106 広がる食の可能性
みんなの元へ戻った私は事情を説明する。
事情と言っても、虫は燃やして巣を埋めたということだけだ。
テアを呼んで、テアのおかげということにしておいたよ。
「そんなわけで、私たちがぜんぶ倒してきたのであの魔物はもういませんから、安心してください」
我ながら信用のカケラもない話だね。
「リ、リンちゃん…? さっきから本当に一体何を言っているの…?」
「まぁそうなりますよね」
シーナの顔を見る。
「わたしは頑張ったわよ」
そう言われたら、もう何も言えない。
「んーっと、じゃあやつらは足音に反応するんですよね? こういうのはどうですか?」
私は再び地面に降り、その場でもも上げをしてみる。
「ちょっと!? やめなさい! お、お爺ちゃんも止めてよ!」
「そ、そうは言っても…」
「本当にヤツらがきますよ……!」
1分近くもも上げを続けてるよ。
さすがの私も疲れてきたんだけど。
そろそろ納得してよ。
「来ない……?」
村人たちが一同混乱している。
「だからっ!! 言った、で、しょっ! はぁ…はぁ……」
「フハッ。おつかれさまね」
「ちょっと…シーナ。わ、私の努力を…笑わないでよ」
さすがにここまでやったんだから信じてよ…
「ほ、本当にリンが倒したのか…?」
すると、村長のミーグさんが疑いの目表情を安堵の表情に変えながら、聞いてきた。
「説明した通りですよ」
「で、では討伐された魔物はどこに…」
「あー、それなんですけど……私どうしても虫が苦手で………そのまま巣の中に埋めてきました……」
「なんと……」
「証拠はありませんけど」
「い、いや、これだけ足音を立ててもヤツらが来ないんだ。ひとまず信じるしかない」
よかった。ひとまずは安心だね。
ミーグさんが私を信じて、はしごを使って地面へと降りてきてくれた。
それを見た村人たちも皆降りてくる。
最初は不安がっていたが、しばらく時間が経っても本当に何も起こらなかったからか、もう安心しているようだ。
でも、この様子だと家畜は全部やられてそうだね。
チーズ食べたかったけど、仕方ない。
「そ、その…お礼なのだが……」
「報酬とか名誉とか要らないので、大丈夫ですよ」
「し、しかし……」
「なら、チーズを定期的に買わせてください!」
「それなら、我々の作るチーズを好きなだけ持っていってくれ。せめてものお礼としてだ」
「いや、定期的に買うのでそれは申し訳ないです」
「なら、今回だけでも。我々も譲れん」
ここで譲れば、次も同じようなことが起こるかもしれない。ここは絶対に譲ってはならない。
と、思っているとシーナが話しかけてきた。
「ねぇリン。今回ばかりはミーグさんの言う通りにしましょう?」
「ちょっとシーナ…そんなんじゃ…」
「わたしはリンの気持ちももちろんわかるけど、それより救われた人の気持ちがわかるから」
「うっ」
「たまには、わたしの言うこと聞いてくれるかしら?」
「わかったよ…」
仕方なく今回だけチーズを貰うことにする。
「けどミーグさん。この様子じゃ家畜も全部やられててチーズは当分作れないんじゃないですか?」
「あぁ、それなら心配はいらん。少しついてきてくれるか」
「えっと?」
ミーグさんと、数人の村人に牛舎のような場所に連れられた。
中に入ってみると「モ〜〜」と、何やら聞き覚えのある鳴き声が聞こえる。
「ご覧の通り、ヤツらは好き嫌いがあったようでな。最初は何頭か殺されてしまったのだが、口に合わなかったようでそれ以降は我々のことしか眼中になかったようだ」
「牛の方が美味しいと思うんですけど」
「リンは牛も知っているのか?」
「え、えぇ……これですよね」
「あぁ」
家畜はあまり出回らない高級食材って聞いたことがある。
ミルクやバターなんかは出回ってても、牛そのものを知っている人はすくないのだろう。
すると、横にいたシーナがぼそっと呟く
「わたしが教えてもらったものとは全然違うわね」
「誰に教えてもらったの?」
「小さい頃にね。学院の授業みたいなものよ」
「やっぱり実物は初めて?」
「当たり前よ。絵と実物ではやっぱり違うわね」
牛ぐらいちゃんと描ける人いるでしょ。
この世界はみんな絵心ないの?
まぁひとまず家畜が無事で安心だ。
村の被害は最小限……とはいかないけど、これ以上悲惨にならないでよかった。
すると、1人の村人が慌てて牛舎まで走ってきた。
「村長! 本当に穴がありません!」
「ほ、本当なのか……」
だから私がさっき説明したじゃん。
なんで信じてくれないの??
