118 立派な人たち
私がラーメンを配ってから2週間ほどが経過した。
ラーメンを早急に作ってくれと毎日のように言われているが、あれはなんせ時間がかかる。
その上、必要となる材料を調達するのも難しい。
まぁ種類を問わなければ、動物や魔物の骨はそこらに転がっているだろうけど、6時間以上もかけてスープを作ったのに、美味しくないとなれば中々ショックだ。
ガラや食材選びは慎重にいきたいところだからね。
さて、今日はというと、以前から気にかけていた人たちの元へ行くことになっている。
もちろん、相手の許可はあらかじめもらってある。
学院の授業がおわり、王都のとある施設へとやってきた。
ここは、国が管理している施設で、孤児や訳ありの人たちを保護している場所だ。
施設の概要だけ聞くと、少しマイナスなイメージがあるかもしれないが、中に入ってみるとかなり綺麗だ。
それに、ここで作っているのか、可愛いアクセサリーや洋服なども売っている。
ちょっとした商業施設みたいだ。
少し奥に向かうと、新たに入口のようなものがあり、受付のお姉さんが座っている。
ここから奥が、いわゆる寮みたいなものになっている。
「今日はどうされましたか?」
「人と会う約束をしているんですけど、リンといいます」
「リンさんですね。少々お待ちください」
受付の人が何やら書類をチェックしている。
「確認しました。3階の広場でお会いになるそうです」
「ありがとうございます!」
寮の中に入り、階段を登り3階へと向かう。
エスカレーター欲しいよ。
3階に着くと、1人の女性が私の姿を見て駆け寄ってきた。
「リンちゃ〜ん!」
「テリスさん!」
バルナ達に家族を殺され、売り物として監禁されていた人たちだ。
とてもそんなことがあったとは思えないほど、立派な表情をしている。
「リンちゃん、元気だった?」
「私なんて元気が有り余ってますよ。見ててください」
マッスルポーズをとってみる。
「なんか無理してるわね」
「えっっ」
「わたしなら心配ないわよ、ほら」
そう言うとテリスさんが私の真似をし、マッスルポーズをして見せた。
「リンちゃんは相変わらず顔に出るのね。わたしはもちろんだけど、一緒にいた子達ももう大丈夫よ。だから、いつも通りのリンちゃんでいてちょうだい」
「う、うぅ……わ、私……その…テリスさん…が……ぐすっ…うぐっ……」
「ちょっと!! もう! すぐ泣かないでよ!」
もう歳のせいなのか、涙が止まらない……。
あんなことがあっても、こうやって強く生きている人たちがいたんだ…。
私なんかには想像できないほどの苦しみや悲し─────
「いてててててっ!」
テリスさんが私の頬をつねってきた。
なぜか知らないけどこういう時だけは痛みを感じる。
私の体はどうなってるのよ。
「リンちゃんっ! もうそんな顔するのはやめよ! 早くおいで。みんな待ってるわ」
「ひゃっ、ひゃい! いちゅまじぇ、ちゅねってりゅん、でしゅか!」
「あら、ごめんなさい」
テリスさんが私の頬から手を離す。
「つい、スベスベで柔らかかったものだから。若いっていいわね」
「テリスさんだって美人さんじゃないですかっ! 私みたいな子供には背伸びしても勝てません」
「あらら。お世辞も一人前なのね?」
「もうっ! 早く行くって言ったのテリスさんでしょっ!」
「ふふっ」
テリスさんについて行くと、見覚えのある人たちがいた。
名前はわからないけど、あそこにいた全員の顔はしっかり覚えている。
今後一生、忘れることはないと思う。
「リンさんだっ!」「リンさ〜ん!」「リンちゃん〜っ!」
いろんな声が聞こえてくる。
「みなさん! お久しぶりですっ!」
「この笑顔を見ると、向こう100年分は元気をもらえるわね」
「ちょ、ちょっと、やめてください!」
「恥ずかしがらなくていいのよっ」
「うー」
恥ずかしい。
私の笑顔にそんな価値はない。自分でそう思っている以上は恥ずかしい。
それはともかく、改めて近くで顔を見ると、みんなの表情が明らかに前を向いている。
起こったことは私とてどうしようもできないから、そのことをいつまでも考えていても意味はない。
みんなが、自分自身で、立ち上がろうと決意して今こうやって笑っているんだ。
私が一生面倒を見るわけにはいかないけど、上から目線なのは承知で、何か力になれるものはなってあげたい。
「ところでリンちゃん、今日はどうしたの?」
「えっ、みんなに会いにきたんですけど」
「「「「 えっ? 」」」」
「え?」
「そ、それだけのためにわざわざ来てくれたの?」
「それだけ…? 会いに来ただけと言われればそうですけど、それで良くないですか?」
なんだろ。私の感覚がズレてるのかな…?
