116 ラーメン配りの少女 2
時刻は夕刻前。
そろそろ夕ご飯の事を考え始める時間だ。
私はいま冒険者ギルドへと向かっている。
レーナさんに会うためだ。
私の担当受付になってもらったし、ざわついた冒険者をなだめてもらったりもした。
それに王都にいたときも、ここの冒険者ギルドにはちょこちょこ顔を出していた。
討伐した魔物を売るためだ。
人が多い時に行けば騒ぎになるので、私がレーナさんにお願いして、人がいない時間帯に魔物の買取をしてもらっていた。
フレンドリーだけど、距離感も絶妙なおかげか話しやすいし、結構お世話になってる。
頼れるお姉ちゃんって感じだ。
冒険者ギルドに着いた。
受付にレーナさんが座っている。
レーナさんが私を見つけると、とびっきりの笑顔で手を振ってくる。
「リンちゃ〜んっ!」
ちょっ! あんまり私の名前を叫ぶと……
「リン!?」
「虎狩りか!?」
「気をつけろ!」
「なんだなんだ?」
「余所者は黙っとけ!」
ほらね。言わんこっちゃないよ。
私、悪いことしてないよ。
「あ、あの噂は本当なのか…?」
「噂?」
「あぁ、バルナを処刑したっていう…」
「なんだって!?」
「こ、声がでかいぞ!」
合ってるようで合ってない噂を流すのはやめてよ!
私が処刑人みたいになってるじゃん。
まぁ間違ってはない……のか……?
「リンちゃん。どうしたの? こんな時間に」
「レーナさん今日の夕ご飯どうする予定でした?」
「どうって…独り身のわたしにそんなこと聞かれても困るわよ」
「私、作ってきたんですけど食べてくれませんか?」
「て、て、て、手料理!?」
「はいっ!」
「ちょっと待ってなさい!!!」
─────バンッ!
レーナさんがものすごいスピードで立ち上がり、奥へと小走りで向かう。
すると、聞き覚えのある声………ギルマスだ。
ギルマスとレーナさんが何やら会話をしている。
『今すぐ有給を取らせてもらいます!』
『何をそんなに慌ててるんだ! 説明しろ!』
『私用って言ってるでしょ!』
『そんないきなりの私用は有給じゃなくて緊急事態だろ!』
『それだとギルドの規則に違反します! 今すぐ有給を!』
『ま、待て待て! 確かにそうかもしれんが、お前の勤務はあと1時間だろ! 何をそんなに慌ているんだ!
『だから私用って言ってるでしょ!』
『わ、わかったから…もう今日は早退という扱いでいいから…もう行ってくれ…有給はまた別の日に取ってくれ…』
『ありがとうございますっ!!!』
レーナさん。1時間ぐらい我慢しようよ。
小走りでレーナさんが戻ってきた。
「リンちゃん! 行くわよ!」
「ど、どこにですか!?」
「家に決まってるでしょ! こんなむさ苦しいところで、せっかくの手料理なんて食べても美味しくないわ!」
周りの冒険者達の顔を見てごらんよ。
そんなことを言われたためか、ショック受けている人もちらほらいるよ。
レーナさん、可愛い上に男からの人気も絶大だから、そんなこと言われたらショックで立ち直れなくなる人も出てくるよ。
ま、私には関係ないけどね。
その後レーナさんの家にお邪魔し、ラーメンを振舞ったのだが、「ねぇリンちゃん。結婚してくれない? 今すぐ。お金ならわたしが全部出すから。養うから」と言われた。
レーナさんはダメ男に沼りそうなタイプだったよ。
けどレーナさんに養ってもらいヒモ生活…。
正直なところ、悪い話……ではない。
テアを裏切ったわけではないし、テアと離れるつもりもないが、心の中で謝りながら頭の片隅に置いておくことにした。
さて、レーナさんと別れた私は再び王都へと戻ってきた。
まず向かうのは、城にあるフレアの部屋だ。
「フレアいる?」
「リンさんっ!」
今日も笑顔のフレアが出てきた。
「ご飯食べた?」
「ううん、まだなの」
「さすがにもうご飯の支度終わってるよね」
「それなら問題ないよ。ちょっと待ってて!」
そういうと、フレアが近くのメイドさんに声をかけ、食事がいらないことを伝える
「いいの?」
「うんっ! うちは、お城の中のみんなの食事を作ってるから、私1人が急にいらなくなってもあまり迷惑かからないんだっ」
それならいいかな。
そういうわけで、フレアと一緒に食事を取る。
私ももちろん食べるよ。
この世界に来る前は、貴族とか絶対に関わりたくないと思っていたけど、私の目の前にいる子って王女様なんだ。
なんか、ファッションもギラギラしていないし、すごく話しやすい。
純粋にいい子というオーラだけが伝わってくる。
肩書きだけで人を判断するのはよくないと、心の底から思った。
ラーメンを食べたフレアは、言うまでもなく大満足な笑みを浮かべ、上機嫌だ。
本当は王妃のマイシアさん達にも食べて欲しかったんだけど、あんまりにも全員の食事がいらないとなれば、さすがの私もここの料理人たちに申し訳ない。
フレアには、明日の夕ご飯にみんなの分を用意して持っていくと伝えた。
あの脳筋国王にも食べさせるのは気が進まないけど、世話になっているといえば世話になっている。
今回だけ特別だよ。
フレアと会話が弾み、気づいたら完全に日が沈んでいた。
もはや寝る時間だよこれ。
フレアと別れた私は、自室へと転移する。
サリナさんには明日のお昼に持って行くことにしようかな。
騎士学院ってのも気になるし、カイルさんに会いにいくついでに見学でもできないかな…。
あっ……。
「宮廷魔術師団、一回も視察してないわ」
思わず声に出た。
私の役職からは考えられない現状に気がつくも、元宮廷魔術師団であったヘイード先生の魔法の威力を見てから、あんまり気にならなくなってしまった。
宮廷魔術師団の団長さんも、私みたいな子供の部下にされて、あんまりいい思いしてないかもしれないし…。
そういえば団長、どんな人なんだろう。
少し気になるかも。
いろんなことを考えていると、さすがに1日中いろんな人と会って喋っていたせいか、睡魔が襲ってくる。
次第に目が閉じていく。
次に目を開けた頃には、朝になっていた。




