お姫様とご令嬢
色とりどりの料理が並ぶ長いテーブルは、まるで芸術品みたいだった。
雪を模した白いケーキ。
星形の砂糖菓子。
透き通る青いゼリーに、銀粉の散った飲み物。
ノルディア国らしく、どれも氷や星を連想させるものばかりだ。
『すごい!』
思わず目を輝かせると、セレナお姉様がくすりと笑った。
「リリィは甘いものばかり見ているわね」
『だってすっごくおいしそう!』
ふわふわのクリームが乗った小さなケーキへ手を伸ばすが身長が足りずうまく取れない。
セレナお姉様に助けを求めようと横を見たらいつの間にかいなくなっていた。
すると横からそっと小皿が差し出された。
「お手伝いいたしますわ」
『ありがとう、ございます?』
顔を上げるとそこにいたのは、見知らぬ女性だった。
深い青色のドレス。
藍色の髪を綺麗にまとめた貴族令嬢だった。
綺麗な人だな、とじっと見つめていると視線が交わった。
「どうかなさいまして?」
にこり、と優雅に微笑まれる。
『い、いえ!』
慌てて首を横に振る。
人をじっと見つめるなんて失礼だったと慌てて視線を逸らす。
差し出されたお皿を受け取りお礼を言う。
『ありがとうございます』
「いいえ、アルカンティアの第二王女殿下にお会いできて光栄ですわ」
女性は柔らかく微笑んだ。
「私、エヴァリーナ・シュタインベルクと申します。シュタインベルク家の長女ですわ」
『リリオール・アルカンティア・ルシエラと申します』
ぺこりと頭を下げると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「まぁ、本当に愛らしい方」
その言葉に少し照れていると、セレナお姉様が自然な動作で私の肩を抱き寄せた。
「妹がお世話になりましたわ、エヴァリーナ様」
『お姉様!』
柔らかい声音。
けれど、どこか鋭い。
エヴァリーナ様は一瞬だけ目を細める。
「まぁ、セレナ様。ふふ、噂通り仲がよろしいのですね」
「自慢の妹ですもの」
ふたりは知り合いのようでニコニコと笑いあっていた。
なのにどこか雰囲気がおかしい。
『……?』
不思議に思っていると、セレナお姉様は私へ小さく微笑みかけた。
「リリィ、向こうの温かい飲み物を取りに行きましょうか」
『あ、うん!』
そのまま手を引かれて少し離れる。
周囲へ聞こえないくらいの小さな声で、セレナお姉様が囁いた。
「リリィ、あの方にはあまりかかわってはいけないわ」
『え?』
驚いて見上げる。
『どうして?』
そう聞き返す前に、お姉様を呼ぶ穏やかな声が割って入った。
振り返るとルシウスお兄様とエリオットお兄様。
『お兄様!アレクシアス様とのお話はもういいんですか?』
「あぁ、リリィのためによく言って聞かせたからね」
『?』
穏やかに笑うルシウスお兄様とあきれ顔のエリオットお兄様。
ふとルシウスお兄様の後ろに視線を移すとアレクシアス様が微笑んで手を振っていた。
手を振り返すとルシウスお兄様が視界を遮るように前に立ち、私の手を取った。
「おいしそうなケーキだね、リリィ」
『えぇ!あそこにあったの!取れなくて困っていたらえっと、エヴァリーナ様が取ってくださったの』
「エヴァリーナ、あぁシュタインベルク家の」
そういうお兄様の目から光が亡くなったように感じて、お兄様の名前を呼ぶ。
私に視線を移した瞳はいつも通りキラキラ輝いていた。
「セレナ、来ることは知っていたのかい?」
「まぁ、一応ノルディアの伯爵家ですし、呼ばれていてもおかしくはないかと」
『お兄様もエヴァリーナ様とお知り合いなの?』
そう聞くとルシウスお兄様はしゃがんで私に視線を合わせ肩に手を置いた。
「リリィ、いい子だからあの令嬢には近づいちゃいけないよ」
『...どうして?』
「あまりいいお友達にはなれそうにないからだよ、リリィにはいい人と交友関係を持ってほしいからね」
『...わかった』
助けてくれたのに、と言いかけた口はルシウスお兄様の冷えた笑顔を見たら自然と喉の奥に戻っていった。
落ち込む私を見て、セレナお姉様は困ったように笑って言った。
「リリィは、人を疑うことが苦手でしょう?だからこそ、あなたを利用しようとする者も現れる」
その言葉に、今朝の侵入者を思い出した。
胸の奥が少し冷える。
『…うん』
小さく頷くと、ルシウスお兄様とセレナお姉様はほんの少し安心したように息をついた。




