お姫様と星の導き
大広間へ足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑んだ。
天井には星空のように無数の魔石が浮かび、淡い光を降らせている。
白銀の柱には氷の結晶を模した装飾。
長いテーブルには、雪を思わせる白い花々が飾られていた。
(…本当に星の国なんだ)
アルカンティアの豪華で華やかな空気とは違う。
静かで、冷たくて、それでも目を奪われる美しさ。
「綺麗でしょう?」
隣から聞こえた声に顔を上げる。
いつの間にかアステル様がすぐそばに立っていた。
『っ…はい』
驚きで声が少し裏返る。
そんな私を見て、アステル様は小さく笑った。
「ノルディアでは、星は“導き”の象徴なんです」
そう言って天井を見上げる横顔は、絵本の王子様みたいに整っていた。
なのにやっぱり、胸の奥が落ち着かない。
「リリオール姫は星がお好きですか?」
突然の問いに瞬きをする。
『好き、です』
“星のおひめさま”。
前世で何度も読み返した、大好きな絵本。
『星を見ると…わくわくしますから』
そう答えると、アステル様は少しだけ目を細めた。
「そうですか」
その笑みはやっぱり綺麗で、優しい。
なのに。
(……どうしてこんなに怖いんだろう)
感知魔法を使っているわけじゃない。
でも、近くにいるだけで胸がざわつく。
その時だった。
ふわり、と微かな冷気が頬を撫でる。
『…え?』
視線を向けると、アステル様の足元に白い霧のような魔力が揺らめいていた。
それは雪みたいに静かで、美しい。
けれど次の瞬間。
――どくん。
胸の奥の闇魔法が、大きく脈打った。
『っ!』
思わず後ろへ下がる。
「リリィ?」
異変に気づいたエリオットお兄様がこちらを見る。
『だ、大丈夫…』
そう答えながらも、心臓がうるさい。
まるで私の魔力が、“あれ”を警戒したみたいだった。
「…リリオール姫?」
アステル様が一歩近づく。
その瞬間、頭の奥に、映像が流れ込んできた。
吹雪。
砕ける氷。
真っ赤な血。
そして、白銀の世界で、ひとり立ち尽くす長いシルバーグレーの髪を靡かせる男性。
『―っ!?』
がたんっ、と大きな音を立てて椅子にぶつかる。
周囲の視線が一斉に集まった。
「リリィ!」
駆け寄ってきたセレナお姉様が私の肩を抱く。
「顔色が悪いわ…!」
『ち、が……』
違う、具合が悪いわけじゃない。
でも。
(今の、なに……?)
息がうまく吸えない。
胸の奥が、ひどくざわつく。
アステル様を見つめると眉を下げながら不安そうな顔をしていた。




