121 新情報
「─────てな感じで、ほんとにやばかったんだよね…まぁいい人なんだけどさ……」
「そ、そんな人だったのね……知らなかったわ…」
今は学院の放課後だ。
フィリアさんと会ってきた感想を、雑談のネタにしている。
「どちらかと言えばシーナに似てるよね」
「わ、わたし!? そんなにひどい!?」
「だって実技試験の時テアの像作ってたし」
「あ、あれは…」
まぁ確かに、推しに対する想いという面ではシーナと似てるね。
昨日は、あれからなんとかフィリアさんの情緒を安定させ、宮廷魔術師団の訓練も視察できた。
訓練を見る限りは、私の変な指導なんて絶対しない方がいい、というのが結論だ。
私やテアの本気には敵わないとして、間違いなくその辺の悪人ならボコボコにできるほどの力は持っている。
魔物に関して言えば、ウルフはもちろんのこと、タイガーも1発で仕留められる程度の威力はあると思う。
さすがは宮廷魔術師と謳っているだけあるよ。
とは言っても、フィリアさんも「最近ウチの魔法が桁違いに強くなってるんよ」と言っていた。
おそらく魔力量の増加によって、相応の威力になってきているんだろう。
努力が報われていて、大変にいいことだよ。
さてさて、とりあえずやらなきゃいけないことはやり終えた。
私にもう仕事は残ってない。
もう自分の好きなように生きるから!!
魔法陣の解読? 魔導書の解読?
もういいよ。そんなのはあの研究所の人たちに任せたよ。
ネアン先生も「あの人らに任せておけばいいのよ」と言っていた。
もし私がどうしても知りたくなったら、あのカミサマに聞けば何かしらわかるし。
チーズも入手できたし、ラーメンも作れそうだとわかったし!
もうやることリストいらない!
破棄!
あのシステムやめた!
なんか使命感に駆られてしまう。
異世界に来てホヤホヤで、あれもやりたいこれもやりたいと少し興奮していたのかもしれない。
……フィリアさんの情緒に影響されて、私までおかしくなってしまったのかもしれないよ。
「よしっっっ!!!」
「「 いきなりなによっ!? 」」
こういう時は、お姉さんに慰めてもらうに限る。
日本にいた時ずっと1人だった私は、この世界に来てお姉さんの抱擁力を体験して以来、それに味を占めている。
レーナさんの元に行こう。
ノーエさんもいいんだけど、今は仕込みの最中で忙しいと思う。
「デューセルに帰るわ!!!」
「「 う、うん…? 」」
ひとまずイリアさんのお店でカレーを食べて心を落ち着かせることにしよう。
「ほんとに美味しい……」
何気に2週間ぶりだ。
米があれば最高なんだけどなぁ……。
毎日食べてたら飽きるかもしれないけど、2週間に一回ぐらいのカレーなら全然許容範囲だ。
2週間に一回どころか1週間に一回でも余裕だ。
「ねぇ、リンちゃん」
イリアさんが話しかけてきた。
今は私の前にイリアさんとセルニアさんがいる。
セアは仕事で疲れて寝ているようだ。
それより、セルニアさん本当に久々に見たよ。
「どうしました?」
「1つ、相談したいことがあるの………いつもリンちゃんに迷惑かけてお世話になっているのに、その…」
「えっ、なんですか。そんなこと気にせず早く言ってください!!」
「ごめんね。実は……─────」
「なにぃぃぃっ!? なんでそんなこと黙ってたんですかぁぁっ!!」
要約するとこうだ。
このお店のカレーのレシピを狙って、ある街の商人を名乗る男が近づいてきたそうだ。
最初は丁寧にレシピを教えてくれと頼んできたようだが、セルニアさんがこだわり抜いたカレーのレシピだ。
そう簡単に教えるわけにもいかず断っていたら、逆ギレされて強迫されているらしい。
その脅迫の中身がなんとも幼稚だった。
「俺は有力な貴族様に気に入られている」「教えないとこの店がなくなる」「後悔することになる」「金でどうにでもできる」などなどだ。
「そ、それはその…わたしたちだけで解決できるなら……いつもリンちゃんを頼るわけには……その……」
「もう!!! イリアさんのバカっっ!!」
「そ、そこまで言わなくたって……」
「もしこれでイリアさんたちに何かあったらどうするんですか!?」
「そっ、それは…」
「って、お説教みたいになってますけど、イリアさんだって私が指摘したことを恐れたから、私に相談してきたんだと思うんです」
「その通りよ…」
「私が言ってるのは、もっと早く、私を頼って欲しかったってことです!! もうっ! 今度から絶対にすぐに言ってくださいよ!」
「そっ、そうね…」
ほんとに、心配かけないでよ。
夜中にでも襲われたらどうするのよ。
「ちなみにそれ、いつ強迫されたんですか?」
「……さっきよ」
「おっ………ふぅ…」
まじでごめんなさい。
「あの、ごめんなさい……私が早とちりしました…」
「それだけリンちゃんがわたしたちを心配してくれてたんだもの。圧倒されちゃったわ」
「うー…」
はずかしいよぉ…
と、とりあえず!
そういう事態が起こってることに変わりはない。
これは今すぐ学院に休みをもらって、このお店を守ることに徹するしかない。
「その男って次にいつ来るとか言ってました?」
「明日レシピを取りにくるって言っていたわね。もうあの男の中では、わたしたちはすでに屈したと思っているようだったわ」
「とことん横暴なやつですね…」
お前のモノも俺のモノ理論を本当に使うやつがいたとは。
あの理論は異世界にも共通だったわけだ。
「セリには伝えますけど、他の人たちにはどうしますか?」
「あまり大事にしてほしくないのよ…」
「目立ちたくないってことですか…?」
「リンちゃんには、甘い、なんて言われるかもしれないけど、どうしても悪い人には見えなくってね…」
「いやいや、暴力を振るわれたりするかもしれないんですよ!? 甘いなんてもんじゃないですって」
「それはそうなんだけどね…本当にそんなことまでするのかなって」
「まぁするしないはわかりませんけど、脅迫紛いのことを言った事実に変わりありませんから、絶対に容赦はしませんよ」
イリアさんがいい人すぎて困ったよ。
どう考えても悪人だよこれは。
どんな事情があれ、脅迫という手段は絶対に良くない。
その人が家族を人質に取られて、なんてこともあり得るかもしれないけど、カレーでそんなことになるとも思えない。
とにかく、ノインさんに報告してみて、何かしらの情報があれば、明日までにも集めておきたい。
テアには護衛としてイリアさん達のそばにいてもらうことにし、私はノインさんの元へと向かう。
不穏な空気が漂ってきましたが………どうなるのでしょうか。