「まぁ普通は信じられないわよ」
「また顔に出てた?」
「ばっちり出てたわよ」
顔に出る癖やめたい。
「そういえばミーグさん。この辺って以前から魔物が出てたんですか?」
「これは我々の村だけに当てはまることではないと思うんだが、このような村には国から魔除けの魔道具が与えられるんだ」
「見せてもらってもいいですか?」
「それがだな……」
「もしかして、盗まれたとか…?」
「恥ずかしながら、その通りだ」
うーん。こりゃ国王に報告しておこうかなぁ。
「報告しましたか?」
「言い訳するようで見苦しいかもしれないが、世間話程度に聞いてくれないか?」
「もちろん。いいですよ」
「わたしも興味ありますわ」
牛を眺めながら、ミーグさんの言い訳を聞く。
しばらく聞いていたが、要約するとこうだ。
魔道具は代々村長が管理することになっていて、隠し場所も村長しか知らないそうだ。
それが最近魔物が多くなっているように感じ、村長が隠し場所を確認してみると、そこに隠していたはずの魔道具がなくなっていたそう。
急いで報告しようと思ったが、準備している間に今回の騒ぎになったようだ。
まぁ私やテアが非常識なだけで、普通はここから王都に行くまで片道4〜5日はかかる。
準備もそこそこに必要だ。
「それなら、私王都から来たので、私が代わりに報告しておきますよ。王都まで行くのも大変でしょ」
「そ、そんなわけには…」
「安心してください! 大丈夫ですから」
「しかし、我々の村のことをリンのような子供に任せたと国王様がお知りになれば……」
「なんとかなりますって」
「下手をすれば村が潰されたり…」
「そんなことは絶対させません! あの国王には貸し───い、いえ! なんでもありません!」
「今なんと……?」
「あ、あぁっと! その、国王様にはこちらのチーズを使った菓子を献上して、その、ここの村の大切さをわかって、もらえば、いいかなぁ…って……」
「ブフッ」
シーナが笑ってる。
私なりに頑張ったんだけど?
「リンはそれほどまでにうちのチーズを気に入ってくれているのか…ますます気合を入れて作らねばならんな」
「よ、よろしくお願いします!」
「本当に任せても大丈夫なのだな?」
「もちろんです」
「なら、お願いしよう。この手紙を代わりに持っていってくれないか。今回のことの謝罪と、ご慈悲を頂戴したいという手紙だ」
あの脳筋にそんな堅苦しい内容の手紙が読めるとは思えない。
この村のためにも、私がわかりやすく説明してあげよう。
「あっちにチーズが保管してあるから、好きなだけ持って帰ってくれ」
冷蔵倉庫のような場所にくる。
中を見ると、チーズはもちろん、ミルクやバターなんかも並んでいる。
「うぉーーーーっ!!」
「そんなに興奮しないでよ。はしたないわよ」
「ご、ごめん。つい」
お言葉に甘えて、チーズをいくつか収納魔法でしまう。
「ちなみに、牛が死んでしまった時はどうするんですか?」
「牛のお肉は美味だからな、ありがたくいただくことにしている」
「骨ってどうしてますか?」
「骨ももちろん使うとも。良いスープが出来るんだ」
「余っていればでいいんで、それも売ってくれませんか?」
「それは構わんが、あまり量はないかもしれんな」
「全然大丈夫です! 無理しないでくださいね」
そんな話をしていると、1人の村人が何やらミーグさんと相談を始める。
「それだ!」とミーグさんが納得していたが、どうしたんだろう。
「リンは牛の肉や骨が欲しいのか?」
「そうなんですけど、肉よりも骨の方が欲しいんです。いいスープを作りたくて」
「わかった。ストレーンの街は知っているか?」
「ストレーン……ってたしか」
「メルの故郷じゃなかったかしら」
「そうだ!」
私たちと同じクラスのメルの故郷だ。
そういえば、かなり田舎って言ってたような気がする。
「ストレーンの領主とは昔からの知り合いでな。俺が紹介状をかいてやるから、ストレーンに行ってみるといい。多少優先的に販売してくれるだろう」
「いいんですか?」
「あぁ。あそこなら食用にいろんな家畜が育てられている。牛はもちろんだが、他にもな」
それはなんとしてでも行かなければならない。
これからの異世界生活での食がかかっている。
「ずいぶん楽しそうにしてるわね」
「だって美味しいものが食べられるんだよ?」
「作る前から美味しいなんてわかるのかしら」
「間違いないって! シーナも楽しみにしててよ」
「そこまで言われたら気になるわね」
よっしゃ〜!
麺の問題はひとまず置いといて、美味しいスープを作れるように頑張ろう。
キッチンもどこか借りたいし、サリナさんに相談してみようかな。
そんなことを考えているうちに、ミーグさんが紹介状を書いて持ってきてくれた。
今回いつもの倍ぐらいありましたね……




