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20/21

お姫様とノルディア国第一王子

「妹とは初対面でしたよね。こちらが妹のリリオールです」



ルシウスお兄様に促され、私はドレスの裾をつまむ。



『はじめまして、アステル・ノルディア・エイル殿下。アルカンティア国第二王女リリオール・アルカンティア・ルシエラです』



視線を下げ、淑女らしく挨拶をする。

頭では完璧だったはずなのに、なぜか胸の奥がざわついて落ち着かない。



「リリオール姫、お噂はかねがね聞いていますよ」



頭上から落ちてきた声に顔を上げる。

アステル様は先ほどと変わらない柔らかな笑みを浮かべていた。



「光と闇、二つの属性を持つ特別なお姫様だと聞いております」



その言葉に、一瞬だけ廊下の空気が変わった気がした。

エリオットお兄様の眉がぴくりと動く。



「ずいぶん耳が早いのですね、アステル殿下」



穏やかな声で返したのはルシウスお兄様だった。

けれど笑顔の奥に薄く警戒が滲んでいる。



「僕としたことが、レディに突然こんなことを言うのは紳士失格ですね。失礼いたしました。ですが帝国内では有名なお話ですよ」



アステル様は言葉とは裏腹に悪びれた様子もなく微笑んだ。



「イリュウィア様に最も近い国の王女が、“特別”だった。誰もが興味を持つでしょう」



“特別”

その響きに、胸の奥が少しだけ重くなる。



『……』



無意識にドレスを握りしめていると、隣からそっと手が重ねられた。

隣を見上げるとセレナお姉様が優しく微笑んでいた。



「リリィ」



大丈夫、と言われた気がして小さく息を吐く。



「おや」



アステル様の金色の瞳が細められた。



「アルカンティア王家は本当に仲が良いのですね、僕には兄弟がいないので羨ましいです」



にこり、と完璧な笑み。

けれどその瞬間。

ぞわり、と背筋を冷たいものが撫でた。



(……っ)



まただ。

感知魔法を使っているわけでもない。

なのにアステル様を前にすると、胸の奥がざわつく。

まるで、吹雪の中に一人で立たされているみたいに。



「アステル」



低く落ち着いた声が響いた。

振り返ると、廊下の奥にひとりの男性が立っていた。

白銀の長い髪。

ノルディア王家の紋章が刻まれた濃紺の外套。

冷たい美貌をしたその人は、アステル様によく似た金色の瞳をこちらへ向けている。



「父上」



アステル様が静かに頭を下げた。

続くように私たちも頭を下げる。

ノルディア国王。

その存在感に、思わず息を呑む。



「アルカンティアの皆様、歓迎いたします」



低く静かな声。

威圧しているわけではないのに、空気が張り詰める。



「晩餐会の準備が整いました。どうぞこちらへ」



国王陛下が歩き出し、お兄様たちも後に続く。

私もついて歩きながら、そっと後ろを振り返る。

するとアステル様が立ち止まりこちらを見ていた。

雪みたいに静かな目で。

その瞳がゆっくり細められる。

まるで、何かを確かめるみたいに。

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