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魔の神殺しの勇者は今日も魔法を否定する  作者: 緋島礼桜
呪いの館を否定する

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18/27

  



 ――タターソル・ショワン。

 魔の神討伐を果たしたかつての英雄……つまりはシシロウさんの元仲間だ。


 討伐当時は若干12歳で白魔法師を務めていた期待の新人であったが、魔法消失と共に役職と名声を失った哀しき偉人でもある。

 

 仲間内では年相応のムードメーカーで、ときには勇者(シシロウさん)を兄のように慕っていたという。

 だが、その一方でシシロウさん以上に、私の父を尊敬していたのだとか。


 そんな思い出話を母さんから聞いたことがあった。


「……話っていうのはお前の職絡みのことか?」

「その通り。相変わらず察しがいいね」

「そういう話しか持ってこねえのに“察し”も何もあるかよ」


 タターソルさんは団扇を扇ぎながら微笑む。


 私は現在、軽い熱中症ということで水分補給をしつつソファーで横になっている。

 自室でもよかったのだが、あの部屋もそこまで涼しいわけではなかったため、このままここで休んでいた。

 しかも、ありがたいことにタターソルさんが団扇で扇いでくれている。


 本当にシシロウさん以上に気が利く人で、かっこいい。


「タターソルさんのお仕事って確か……」


 私の言葉を聞いて、彼はこちらに視線を向けて答えてくれた。


「六国家連盟魔法管理機構だよ。つい先日、南方支部支部長に任命されたよ」

「りっか……なんですか?」


 私の素朴な質問にタターソルさんは笑顔で答える。


 六国家連盟魔法管理機構。通称“マカン”。

 難しい言葉の並びで頭が痛くなりそうだが、簡単に言えば世界各国の魔法を管理していた組織らしい。

 “魔法があった”時代は魔法の監視、禁忌魔法の取り締まりなどをしていたそうだが。


 だが、“魔法がなくなった”今ではその仕事内容も変わったのだという。


「“魔法”という存在の記録保存や、魔法の残滓を探して保護、もしくは回収するのが今のマカンの役割でね。つまり今回の件も“魔法”絡みということさ」


「なるほど……なんとなく、わかりました」


 本当はあまりわかっていない。


 すると、シシロウさんはボトルに入った酒を、まるで冷水かの如くグビグビ飲み込んでから言った。


「支部長になったってのに、部下も連れずこんなとこまでわざわざ御苦労なこったな」

「“マカン”なんて言わば後始末組織みたいなものだからね。年々辞任届が増える一方で、支部長でも座ってなんかいられないってことだよ」


 タターソルさんは肩を竦め、苦笑する。

 が、すぐに表情を真面目なものへと変えた。


「……それに、今回の件はシシロウが好きそうな話だから、部下を派遣するより早く、君に知らせようと思ったってわけさ」


 彼の言葉に、今度はシシロウさんが表情を変える。

 その僅かな変化を見つめながら、タターソルさんは話を続けた。


「僕らがかつて魔の神討伐の道中に、モーキンス山脈で泊まった宿のこと……覚えているかい?」

「ああ、峠にあった洋館風の宿だろ? あんときゃあリリーのせいで酷い目にあったからな」


 突然、母の名前が出たことに、なぜか私がドキリと反応してしまう。

 ……一体、母さんが何をしたのだろうか?


 気になって尋ねてみたかったのだが、私の心情を他所に話は続いていく。


「そこの宿、最近になって妙な噂が立つようになったんだ」

「妙な噂?」


「2年ほど前から、泊まった客が不調を訴えるようになったらしい」


 不調の主な例は“目眩”、“吐き気”、“頭痛”など。

 それも泊まった客全てではなく、一部の客のみだそうだ。


「そんな苦情が出てんなら客も減る一方だろ。よく2年も続けてたな」

「調査報告によれば、ギリギリの経営だったそうだよ。だけど……半年前から()()()()が広まったことで、劇的な急回復となった」


 シシロウさんは眉を顰め、ボトルの口をタターソルさんへ向ける。


「焦らすなよ。その()()()()ってのは、なんだ?」


 彼の鋭い眼光に臆することなく、タターソルさんは軽く吐息を洩らしてから言った。


「――魔法によって呪われた宿……“呪いの館”だと、呼ばれるようになったんだよ」

「呪いの、館……」


 気が付くと2人の会話に参加するように私は呟いていた。


 “魔法による呪い”。

 また“魔法”だ。

 当然、シシロウさんの双眸はいっそう鋭く輝きを放つ。

 

