お姫様とはじめてのお友達
「…そう言われたのは、初めてです」
小さく零された声。
その瞬間、胸の奥が少しだけざわついた。
こんなに綺麗で、優しくて、強い人なのに。
『みんな、怖がるの?』
思わず敬語を忘れて聞いてしまう。
するとアステル様は、少しだけ困ったように目を細めた。
「えぇ。特に、魔力に敏感な方は」
そう言って、ちらりと私を見る。
その視線に、はっとした。
私の闇魔法が騒いでいたのも、きっとそのせいだ。
怖かったのは“悪意”じゃない。
単純に、アステル様の魔力が強すぎた。
まるで、自分と同じくらい巨大な存在を前にしたみたいに。
「私も驚きました」
アステル様は静かに続ける。
「こんなにも近い魔力量を持つ方に会ったのは初めてでしたから」
『…!』
ルシウスお兄様たちの表情が変わる。
「アステル様」
セレナお姉様が少し鋭い声を出した。
けれどアステル様は隠す様子もなく続けた。
「だから、どう接するべきか分からなかったんです」
金色の瞳がまっすぐ私を見る。
「怖がらせないよう、最大限丁寧に接していたつもりだったのですが」
『へ?』
思わず間抜けな声が出る。
最大限丁寧に?
あの完璧すぎる笑顔と、隙のない言葉遣いと、氷みたいな威圧感が?
『あれで?』
「こら、リリィ!」
ぽかんとしてしまう。
咎めるお姉様の声に慌てて口をふさぐ。
するとアステル様は僅かに視線を逸らした。
「我がエイル家では、そう習って…」
ぼそり、とどこか言い訳みたいな声音が響く。
「ぶっ…!」
エリオットお兄様が吹き出した。
「おいエリオット」
ルシウスお兄様がたしなめる。
けれどルシウスお兄様も口元が緩んでいた。
「いや、だって…っ」
エリオットお兄様は肩を震わせながらアステル様を見る。
「それ、“距離の詰め方がわからなかった”ってことですか?」
「…否定はしません」
真顔だった。
そのあまりの真剣さに、一瞬静まり返る。
「ふふっ」
最初に笑ったのはセレナお姉様だった。
「アステル様、真面目すぎるんですのね」
「真面目というか不器用というか…」
ルシウスお兄様も苦笑する。
アステル様は少しだけ眉を寄せた。
「変なことを言ってしまったでしょうか、?」
『ち、ちが…っ』
慌てて首を横に振る。
『なんか、その思ってたのと違って』
「違う?」
『もっと怖い人だと思ってました』
正直に言った瞬間しまった、と思った。
けれどアステル様は怒らなかった。
「やはり」
少しだけ肩を落とした。
「あぁ、でも今のはアステル様が悪いですよ」
ルシウスお兄様が笑いながら言う。
「普通、初対面の子にあそこまで魔力を抑えず接したら怯えます」
「抑えていたのですが」
『「あれで?」』
エリオットお兄様と私の声が重なった。
一瞬の沈黙のあと。
「…ふふ」
「ははっ!」
続くようにルシウスお兄様とセレナお姉様が笑いだす。
空気がふっと和らいだ。
さっきまで殺気に満ちていた廊下とは思えないくらいに。
その様子を見ながら、アステル様は少しだけ目を見開いていた。
まるでこんな空気を、知らなかったみたいに。
『はー笑った...アステル様』
「はい」
『握手しましょ』
手を差し出すと困惑した表情のアステル様。
『握手はすごいんです、ごめんなさいもありがとうもよろしくも全部握手なんですよ』
「はぁ…」
何言ってんだといわんばかりの気の抜けた声を出したアステル様。
「ではこの握手は?」
『これは、仲良くしましょの握手です。隣国の王家の者として、お友達として!』
「おとも、だち…」
兄妹にはなれないけれどお友達ならなれると差し出した手を恐る恐る握ったアステル様。
隣国の王家としてお友達としてこれからいい付き合いができそうだと笑った。




