お姫様とパーティー
この襲撃は表沙汰にはせず秘密裏に処理することが決まった。
襲撃を聞いた国王と王妃が駆けつけてアステル様を抱きしめた。
恥ずかしいと照れるアステル様を離そうとせず、震えた身体で抱きしめる二人を見て私たちは目を合わせ笑った。
深々と頭を下げる王と王妃と話をしたのはルシウスお兄様で、この件についてはアルカンティア国に帰ってから王も交えて詳しく話そうということになった。
アステル様は涙を流す王妃様の体調を心配しているのか顔を覗き込んでは落ち着きのない様子で、王妃様はその様子を見て笑った。
王も輪に交じり楽しそうに笑う三人を見て仲が悪いわけではないのだと胸をなでおろす。
また後でと三人と一旦別れ、私たちは先に会場へと向かう。
星冠の儀が行われる大聖堂は、昨日の晩餐会とはまた違う厳かな空気に包まれていた。
白銀の大理石で造られた広間。
高い天井には無数の魔石が埋め込まれ、まるで夜空みたいに淡く輝いている。
中央へ続く長い青銀の絨毯の両脇には、すでに多くの貴族たちが揃っていた。
ざわざわ、と小さな話し声が広がる。
「アルカンティア国第一王子ルシウス・アルカンティア・ルシエラ殿下、ならびに第二王子エリオット・アルカンティア・ルシエラ殿下、第一王女セレナ・アルカンティア・ルシエラ殿下、第二王女リリオール・アルカンティア・ルシエラ殿下のご入場にございます !」
アルカンティア王家である私たちが姿を見せた瞬間、視線が一斉に集まった。
『……っ』
思わずセレナお姉様の袖をきゅっと掴む。
「大丈夫よ」
お姉様は優しく微笑みながら、そっと私の手を包んでくれた。
「リリィはいつも通りでいいんだ」
セレナお姉様の言葉に続くようにルシウスお兄様が言う。
「変な目を向けられたらお兄様にすぐに言いなさい。将来ごと潰してあげるからね」
『…』
相変わらずの愛の重さに口角を無理やりあげて笑う。
「それにしても」
エリオットお兄様が周囲を見回し、小さく息を吐いた。
「何事もなかったみたいな顔してんな」
侵入者の襲撃。
普通なら式典どころではない。
けれど大聖堂にいる貴族たちは誰一人として異変を知らない様子だった。
「表向きは“窓ガラスが割れた事故”として処理したらしいわ」
セレナお姉様が声を潜める。
「ノルディア側も混乱を避けたいんでしょう」
『でも、あんなことがあったのに…』
不安げに呟くと、ルシウスお兄様は困ったように笑った。
「王族っていうのはね、常に何事もないって顔をして振舞わなきゃいけない。下に就く者たちを不安にさせてしまってはいけないからね、たとえ自分の大切な誰かに何かあろうとも」
その言葉に、少しだけ胸が苦しくなる。
さっきのアステル様を思い出した。
震える王妃様を安心させようとしていた姿。
恥ずかしそうにしながらも、ちゃんと抱き返していた姿。
“化け物王子”。
侵入者はそう呼んだ。
でも、あんな風に家族を心配する人が、本当にそんな恐ろしいだけの人には見えなかった。
「でも安心して。この件は父上にはもう話が伝わっているはずだし、護衛の数は倍に増やした。もう怖がる必要はないよ」
この襲撃の狙いがアステル様ではなく私だったというのは、下手すればノルディア国とアルカンティア国の間に亀裂が入りかねない出来事だ。
大事にはしない条件を吞む代わりにお父様は護衛の増加を頼んだらしい。
「ノルディア国国王陛下ならびに王妃殿下、第一王子アステル・ノルディア・エイル殿下のご入場にございます! 」
その時、ざわついていた会場が一瞬で静まり返る。
大聖堂の奥。
巨大な扉がゆっくりと開いた。
白銀の正装に身を包んだ騎士たち。
星を模した旗。
シルバーグレーの髪を揺らしながら歩くアステル様の姿が見えた。
『!』
思わず息を呑む。
昨夜とも、今朝とも違う。
深い紺と白銀で彩られた正装。
肩には星を模したマント飾り。
胸元には氷の結晶みたいな魔石が輝いている。
静かに歩くだけで、空気が変わる。
まるで本当に、星を纏っているみたいだった。
周囲の貴族たちが一斉に頭を垂れる。
高らかな声が響く。
アステル様は真っ直ぐ前を向いたまま歩いていた。
けれど、ほんの一瞬だけ。
金色の瞳と目が合った。