「でも、目眩に吐き気、頭痛が魔法のせいだなんて……ちょっと強引過ぎじゃないですか? 私だって今、同じ症状で倒れてるのに」

「ああ。人体ってのは繊細だ。酒の飲み過ぎで目眩や嘔吐に繋がることだってあるってのに、それを“魔法”でまとめられて堪るかよ」


 そう言うとシシロウさんは空になったボトルをテーブルに叩きつけ、その勢いのまま席を立った。


「早速出かけるぞ、その宿に」

「君ならそう言ってくれると思っていたよ」


 続くようにタターソルさんも席を立つ。


「……なんだ、お前もついてくんのかよ」

「僕は“マカン”として調査しないといけないからね。それに、噂っていうのは人が広めるもの――背後に“例の連中”が絡んでいる確度は高いとみてるんだ」


 ……“例の連中”?

 よくわからない単語まで飛び出してきて、段々と私の頭は重くなっていく。

 これは絶対熱中症のせいじゃない。


 なんて思っていると、いつの間にか2人は今にもそのまま家を飛び出してしまいそうな雰囲気でいた。


「ま、待ってください! 私も、行きたいです!」


 慌ててソファーから立ち上がり、2人を追いかける。

 が、ここで反対してきたのは意外にもタターソルさんの方だった。


「マルルちゃん。申し訳ないけどこれは遊びじゃない。ちゃんとした調査であり、危険な任務かもしれないんだ。だから君は残っている方がいいよ」


 確かにタターソルさんの言葉は正しいのかもしれない。

 魔法絡みの調査は前回の件で大変な目に遭ったし、2人が言葉を濁した“例の連中”というのも危険である要因なのだろう。

 私はまた、役立たずで終わるかもしれない。


 ……けど、それでも。


「私、見たいんです。見ていたいんです、シシロウさんが魔法を否定するところ! 迷惑は掛けないようにするので……お願いします!」


 まずはシシロウさんを見ること。

 それが大切だと教えてもらった以上、私は彼を見続けていたいのだ。

 彼がこの世界で、どうやって魔法を否定していくのか、見守っていきたい。


 深々と頭を下げる私に、2人は困ったと言った吐息を洩らして沈黙する。

 だが、しばらくしてため息交じりにシシロウさんが口を開いた。


「見ての通り、コイツの頑固さは親譲りでな。ちょっとやそっとじゃ意見を曲げねえぜ」


 すると、タターソルさんは頭を搔きながら言う。


「あの頃のリリーを思い出したよ……仕方がない。まあ、マルルちゃんには避暑地で療養してもらうということで、同行を許可しよう」

「やった! ありがとうございます」


 私はもう一度、何度も頭を下げる。

 が、頭を振り過ぎたせいか、またもやふらついてしまい、その場に倒れてしまった。


「……ったく。そんな調子で大丈夫かよ」


 そう言って呆れるシシロウさんを見上げて、私は力いっぱい笑みを浮かべて返した。


「問題ありません! 行きましょう、呪いの館に!」


 この場にいる誰よりもはりきる私を見て、2人はほぼ同時にため息を吐いていた。




 ――結論から言うと、このあと私は案の定、予想もしていなかった展開に巻き込まれることとなる。


 だが、私は巻き込まれたことに後悔はしていない。

 なにせそのおかげで、私の知らないシシロウさんの新たな一面を、この目で“見ること”ができたのだから。

 


  

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