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魔の神殺しの勇者は今日も魔法を否定する  作者: 緋島礼桜
宙舞う巫女を否定する

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16/27

エピローグ

  



 “魔法を使う巫女”がいると言われていた集落の騒動から一か月。

 私はシシロウさん宅で、日課となっていた掃除をしていた。


 と、言うのも、シシロウさんの世話役として家事全般を担うようになったが、他にこれといってやることがない。

 悪く言えば“退屈”だった。


 シシロウさんと言えば、一日中酒を飲んでぐうたらしているか、酒場に行っているか。

 もしくは私に黙ってどこかへ出かけてしまうことばかり。


 彼が追い求める“魔法の噂”も集落の騒動以来、舞い込んではいなかった。


 ……季節はもう夏を迎えた。

 シシロウさん宅には手つかずの庭があるので、そこに手を出してみようか。なんて考えていた。




「――これはこれは、お久しぶりです。マルル殿」


 そんなとき、突如現れたのがミントゥスさんだった。


 彼は太陽が照りつける暑い日だというのに、スーツ姿で汗一つかいていない。

 相変わらずの青白い顔で、にんまりと微笑んでいた。


「ミントゥスさん、お久しぶりです! 今日はどういったご用件でしょうか?」

「シシロウ殿に用事だったのですが……彼は?」


「あ、ああ……お酒が切れたので、買いに行くと言って消えました」

「なるほど」


 そう言うとミントゥスさんは私を横切り、室内へと入っていく。

 傍らには相も変わらず、スーツ姿の秘書がいる。


「では彼が来るまでマルル殿とお茶会でもいたしましょうか。ちょうどいい甘味もありますのでね」

「お菓子ですか!」


 私は目を輝かせてミントゥスさんたちを見つめた。

 そんな眼差しを受けた彼は満足げに口角を吊り上げながら、秘書へ合図を送った。


 すると、秘書は手にしていたケーキケースを丁寧に開ける。

 ゆっくりと姿を見せたそれは、果物がまるで琥珀のように照り輝いているタルトだった。


「ああ……美味しそうですね」


 ……思わず涎が垂れてしまいそう。

 私は口元を拭いながら、大きく唾を呑み込む。


「これは()()()集落の名産物である桃を使用したタルトです。芳醇な香りと共に弾ける濃厚な甘さは王室献上級の代物ですよ」


 目の前のご馳走に全集中していた私。

 だが、彼の言葉は聞き逃さなかった。


()()()集落って……まさか」

「そのまさか。巫女がいた集落――今はミコナキの里と名を変えたようですね」


 私の脳裏に、集落での出来事が頭を過ぎる。


 集落で受けた過酷な修練……そこで衰弱した私は、あの集落の桃を口にしていた。

 あの芳醇な香りとみずみずしい濃厚な甘さ。

 飢えた私を癒してくれた、あの味は一生忘れない。


「ここの集落は魔の神への奉納品とのことで、昔から魔法に頼らない栽培を行っていまして……そのノウハウを活かせば大規模な果樹園が作れるのではと、前々から思っていたところなんですよ」


 ミントゥスさんの話では魔法に頼らない栽培方法は、他の地域でも確立しつつあるものの。

 テンナさんたちのいた集落が、群を抜いて美味な果物を作り上げているのだとか。


「まあ問題点は多々ありますが、とりあえずこの街(オラターン)に食べ頃の果物が流通できれば、上々といったところです」


 彼の話が終わると同時に、切り分けられた桃のタルトが目の前にやってくる。

 今すぐにでもかぶりつきたいが、ここはお上品に待たなくてはと、静かに息を呑む。


「けど、あの集落――ミコナキの里の人たちって……言っちゃうと閉鎖的というか、独特な雰囲気だったじゃないですか。それなのに、よく果樹園の話を説得できましたね?」


 私はなるべく、“ミコナキの里が実は偽の魔法を語った詐欺集落”だったことに触れないよう、話す。

 だが、ミントゥスさんはあっけらかんとした様子で。


「ああ、巫女はニセモノだったという話ですか?」


 と、返してきた。


「ええ? ミントゥスさんもわかってたんですか?」

「当然です。わかっていたうえでシシロウ殿に情報提供しましたし、彼も買ったのですからね」


 つまり、ミントゥスさんは利益のため、シシロウさんは魔法否定のため。

 互いの目論見を理解したうえで、利用し利用されたということだった。


 ……じゃあ、本当に何にもわからず小旅行気分でいたのって、私だけだったってことか。

 その結果、あんな過酷な修練を受けさせられ、得るものはほぼなかった。

 なんとも複雑な気分になってくる。


「とはいえ、貴方がたが巫女を否定してくださったおかげで、ミコナキの里の方々も新しい試みをしたいとようやく……重い腰を上げてくださいましてね」


 そう言ってミントゥスさんはタルトをパクリと食べる。

 美味しそうにタルトを頬張る姿に、もう一度息を呑み込む。


「今後はこの美味なる甘味がご自宅で味わえるようになるのですよ。ならば得るものは充分あったではないですか」


 しかめっ面をしていた私に気づいたのか、ミントゥスさんはそう言って、タルトをようやく勧めてくれた。


 未だ納得できないながらも、私はタルトを手にとって、一口かじりついた。


 サクサクとしながらもバターが香ばしいタルト生地と、濃厚な甘さの桃。合間に挟まれたカスタードがいい仕事をしていて、最高のハーモニーを生んでいる。

 これまで食べた菓子の中でもトップクラスの美味しさだった。


「う~ん、最っ高においしいです! 確かに……テンナさんたちの頑張りが伝わってくるこの桃が、こうして味わえるようになるなら、良かったってことですよね」


 ――ミコナキの里。

 巫女に頼らないという決意が、その名前から伝わってくる。

 私たちが行ったこと、魔法を否定するということは、全く意味がないわけじゃなかった。


 その結果が知れただけで、私にはとてもいい収穫だ。


「――まあ、ワタシとしては……ミコナキの里に()()()な《・》()()を植え付けた、旅人共(ヤツら)を追っ払ってくださったことが、一番の成果でしたがね」


 と、不意にミントゥスさんが呟いていたけど、タルトに夢中になっていた私は、彼の言葉を聞き流してしまっていた。




 ……だが一つ。

 どうしても気になっていることがある。


 それは、ミコナキの里での修練から助け出されたあとのこと。

 洞窟で目が覚めた私は、いつの間にか法衣から着替えられていた。


 では一体、誰が私を着替えさせたのか。


 一番考えられるのはテンナさんなのだが……もしかしたらシシロウさんという可能性もある。

 つい後回しにしてしまい聞きそびれてしまったが、もしもシシロウさんだとしたら――。


 そう考えたら、色んな感情が爆発してしまいそうで怖い。


(けど……どう考えたって、テンナさんだよね。そうだ、そうに決まってる) 


 私はそれ以上の思考を止め、目の前のタルトへと気持ちを集中することにした。



 

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