、さぞ乗り心地もよいのでしょう(仕事ください)。

「よし決めた。俺は西◯グループと仕事する」

 口にも出てしまった。始球式に呼んでください。面白さに自信があります。

「お兄、それは無理だよ。下品な発言多いじゃん、この作品……」

「元凶が言うな!? メタ発言もやめとけ!?」

 こんなところで親父の遺言(生きてる)の重みを知ることにはなるとは。

 ちゃんと風花を改心させます。これからは誰も傷つかない、スポンサーも安心ができる笑いを追求しますので。

「CMの後、ついにお兄とフーがエッチします!」

「台無しだよ!」

 始球式に出る夢が潰えました。

 そして、CMも何もメディアミックス展開も厳しいんじゃ……?


「どうしてこうなった」

 館内着の作務衣に着替えていた。もちろん風花もである。

 男女二人で温泉旅館。彼女の普段見ない姿にドキドキ――なんてことはない。

 だって、こいつのパジャマ姿とか何回も見たことあるし。

 特別感がちっともないのだ。

「お兄、どうどう!? 可愛いー?」

「可愛い可愛い」

 心を無にするのも慣れてきた。俺には感情がない。

「やったぁ♪ お兄、しゅききっ!」

 腕に抱き着いてくる。柔らかいのが当たっているが何も感じない。

 これが無我の境地か。なんで『個』という曖昧な現象に固執していたのだろう。

「首筋にチュー」

「うへぇっ!? ふざけんな!?」

 俺にもまだ感情が残っていたみたいです。

 首筋に突然キスをされたら平静ではいられません。

 こそばゆくて、ぞくぞくして、言語化したくない感覚が脳に伝播する。

「ここからイチャイチャし放題だよ?」

「あは」

 おわった。天、好きだったぜ。

 風花に連れられるまま小涌谷にバスで移動し、歩くこと十数分して、恵さん名義で予約した温泉宿にたどり着いた。

 和モダンで上品な外観。お高そう。案内されたのは和室の部屋だった。

 誤用の意味で俺たちには敷居が高い。完全に場違いである。

「お兄、お兄! この部屋ね、露天風呂ついてるんだよー?」

「ほうほう」

 これで一目も気にせずに露天風呂を堪能できるってわけだ! こりゃすごい!

「一緒に入ろ、お兄?」

「ホウホウ(フクロウの真似)」

「奇行は止めようね?」

 誰よりも奇行が多い妹に言われました。え、死にたい。

「お兄と混浴♪ 混浴~♪」

「いや、高校生の妹と一緒に風呂とか無理だって」

「え~? とか言って、小学一年生くらいまでは一緒に入ってたじゃ~ん?」

「わりと普通だよ!」

 イジられるようなことでもない。他にも結構いると思うぞ。

「安心して! おっぱいはしっかり育ってるから!」

「そこに不安はないっての! 倫理とか道徳とかそっちの問題だから!」

「まーまー、とりあえずご飯食べに行こ?」

「……だな」

 フロントで案内された共通の食事処へと向かう。

 この後のことさえなければ、めちゃくちゃ最高の旅なのに! 

