102 最優先事項
「「「 うっまぁぁぁぁ〜〜! 」」」
私たちは今、目の前にあるチーズケーキに脳と心を支配されている。
言うまでもない、クシミルさんが作ってくれたデザートだ。
本来、盗賊を討伐すれば、盗品は全て討伐した者の所有物になるそうなのだが、砂糖だけ少し多めにもらっておいた。
他はまぁ、あっても困るし。
お金にも困ってない。
さて、その時もらった砂糖をクシミルさんのところに持っていくと、夕方だったにも関わらず、喜んでデザートを作ってくれることになった。
お金を払うと言ったんだけど「以前頂いた金貨もあります。それに加え、リン様のおかげで盗賊が討伐され、砂糖を無事仕入れられることを考えれば、当然ながら代金は必要ありません」と頑なに断られた。
そうは言ってもさすがに申し訳ないので、砂糖を多めに渡しておいた。
せめてものだ。
砂糖は以前からも少し高級だったらしく、クシミルさんはそれすら断ってきたが、ここは私が意地でも譲らなかった。
「それにしても、砂糖を盗んでいたやつらはリン様が退治なさったとは、本当にすごいお方なのですね…」
「私1人ってわけじゃないですよ。もちろんみんなの協力があってのものでした」
「リンちゃんは本当にすごい子ね…」
側で話を聞いていたノーエさんが呟いている。
「ノーエさんもあんな美味しいケーキ作れるなんて、信じらないよ」
「ふふ。またご馳走しなくっちゃね」
すると、その会話を聞いていたシーナとセリが何やら怒っている。
「ちょっと待って? なんでリンだけ美味しいもの食べてるのかしら?」
「なんで言ってくれないの!?」
「いや、あれはその…時間も遅かったし…」
「「 昨日徹夜で仕事させといてよく言うわ 」」
「ぐっ」
ノーエさんを見つめ、助けを求める。
「ま、まぁシーナちゃんもセリちゃんも、今度おうちに食べにきてくれればいいじゃない」
「「 はいっ!! 」」
とんでもない笑顔だ。
ありがとうノーエさん。
「それにしても、こんな美味しいもの、一体何でできているんでしょうか」
「それは、その…」
シーナの問いにクシミルさんが少し言いづらそうにしている。
どうして?
「…….チーズでございます」
「「 えっ!? 」」
「え?どうしたの?」
やたらと2人が驚いている。
「チ、チーズって、食べれるの!?」
「逆になんで食べれないの」
「だって、カビが生えているって…」
「だってチーズだし」
どうやらこの世界は、チーズがあまり馴染みの食材ではないらしい。
仕方なく私は発酵、熟成などの概念を教える。
もちろん、チーズの作り方の詳細までは知らないけどね。
発酵や熟成の概念だけはわかる。
皆んなは、なんでそんなことまで知ってんの? という顔をしていたが、シーナとセリは納得しているようだ。
私に前世の記憶があることを伝えてあるからね。
「それに、チーズはすごくいろいろな料理に使えるの。カレーに入れてもめちゃくちゃ合うし」
「「「 カレー!? 」」」
クシミルさんまで驚いている。
何でチーズケーキは作れるのにカレーにチーズ入れる発想がないの? 逆じゃない?
「そう。チーズはなんにでも合うからね」
「なんと…」
「クシミルさんはチーズは他に使わないんですか?」
「ケーキを作るのに使っているだけなんです」
ま、まじか…
勿体無い……。
「チーズからこんな美味しいものができるのも驚きなのに。デザートにとどまらず、うちが作ってるようなカレーにまで…」
「わたしは今まで人生を棒に振っていたというわけね」
「シーナの場合はちょっと深刻でしょうが」
シーナの暴論にセリがつっこむ。
「どうして? わたしなら元気よ?」
「ほんとにメンタル強いわね」
「うふふ。伊達に寝転がっていなかったもの」
もう心配していたこちらがアホらしくなってくる。
「クシミルさん。この辺でチーズを売っているの見たことないんだけど、これどこに売ってるの?」
「本当は誰にも教えたくないんですが、リン様になら構いませんよ」
そんな前振りされたら遠慮しちゃうよ。
「あの、秘密なら全然教えてもらえなくても大丈夫なんですけど…」
「我々もリン様の秘密を抱えさせて頂いております。わたくし達の企業秘密をお教えすることでこそ、対等というものでしょう」
なんかよくわからない理論だけど、クシミルさんがそれで納得しているなら、まぁいい…のか?
どうしよう…。
しばらく悩んでいると、クシミルさんが口を開いた。
「冗談ですよ。別に教えて困るわけでもありません。誰も好んで食べませんので」
わかりにくい冗談だったよ。
「よかった…。複雑な気持ちでチーズケーキを食べる羽目になってましたよ」
「ははは。もちろん、リン様が全部買い取ったりしては、さすがに困りますが」
「私はそんなことしません!」
「冗談です」
クシミルさんは冗談が好きなようだ。
どうやらそれを見ていたセリがこんなことを言い始めた。
「クシミルさん。冗談はほどほどにしておかないと、リンが怒ったらこの店潰れますよ…‥って、この顔はもう怒ってるかも」
「なっ!?」
ナイス!これはいいタイミングだ。
「そういえばリンの様子がおかしいわね。……こんなに美味しいのに、もう2度と誰も食べられなくなるなんて、残念です」
「も、申し訳ありませんでした!!」
シーナも合わせてきた。
クシミルさんの慌てっぷりがすごい。
私、クズだ。
心の中で笑いが止まらん。
よし、トドメだ。
私は笑顔で手のひらに赤い炎を纏わせ、クールに台詞を吐いてみる。
「ふふっ。今までお世話になりました」
「………わ…わたしは……なんて…ことを……怒らせては…いけない人を……怒らせて………どう…すれば……」
「「「 冗談です 」」」
ガッハー! きもちえぇ〜!
「は、は、はぁ…び、びびビビらせないで戴きたいです…な……」
「「 ブフッ 」」
セリとシーナが吹き出している。
残念ながら、冗談を言わせればこの2人の上に出るものはいなよ。
クシミルさん、言うのは得意だけど言われるのは慣れていないようだね。
まぁ高級なお店の料理長という肩書きもあるしね。
無理もない
………のか?
賑やかな空気が続き、クシミルさんがチーズの生産場所を教えてくれた。
もちろん、イヤイヤ教えているわけでもなさそうだ。
「まさかリン様がチーズをここまで知っているとは。チーズの未来を知ることができて嬉しい限りでございます」
チーズの未来…。ちょっと大袈裟じゃない?
何はともあれチーズの生産場所を聞くことができた。
クシミルさんは2〜3ヶ月に一度ほど仕入れに行き、あとは冷凍に溜め込んでいるらしい。
あれ、そういえばこの世界って電気ないのにどうやって冷蔵庫が存在してるの?
普通に私も使ってたけど、今考えれば気になってきた。今度調べよう。
チーズを求めに今からでも行きたいくらいだが、今日はもう遅い。
次のお休みに調達しに行こうかな。
一回行けば転移できるからいつでも買いに行けるし。
ついでに、クシミルさんにこの世界の食料事情を聞いておく。
私はラーメン諦めたわけじゃないからね。
さてと、早速チーズもやることリストに追加っと。
現在のやることリストはこうなっております!
・ラーメン作り
・砂糖問題の解決→済
・自身に使う飛行魔法→済
・宮廷魔術師団の訓練
・魔導書と魔法陣の解読
・チーズの入手
やることが少なくなってきたら、やることリストもさよならですね…。
ありがとう、さよならリスト




