119 アイドル?
「あ゛〜〜〜やばい」
今日、学院でサリナさんとすれ違った。
その時にした会話を思い出す。
『そろそろ宮廷魔術師の訓練見てあげたら? 団長さんが全然来ないって悲しんでたわよ?』
『えっ? 悲しんでるんですか?』
『当たり前じゃない。全然行ってあげないんだもの。何か嫌われるようなことしたかもしれないって悲しんでたわよ』
『そ、そんなつもりはなかったんですけど…その…』
『わたしが適当に誤魔化してあげたから。できるだけ早く行ってあげないと、本当に立ち直れなくなっちゃうわよ』
『そんなにですか!?』
『ふふ』
ということらしい。
時刻は夕刻前。
こう見えて私は青春で忙しい。
テアを撫でたり、テアと遊んだり、テアを眺めたり。
イリアさんのお店に行ったり、セリやシーナと街の中を散策したり。
クラスのみんなで遊んだり、綺麗な景色を見に行ったり。
ノーエさんの家で一緒にケーキを作ったり。
魔物を討伐したり、冒険者ギルドに売りに行ったり……。
ま、まぁ最後はともかく、毎日30時間あっても足りないくらいだ。
宮廷魔術師団のことは完全に忘れていたが、さすがにここまで言われたらもう放っておけない。
見にいくとしよう。
魔術学院から出て10分ほど歩くと、寮がある。
普段はここまでしか来ないのだが、そこをさらに通り越し5分ほど歩くと、新たな建物が見えてくる。
これが高等魔術学院だ。
そしてその横に併設されているのが、宮廷魔術師団の本部だ。
なんとも立派だね。
王国騎士団は、グラウンドのような場所で練習しているのだが、宮廷魔術師団は球場のような場所で訓練をしている。
つまり上からは見えるけど、単純に外側からは見えない。
だからあんまり来なかったと言うのもあるかもしれない。パッと立ち寄りにくい。
私は悪くないよ。こういう構造にした人たちが悪いんだよ。
それにお気づきかもしれないが……。
ここは、私たちが学院を受験するときに使った、実技試験の会場だ。
今となってはなんとも懐かしい話だね。
さて、覚悟を決めて宮廷魔術師団の建物へと入ることにする。
門兵などはいないようだ。
建物の中に入ると、受付のような場所に何人かお姉さんが座っている。
受付のお姉さんに話しかけようとした、その時
「………えっっ!? リン様!?」
「えっ、うそ!?」
「ほんとだ……つ、ついにリン様が…!」
「ようやく来てくださったのですね……リン様……なんとお美しい……」
「そ、そんなことよりも早くフィリア団長にご報告を!」
「はっ、はい!」
え?
受付のお姉さんたちの騒ぎを聞きつけ、奥から、横から、扉から、色々な場所から女性たちが出てくる。
皆が口々に「きゃーーーっ!!」と自我を失ってしまっている。
私は全国ツアーを回ってるアイドルか何かですか?
そんな私を置き去りに、受付ではくじ引きが始まっていた。
「はずれたんだけどぉー!!」
「最悪…わたしも……」
そんな中、1人のお姉さんが、一斗缶で殴りかかってきそうな勢いで叫び上がる。
「っっっっしゃオ゛ラァ!!!」
「ちょっとシェラ! あんたせこいわよ!」
「フンっ! くじ引きにせこいもせこくないもないですーっ!」
「わたしがリン様をご案内♪ふんふんふっふ〜ん♪」と、当たりを引いたお姉さんが近づいてくる。
一斗缶とか持ってない? 大丈夫??
「リン様…っ! ど、ど、どうぞこちらに!」
「えっ、は、はい…あの…はい……?」
「我々がリン様のお姿を見間違うなどあり得ません! 早く、どうぞこちらにっ!」
「う、うん…?」
一斗缶お姉さんが私を案内してくれる。
その間にも「わ、わたし、もう明日死んでしまうのかしら……なんとも幸せなことなんでしょう………」と、ぶつぶつ言っている。
やめてよ。
私の知らない間にどんな噂が立ってんのよ。
恐る恐るお姉さんに聞いてみる。
「あの、私って有名なんですか……?」
「ゆ、有名!? そんな次元ではありませんっ! リン様は我々の」
やべっ。聞いちゃいけない質問だっ…
「───アイドルですっっ!」
「かぁっ……ぱぁ…っ……」
よくわからない効果音を口にしながら、私の思考回路は撃沈した。
誤字報告ありがとうございますっ!
大変助かっております!