 昼は存分に観光して、夜は温泉宿でくつろぐ。

 ここ最近はストレスが溜まることが多かったので、ぜひとも温泉の効能で癒されたい。

 だけど、そのストレス源が一緒だと休まるものも休まらないっす。


「美味しかったね、お兄!」


 最後の晩餐。おいしゅうございました。

 温泉宿の料理ってなんでこんな美味しいの。自分で食事を作っているので、手の込んだ料理には必要以上に感動してしまう。

「うん、美味かった。デザートの柚子シャーベットもよかったな」

「ほーんと、甘いもの好きなんだから~」

「別にいいだろ」

「拗ねない拗ねない。可愛いなぁ、もぉ! もぉ!」

「やめろ! んな、温い目で見るな!」

 妹から向けられる視線ではない。赤ん坊やペットを愛でるような目だった。

「うぅ、フーも早くデザート食べたいよぉ」

「あのー、俺を見ないでくれるかな?」

「喋るデザート?」

「おい、ふざけんな!?」

 人をデザート扱いするな(色んな意味で)。

「……幸せすぎて怖いなぁ」

 浅草の時もそうだった。

 風花は楽しいこと、嬉しいこと、幸せなことを必要以上に恐れている。

 それはこの関係が不安定な大地に根ざしているからで。目を背けているが、俺達の関係が行き着く先は――ハッピーエンドではない。

 問題は山積みだ。世間の目、親父や周囲の友人との関係。

 そして、俺自身の気持ち。

 風花を選ぶならすべてを捨て去る覚悟が必要だ。生半可な気持ちではいけない。

 一生消えない傷を残して、二人で生きていくことになるんだから。

 俺はともかく風花が苦しむことになる。それは俺の望むところではない。

 だって、俺は――――


「このあとお兄とえっちして、朝にまたえっちして、お昼は美術館に行って、帰りの電車で二人寄りかかりながら東京に帰る。あまりにも幸せすぎるよぉ」

「風花さーん? 俺の独白を前フリにしないでー?」


 シリアスパートが短すぎるんだよ。シリアス挟むなら、もうちょい尺をくれよ。

「じゃ、部屋に戻ろっか?」

「い、いや!? その前に大浴場に行こうぜ!? せっかく来たんだし!」

 時間を稼ごう。

 焼け石に水だとしても二人きりの時間を減らすんだ。

「妹に大欲情?」

「違うよ?」

 風花から逃げるようにして大浴場へと移動した。


「ふぅ……」

 やっぱり温泉はいいな。家の風呂とは比べ物にならない解放感だ。

 熱い湯に浸かって、ただボーっとしていたら、小さな悩みなんて吹き飛んでしまう。

 うん、まぁ、小さな悩みならね? 

 ほらさ、俺の場合は大きな悩みだからね。頭の片隅にずっとあったよ?

「はぁはぁ……おにぃ……ぐへへ……っ!」

 どうしよっか、これ?

 部屋に戻るなり、風花に押し倒されました。

 荒い呼吸、温泉で火照った肌、はだけた館内着、とろんとハートマークの瞳。

 いつ捕食されてもおかしくない状況だ。

「お、落ち着け?」

「それは無理な相談だよぉ。目の前にセクシーな夏野君がいてお兄は我慢できる?」

「くっ、できないっっ!」

 間違いなく食べる。天に嚙みつきたい。かぷりかぷり。

「フーの気持ち、分かった?」

「理解はしたけど時間をください!」

 心の準備が出来ていない。そもそも折り合いがつくのかも分からなかった。

 だって、血の繋がった妹だぞ? 禁断の行為だぞ?

