お姫様と魔力鑑定
「お兄様、そろそろ離してあげてくださいな。司祭殿が困っていますわ」
お姉様がちらりと視線を向けた先には白い服に身を包み、大きな杖を持った老人。
彼は魔術教会の司祭で私の魔力鑑定に来た人だ。
貴族は通例、5歳の誕生日パーティーに教会から魔術司祭を呼び、魔力を鑑定してもらう。
魔法属性は派生に派生を重ね現在はおおよそ15の属性があるとされているが今もなお増え続けている。
我がルシエラ家はお父様が火、お母様が水、ルシウス兄様が氷、セレナお姉様が水、エリオット兄様が火と見事に両親の血を受け継いでいる。
属性魔法以外も学び、努力を重ねれば使えないことはないが使える属性が多いほど身体に負荷がかかるため、自分の属性+無属性魔法を学ぶことが主流。
「リリィはお父様の血をひいてきっと火属性だな」
「あら、サファイアのような瞳をもつリリィのことですもの。きっと水属性よ」
静かな争いをする両親を横目に私を渋々降ろしてくれたルシウスお兄様の隣に立つと司祭が近づいてきた。
「このような素晴らしき日におよびいただき心から感謝いたします。アルカンティア国の愛し子、リリオール・アルカンティア・ルシエラ様、お誕生日おめでとうございます」
『ありがとうございます、まじゅつしさいさま』
「うむ、さっそく判定してもらおうか」
「御意」
司祭は詠唱し、杖を振ると大きな銀の盃を出した。
「リリオール様、こちらの盃に手をかざしていただけますか?」
『は、はい…』
「緊張しなくても大丈夫よ、リリィ。痛いことはなにもないから」
痛みよりもこの人数に注目されていることに緊張している。
ルミナーレ帝国の中心国、アルカンティア国の第二王女の魔法属性が気にならない人などいないだろう。
魔法属性は良くも悪くも今後の人生に大きく影響してくる。
魔法婚という言葉があるように、属性によっては男爵家が伯爵家に嫁ぐどころか平民が貴族と結婚なんてこともある。
もちろん逆もしかりで、この世界は想像以上に魔法というものの存在が大きい。
私が盃に手をかざすと掌がほんわかと温かくなった。
「光照らす始まりの御名において――
ルミナーレを築きし大いなる導き手、
光の守護者イリュウィア様。
この魂に秘められし、魔の理をお示しください。
願わくば、御光のもとにその本質、静かに顕れますように――」
司祭が言葉を言い終わると同時に盃に入った水がまばゆく光りだした。
「これは…」
そのまぶしさに誰もが目を覆い隠したくなったころ、光が消え盃には二つの宝石が転がっていた。
魔石と呼ばれるもので魔法属性の正式な判定書になるもの。
私有地以外で魔法を使う際は必ず身に着けていなければならないもの、と教わっているがなぜ2つも魔石があるのだろうか。
「魔石がふた、つ…」
司祭のその言葉に会場がざわめいた。
家族もあわてたようにこちらに駆け寄り、盃から私の手のひらへ移された魔石を見る。
「白と…黒って」
「いやいやおかしいだろ、白は光、黒は_闇⁉」
エリオットお兄様の声にさらに騒がしくなる会場。
なぜそんなに慌てているのか、訳が分からず不安になり近くにいたセレナお姉様を見上げる。
驚いた顔をしていたお姉様だが、私と目が合うとすぐに笑ってくれた。
「怖がらないでリリィ、大丈夫よ」
その言葉にハッとしたお父様が声を上げた。
「静粛に!司祭、判定結果を」
「は、はい…えぇ、魔術教会そして光の大守護者様イリュウィア様からの正式な判定でアルカンティア国第二王女、リリオール・アルカンティア・ルシエラ様の魔法属性は光と闇と判定いたしました」
二属性⁉、そんなこと本当にありえるの?、いやそれよりも、光と闇って_
そこら中から聞こえる声にさらに不安になる。
いったい私は何をしてしまったのだろうか。
私に向けられる好奇、怯えの視線は先ほどの浮ついた気持ちを一気に静めた。
「陛下、リリオールの体調が悪そうなのでお部屋に戻らせても」
「あぁ、今日は疲れただろう。セレナとエリオットと部屋に戻りなさい」
『…はい、おとうさま』
セレナお姉様に手を引かれ会場を後にし、その場にはお父様とお母様、ルシウスお兄様が残った。
きっと私のことを司祭と話し、ゲストたちにも伝えるのだろう。
「リリィ、お姉様がお部屋に戻ったらお話しするからそんな心配そうな顔をしないで」
『おねえさま…でも、わたしへん、なんでしょ…』
「変なことありますか、とっても名誉なことよ。ねぇエリオット」
「…まぁ例外がないってだけでありえないってわけじゃないし別に変ではない」
腕を後頭部に回し、少し照れたように話すエリオットお兄様に思わず口角が上がった。
「温かいミルクでも入れてもらいましょう、アルフレッドホットミルクを入れてちょうだい」
「かしこまりましたセレナ様」
いつのまにか私たちの後ろにいたアルフレッド。
その後ろにはマリーナとレオネルトもいた。
『…』
「どうしたの、疲れちゃった?」
歩みを止めてお姉様の腕を少しだけ引っ張った。
お姉様の言葉に頷いて振り向いた。
『レオ、だっこ』
「仰せのままに、リリィ様」
お姉様は優しく笑い私の手を放して、私は近づいてくるレオに向かって腕を伸ばした。
レオのふわふわのわんちゃんみたいなやわらかい髪が頬に当たるこの感覚が好きだ。
私はレオにギュッとしがみつきながら部屋へと向かった。




