お姫様と小競り合い
ルシウスお兄様が学園に戻る日と同じ日にお姉様を見送った。
一年前のルシウスお兄様のお見送りの日以上に涙が止まらなかった私を見てお姉様は嬉しそうに笑って抱きしめてくれた。
その後ろにいたルシウスお兄様は少し不服そうな顔をしていたが、眉を少し下げて笑った。
時間ができたらすぐに帰ってくるわ、と私の額にキスをしたお姉様は手を振り続ける
お兄様の背中を押しながら馬車に乗り込んだ。
馬車が見えなくなるまで手を振り続けた私は、その後お母様の胸の中に飛び込んで涙を流した。
今日は特別ね、と私を抱きかかえてくれた。
それから数日後。
私は訓練場を上から見下ろしていた。
剣を持って手練れの騎士の剣をはたきおとしたのはエリオットお兄様だった。
お父様に似たのか、魔法より剣術が得意なエリオットお兄様は騎士団に入団し、日々鍛錬をつんでいる。
『毎日毎日、熱くないのかしら』
隣にたって日傘をさしてくれているマリーに聞く。
「第二王子は国王様を目標にされているとお聞きしております。そのためには日々の鍛錬を欠かさない、と」
『ふーん』
また騎士を負かしたお兄様は嬉しそうに笑った。
すると私の視線に気が付いたらしく、上を見上げたお兄様とバチッと目が合った。
「何してんだ、リリィ!」
『お兄様観察』
「…暇なのか?」
怪訝そうな顔をしたお兄様は両手を頭の後ろで組んでそういった。
猫かぶりをしていたお兄様とお姉様がいなくなったことにより、私たちの小競り合いは以前にも増している。
その言葉にイラっとしたものの、先日お母様から叱られたばかりだから嫌味を飲み込んだ。
『…それでは頑張ってくださいまし』
「あー、ちょっと待て!」
ここにいたらまた喧嘩が始まると、その場を去ろうとしたら止められた。
なんだ、と視線を元に戻すと魔法で私のところまで飛んできたお兄様。
剣術の方が得意とはいえ、魔法が苦手なわけではないのだと改めて実感する。
「これやる」
『え?』
お兄様の手には小さな箱。
受け取り、ふたを開けると星の形にカットされたダイヤモンドが付いた髪飾りがはいっていた。
『綺麗…でもどうして』
「別に、この間街へ行ったときに見つけたから」
理由になっていないが、耳を赤くしそっぽを向きながら言うお兄様に口角が上がる。
『…ありがとう、お兄様』
「おー、」
箱をぎゅっと抱きしめて言うと照れたように返事をしたお兄様は私の頭を乱雑に撫でた。
『そういえば、今日はお兄様のご友人がいらっしゃると聞いていますが』
「ん?あぁ、午後からな」
お兄様の友人とは北の国、ノルディア国の公爵家の長男。
公爵とお父様が学園時代からの友人らしく、お互い家を継いだ後も交流があるらしく、お兄様が幼いころお父様について侯爵家を訪ねた時に意気投合してから仲がいいらしい。
実は去年の五歳の誕生パーティーの際に挨拶する予定だったのだが、道中トラブルがあり公爵家の到着が遅れ、着いたのが魔力鑑定直前だったために挨拶できずじまいとなっている。
公爵はいらっしゃらないそうだが、お兄様の友人であり次期侯爵にご挨拶をしなければと朝から意気込んでいたのだ。
『そうですか』
午後からならまだ時間があるな、と考えているとお兄様からまた怪訝そうな視線を向けられる。
『なんですか』
「お前…あいつに気があるのか」
お兄様の言葉にきょとんとする。
会ったことどころか顔写真すらみたことがない相手にどうやって気を向けるのかと本気で悩みそうになった。
『お顔どころかお名前すら知らないお相手に向ける気はどんなものなのか教えていただけます?』
「…ならいい」
むすっとしたままお兄様は訓練場に戻る。
一体何だったのか、と視線を下に戻すと団員たちに囲まれ揶揄われている様子のお兄様の顔は歪みながらも嬉しそうだった。