「じゃあさ、まずはお風呂入ろっか?」

「うぐぐ」

 それも嫌すぎる。だけど、準備運動というか。

 最終的な判断を下すための前段階としては丁度いいかもしれない。

「……分かった。そうしようか」

「もぉーお兄は仕方ないんだからー、よいしょ――」

「待て待て!? ここで脱ぐなよ!?」

 風花が館内着を脱ごうとしたので慌てて静止する。

 チラッと黒い下着が見えてしまったがやはり興奮はしない。

「どうせ一緒に入るんだし、よくなーい?」

「良くない! 俺が先に入るから! 覗くなよ!」

「お兄、女の子みたいなこと言ってるー」

 誰かさんが超肉食系だからです。

「いいか、絶対に覗くなよ?」

「だいじょーぶ! 絶対に覗かないよ!」

「…………」

 脱衣所に移動する。そして着替えをせず、扉を正面にして立ち続けた。

「お兄の生着替えっ!」

「……申し開きはありますか?」

 当たり前のように風花が侵入してきました。まぁ、分かっていましたよ。

「ごめんなさい」

「戻れ?」

「はい」

 風花はトボトボと脱衣所を後にする。

 さて……と、もう一度、扉の正面で待機してみましょう。

「なーんてね! って、いたぁ!?」

「バカなの?」

 脳天にチョップ(強め)を喰らわせる。

「お兄のパンツ食べたい」

「真顔で何を言ってんの!?」

「おパンちゅが食べたいのだ!」

 アホな顔をしていた。一応は整った容姿が泣いている。

「もう、風花が先に入ってくれ……」

 このやり取りを何度も繰り返したくないし、俺が先だと下着を守ることができない。

「うふふ、覗いてもいいよ?」

「あ、大丈夫です」

 頼まれても別に見たくない。

 風花と入れ替わりで脱衣所を出る。数分くらい経ってから、「お兄、入ってきていいよー」と声が聞こえたが一分くらい様子を窺う。

 すると、「裸で待機してるのがバレてる!?」と騒ぎ出した。予想通りです。

 少し時間を置いてから脱衣所に入りそそくさと服を脱ぐ。腰にタオルを巻いてしぶしぶと露天風呂へ移動する。

「お兄、いらっしゃーい!」

 風花はすでに檜風呂に浸かっていた。

 長い髪をお団子状にまとめ、白い肩が湯の外に晒されている。

 俺と違って体にタオルは巻かれていない。自分の妹でなければ扇情的な光景だ。

「……逃げてぇ」

 妹と混浴だぞ? 俺は正常か? いや、おかしいよ?

 風花と付き合い出してから、セーフアウトのラインがバグっている。

「さぁさぁ、おいで♪ お兄♪」

「詰めてくれ」

 部屋備え付けの露天風呂だ。そこまで大きくない。二人浸かるのでギリギリだ。

 向かい合うのは勘弁願いたいので、風花の背中側から入湯する。

「キャッ!」

「へ、変な声を出すな!」

 否応なく、肌と肌が触れ合った。それは腕や脚だけには留まらず、体のありとあらゆる部分がピタッと隙間なく重なりあっている。

 それでもタオルで隠している一ヵ所だけは、触れないようにと必死に態勢を保つ。

「お兄、なんか変な座り方してない? 足つっちゃうよ?」

「いいや、大丈夫だ」

 これが風花に当たってしまうくらいなら、つってしまった方がまだいい。

「それじゃあ、えいっ♪」

「っ!」

 風花が体をこちらに預けてきた。体の密着範囲が格段にアップする。

 ちくしょう、こっちの気も知らずに。

 風花の場合はある程度分かってやっているんだろうけども。

「お兄の肌すべすべー」

「お、おい! あんま触るなって……」

 こんな状況だというのに脛の辺りをさわさわと擦ってくる。

 触り方もいやらしい。

 悪寒なのか、快感なのか、判断できない刺激に身震いをしてしまう。

「お兄」

「……なんだよ」

 風花が器用にその場で半回転して、向かい合うような格好になる。

 その表情はいつもと違った。珍しいことに頬を真っ赤に染めている――きっと、これは温泉の熱に依るものではないんだろうな。明らかに真剣だった。

「お兄が好き、なの」

「あ、あぁ」

「うん、だから……ね?」

 風花の手が脛から太ももへ、次に鼠径部。目的地に向かって、恐る恐る、でも着実に。

 そして、ついに――――触れる。


「やめろ!」


 思わず叫んでいた。体が、脳が、本能が、風花の接触を拒んだ。

 告白の時の吐き気とは比にならない。このまま交わってしまうなら、俺は死んでもいい。そう思ってしまうほど、強い拒絶反応が肉体から生じた。

 腰を浮かして湯船から体を引き上げる。風花に背を向けて、脱衣場に向かう。

「お、お兄……?」

 絶望の滲む声が背中にぶつかる。

 真剣な告白を、最低なカタチで拒絶されたんだ。無理もない。

 だけど風花が真剣であればあるほど、俺は受け入れることが出来ないのだ。

「頼む、考えさせてくれ」

「……え?」

「曖昧な気持ちのまま、お前を受け入れてきた。それが間違ってたんだよ。今のままじゃ、風花が不幸になる」

「お兄と一緒ならそれでいいのっ! 他は全部失ってもいい! だからっっ!」

「それじゃあ駄目なんだよ!!」

 怒鳴っていた。その言葉だけは認められない。認めてたまるか。

 そんな結末のために、お前と付き合う真似事をしていたんじゃないんだよ。

「待って、お兄……っ!」

「俺は寝る。もちろん、布団は別だ。変な事はするなよ」

 ただ、冷たく突き放す。

 中途半端な同情は毒にしかならないのだから。

「そんなのって、ないよぉ……」

 すすり泣く声は聞こえないフリをして浴室を後にする。

「――――ごめん、な」

 翌日も風花との距離は変わらない。会話も事務的なものだけで、チェックアウトした後はそのまま東京へと帰ることに。

 風花の希望する旅行プランは実現することがなかった。

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