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お姫様と敵いたくない人

「美味しいかい、リリィ」

『えぇ、とっても!』



お兄様と向かい合って座り食事をする。

久々に会うからか、話が尽きない。



『お兄様、学園は楽しいですか?』

「そうだね、最上級の魔法を学べるから有意義ではあるけれどリリィがいないから楽しさは半減しているかな」



このように相変わらずルシウスお兄様からの愛は重い。

去年の入学前、寮に入るため城から出発するお兄様に涙ぐみながら刺しゅうを施したハンカチを渡すと私を抱きしめたまま30分動かず、痺れを切らしたお母様がお兄様を無理やり馬車に詰め込み出発させた光景はいまだにはっきりと覚えている。



「セレナももうすぐ入学だし、城は少し静かになるかもね」



お兄様が食後の紅茶をすすりながら言った。

その言葉に私は少し俯く。

セレナお姉様ももうすぐ魔法学園に入学し、寮に入る。

5年間の学園生活の後は婚約者のもとへ嫁ぐことが決まっているためこの城で一緒に生活できるのも数少ないのだ。


お姉様はこの世界での一番の憧れだった。

まさしく前世から夢見た憧れのお姫様を体現したような人で前世の記憶を思い出す前からリリオールの理想のお姫様だったお姉様。

お母様に似て美人で、自分の立場をしっかり理解して真面目で厳しいところもあるが、淑女教育が始まる前からリリオールに淑女とは何たるか、を教えてくれた。

そんなお姉様と中々会えなくなることをだんだんと実感し寂しさがこみ上げる。

そんな私の様子を見たお兄様はふと口角をあげて笑った。



「寂しがらなくていい、リリィ。どこにいたって何をしていたって僕たちが血のつながった兄妹だということに変わりはないように、セレナとリリオールだって姉妹なのに変わりはない。セレナが遠くにいるから嫌いになる、なんてことないだろう?」

『それはもちろん!』



お兄様の言葉に間髪入れずに返す。

一瞬驚いた顔をしたお兄様は吹き出すように笑った。



「セレナもきっと同じ気持ちだと思うよ、寮に出発する前に時間を取ってふたりで話をするといい」



お兄様は席を立ち私の隣に来て、頭を撫でた。

それから数日後、お姉様にお茶をしようと誘いの伝言をアルに頼むとすぐに了承の返事をもらえた。

心地よい天気のもと、ガゼボにて花に囲まれながらのお茶会が始まった。



「リリィから誘ってくれるなんて嬉しいわ」

『えへへ』



淑女教育が始まってからさらに実感するお姉様の教養のレベルの高さ。

綺麗な姿勢、美しいお茶の飲み方、優しい声のトーン。

先生は褒めてくれるが、私はお姉様の足元にも及ばない。



「淑女教育はどう?」

『順調だよ』

「そう、でも厳しいでしょ、お母様監修の教育メニューは」



私も当時は苦労したわ、と笑うお姉様に少し声をあげてしまう。



『お、お姉様も苦労したんですか!?』

「えぇ、昔からお母様は教育熱心でね、お兄様にもだけど特に同性の私への教育は何よりも力を入れていて、当時は直接指導されたこともあったわよ」



お母様からの直接指導を想像し背筋がすうっと冷える。



「それで淑女教育がいやだと思ったことはないわ。将来のためにもなるしなにより自分と家族のためだからね」

『自分と家族の…?』



お姉様の言葉に首をかしげる。




「そうよ。リリィが大きくなってマナーが鳴っていなかったら周りからひそひそ噂されちゃうでしょう。教育がなっていない、王城の淑女教育はどうなっているんだって。そうなったらどう思う?」

『…恥ずかしいし、先生やお母様に悪いって思っちゃう、』

「でしょう?それに教育は将来どこにいっても通用するもの。お兄様やエリオットとは違って私たちはいずれルシエラ家ではない別の家に嫁ぐことになる。その時に恥ずかしい思いをしないように、ってリリィにはまだ少し早かったかしら」



そういいながらお姉様は私の頬を撫でてくれた。

お姉様はいつだって将来を見ている。将来の自分のため、家族のため、国のため_いつだってその時の最善を全力でするお姉様の背中を見ながら思う。

”私”よりお姉様の方が、絵本のなかのリリオールみたいだって。


ただ憧れを抱き理想ばかりを見ていた私より、今ここで前世の記憶の話をして黒い影についてお姉様に協力してもらったほうが…なんて考えが浮かばなかったわけじゃない。

でも、前世の記憶の話をして信じてもらえる可能性の方が低いし、これから学園に入学するお姉様に余計な心配をかけたくない。



「…リリィはとてもやさしい子だから、その分悩みも多いわよね」



お姉様は私の悩みを見抜いたかのように話す。

ハッと顔をあげると優しく笑うお姉様がいた。



「悩むことは悪いことじゃないわ。でも、これだけは覚えておいて。お父様やお母様、お兄様やエリオット、アルフレッドやマリーナやレオネルト、この城のみんな、もちろん私も、何があってもリリィの味方よ」



あまりにもやさしい声色に目の奥がぎゅっと熱くなる。



『…私が、すっごい悪いこと、しようとしてても?』

「あら、私のかわいいリリィは理由もなく悪いことする子じゃないわ。誰かのためにしたことが結果悪いことになったとしても、私利私欲のために悪いことをする子じゃないって私が一番よく知っているから」



(あぁ、この人には一生敵わない__いや、敵いたくないな)



ぎゅっと強く目をつむって混みあがってくる熱いものをごまかした。



『えへへ…お姉様大好き』

「私も大好きよ、リリィ」



抱きしめあう私たちの間に心地よい風が吹き込んだ。

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