お姫様と布団の海
私はお母様に抱きしめられたまま居間へ連れていかれ、温かいミルクを飲まされ、甘いお菓子を食べさせられ、気づけば侍女たちに囲まれていた。
「リリオール様、お湯の温度はいかがですか?」
「髪が少し傷んでおります!ノルディアの乾燥でしょうか?」
「今日は特別な美容液を使いましょう!」
『えっ、あっ』
私の返事など聞いていない。
マリーナを筆頭に、侍女たちの目がきらきら輝いていた。
まるで“保護対象が帰還した”みたいな空気である。
「大変だったのですよ!?リリオール様が襲撃されたと聞いた時、城中が騒ぎになったのですから!」
「皆ずっと心配していたんです!」
「ですから本日は全力で癒やします!!」
『ひぇっ』
その後の記憶は少し曖昧だ。
ふわふわの泡に包まれて。
髪を丁寧に梳かれて。
いい香りのオイルを塗られて。
爪までぴかぴかに磨かれた。
「リリオール様のお肌はアルカンティア国の宝ですので」
「乾燥は大敵です!」
「ほっぺがもちもちになりました!」
『?』
気づけば私は、つやっつやのきらっきらになっていた。
髪はさらさら。
肌はもちもち。
いい匂いまでしている。
最後にはふわふわの寝間着へ着替えさせられ、そのまま巨大なベッドへぽすんと沈められた。
『わぁ』
ふかふかだった。
もはや布団というより海。
沈む。
埋まる。
動けない。
「本日はゆっくりお休みくださいませ」
マリーナが満足そうに毛布を整える。
『お父様たちは?』
「現在、ノルディア国王陛下方と魔法水晶を通じて会談中でございます」
各王家にひとつだけ存在する特殊な魔法具。
遠く離れた相手とも映像と声を繋げられる、高位魔法水晶。
今頃きっと、ノルディアの国王陛下と王妃様、それからお父様、お母様、ルシウスお兄様で今回の襲撃について話し合っているのだろう。
侵入者のこと。
二属性魔法のこと。
そして、私のこと。
そう思うと、胸の奥が少しだけ重くなる。
『……』
布団へ顔を半分埋める。
すると、マリーナが優しく頭を撫でた。
「大丈夫ですよ」
『…うん』
「皆様、リリオール様を守るために話し合っているのです」
静かな声だった。
その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
守るため。
そう思ってくれる人が、こんなにもいる。
それが嬉しくて、安心して。
眠気がじわじわ押し寄せてきた。
「おやすみなさいませ、リリオール様」
『おやすみ、マリー』
部屋の灯りが落とされる。
ふかふかの布団へ沈み込みながら、私はゆっくり目を閉じた。
久しぶりに見る夢は、きっと怖くない。そんな気がした。




