お姫様とくたびれた花
『これとこれどっちがいいかな?』
「どちらも大変お似合いですが、先ほど選ばれた髪飾りにはこちらのほうがさらにお似合いになると思いますわ」
『そう?でもこっちもかわいいなぁ~』
マリーナは笑って頷き準備を進める。
パールホワイトの壁紙に小さめのシャンデリアが輝く部屋。
アクセサリーの中から腕を組みながら真剣に選ぶリリオールの後姿を見てメイドたちは頬が緩んでしまう。
「髪はいつものようでよろしいですか?」
『うん!』
時間をかけて選んだ髪飾りをもって嬉しそうに笑うリリオールはドレッサーの前に座る。
「姫様の髪はいつみても美しいですわ」
『ありがと!』
今よりも幼いころ、じっとしているのが苦手だったリリオールの機嫌を損ねないよう、メイドたちが褒めながら退屈させないように準備をしていた時の癖からか今もなお褒め言葉が止まらない。
「姫様、そのドレスもしかして」
『えへへきづいた?おかあさまがプレゼントしてくださったドレス!』
サファイアブルーのレースがあしらわれたドレスはふんわりときれいな形をしている。
胸元に光るのはアルカンティア国の象徴であるダイヤモンドのブローチだ。
「さすが王妃様、姫様がさら美しくなるドレスを把握していらっしゃる!」
「とてもお似合いですよ、姫様」
うれしそうに笑いながら足を揺らすリリオールにマリー達メイドも笑いあった。
準備を終えたリリオールは先ほど摘んだリボンで装飾した花をかごに入れてもらい大事そうに持った。
食事の時間ギリギリに準備を終え部屋を出るとアルフレッドとレオネルトが待機していた。
「おぉ、とてもお似合いです姫様」
「素敵です姫様」
『ありがとう!いこ!おなかすいちゃった!』
アルフレッドと手をつなぎながら歩くリリオールの後ろにはマリーとレオネルト、その後ろに数人のメイドもついている。
いつもの城内よりも護衛の数も多い。
帝国の中心国であるアルカンティア国の王族はそれほど危険が多い立場。
目的地に着くとアルフレッドはそっと手を放して数歩後ろへ下がった。
扉の前の護衛はリリオールの姿を見るなり一斉に扉を開けた。
豪華なシャンデリアに長いテーブルのうえには真っ白のテーブルクロスにずらりと並んだ色とりどりの食事。
一番豪華な椅子に座るのは国王_オスカーだ。
厳格な風貌をしており一見近寄りがたいが、誰よりも愛が深くまあるいくまさんのような男。
「おお、リリィ。来たか」
重厚な声が響き、オスカーは、娘の姿を見た瞬間、ふっと表情を緩めた。
『おとうさま!』
とてとてと小さな足で駆け寄り、オスカーの前でぴたりと止まる。
『あのね!これ!』
持っていたかごからひとつの花を取り出したリリオール。
しかし、その花は先ほどよりもくたびれていてシュンと下を向いている。
『あれ...?』
さっきまで元気だったのに、と花を見つめるリリオールの表情がだんだん暗くなっていく。
『おとうさまと、おかあさまと、おにいさまと、おねえさまに...その、プレゼント、したくて...』
だんだん小さくなる声、手に握られている花と同じように下を向くリリオール。
一瞬の静寂のあと、最初に口を開いたのはオスカーだった。
「……これは」
オスカーがゆっくりと受け取り大きな手の中に、小さな花が収まる。
「リリィが摘んだのか?」
『うん...でも、つぶれちゃった、』
その言葉に、王妃_ルミナスがやわらかく微笑む。
「とっても素敵なお花よ、リリィ」
第一王女_セレナも目を細める。
「えぇとても可愛らしいわ、リリィ」
第二王子_エリオットは腕を組んだまま、少しだけ顔を逸らしてから、ぼそっと言う。
「ま、悪くはないな」
そんなエリオットの頭をこつん、と叩く第一王子_ルシウス。
「そういう言い方しない、エリオット。素敵なプレゼントをありがとう、リリィ。僕の部屋の一番いいところに飾るよ」
『えへへ』
家族からの言葉に満足そうに笑うリリオール。
その後ろで、アルフレッドたちはは静かにその様子を見ていた。
さっきまで泥だらけで走り回っていた少女が、今は少しだけ背筋を伸ばして、王女として立っている。
その事実に嬉しくなり、三人目を合わせてほほ笑んだ。
リリオールが席に着いたことで食事が始まった。
久しぶりに顔を合わせる家族たちに嬉しそうに話をするリリオール。
笑い声が響く部屋に暖かい太陽の光が差し込んだ。
これは私が前世の記憶を取り戻すほんの少し前の出来事だった。