私、友達いなかったし、こうやって人と喋ることの楽しさに気づいてから、人に会いにくるという目的だけで行動できるようになぁぁっぁぁあ!?
みんなが勢いよく私を抱きしめてきた。
「うがーっ! く、くるしい! て、テリスさん!! む、胸が! ないけど! 胸が!」
「ちょっと! 失礼ね!」
うん。この感触は間違いない。
テリスさんは私の仲間だね。
しばらく雑談を交えながら、近況報告もしてもらう。
今のところ、困っていることさ特になさそうだ。
1つあるとすれば、出身の街や村に帰りたいと思っている人もいることかな。
それは私が決めることじゃない。あくまでここには一時的にいてもらっただけで、もう大丈夫というのなら、好きに生きて欲しい。
安全という面ではここはこれ以上にないほど安全だ。
とはいえ帰りたいと思う反面、やっぱり怖いと感じてしまう気持ちも理解できる。
「もし故郷に帰りたくなったら言ってくださいね。私が護衛につきますし、バルナ達も部下ともども全員処刑してあります。バックにいた貴族までは捕まえられなかったんですけど…」
「ありがとうね。それはもう大丈夫よ」
続けてテリスさんは言う。
「私たちも、故郷に友人を置いてきているから帰りたい気持ちもあるんだけどね、ここにいるみんなと別れるのも、それはそれでね」
ここにいる人たちは、みなが被害者だ。
言い方はともかく、少なからず地獄を共に過ごした仲間とも言える。
何か特別な友情や気持ちが芽生えているのは、言うまでもない。
「私たちはもう、いい歳した大人よ。リンちゃんがこんなに頑張ってくれているもの、私たちだけいつまでもめそめそしてるわけにはいかないわよ」
「テリス〜。それ前にも言ってた」
「べ、べつに何回言ってもいいじゃない!」
みんなの様子を見る限り、本当に大丈夫そうだ。
テリスさん達には改めて、何か困ったことがあれば遠慮せず、すぐに言うように、と言い聞かせておく。
そのあと、みんなとクシミルさんのお店へと向かうことにする。
もちろんクシミルさんと寮の人には事前に伝えてある。
人数は30人程度だったので、金貨15枚程度を渡し、適当に料理を作ってくださいと頼んでおいた。
最初は15枚も貰えないと言われたが、私の思いつきで2日前に頼んだこともあって、急な大人数の予約を受け入れてくれた感謝の気持ちも入ってる。
その代わり、最高に美味しい料理を期待してますと言うと、嬉しそうにメニューのことを考え始めていた。
クシミルさんのお店に到着し、しばらくすると料理がどんどん運ばれてくる。
出てきた料理はどれも美味しかった。
全員女性ということも伝えてあったためか、量は控えめだったものの、色々な味が楽しめるように工夫されていた。
「こんな美味しいお店、わたしたちが来ていいのかしら」
「ほんとうよ。失礼かもしれないけど、一体いくらするのかしら…」
「もう一生こんな贅沢できないわ」
などと口々に感想を漏らしている。
さすがに事前に払っているお金を言うのはマナー違反のような気がしたので、適当に誤魔化しておく。
料理も無事に食べ終え、最後のデザートまで満喫した私たちは、何気ない会話で盛り上がりながら、有意義な1日の終わりを迎える。




