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お姫様と感知魔法

『感知?』



聞き慣れない言葉に首を傾げる。

するとセシル様は本を開きながら、静かに説明を始めた。



「簡単に言えば、“魔力の気配を読む”技術です。人、魔法、結界、生き物……魔力を持つものにはそれぞれ微かな流れがあります」

『流れ……』

「はい。感知ができれば、敵意や危険を察知することもできますし、逆に相手の状態を知ることもできます」



旅先で役立つ、という意味がようやく分かった。

確かに、知らない土地では周囲の状況を把握できる力は重要だ。



「ですがこれは本来、もっと成長してから学ぶ高等技術です」



セシル様はそう言って、ふっと微笑んだ。



「けれどリリオール様なら、きっとできます」



その瞬間、隣から不満そうな声。



「…甘やかしすぎだ」

『お兄様?』

「僕が習ったの、もっと後だったぞ」



腕と足を組みながらむすっとするエリオットお兄様。

その様子にセシル様がくすりと笑った。



「エリオット様は感知などより先に攻撃魔法ばかり覚えたがっていたでしょう?」

「騎士たるもの当然だろう」

「騎士ですか…授業中に窓を吹き飛ばした方がよく言いますね」

『…お兄様』



目を細めてお兄様を見つめると、お兄様は露骨に顔をしかめた。



「……おいセシル、それ以上喋るな」

「独断で魔法を使い訓練場の池を凍らせたり、なんど始末書を書いたことか」

「黙れ」



ぴしゃりと言い切るお兄様に、私はとうとう吹き出してしまった。



『お兄様にもそんな時代があったのね!』

「うるさいぞ、リリィ」



ぼそっと返された言葉に、セシル様まで笑い出す。

なんだか不思議だった。

お兄様はいつも私に突っかかって年上振るけれど、セシル様といる時は少しだけ年相応な少年に見える。



「では始めましょうか」



セシル様は指先で机を軽く叩いた。



「まずは目を閉じてください」



言われた通りに目を閉じる。



「呼吸を整えて。“見る”のではなく、“感じる”のです」



静かな声が耳に落ちる。



「魔力は常にあなたの周囲にあります。風のように、波のように」



すぅ、と息を吸い吐く。

すると少しずつ、世界の輪郭が変わっていく気がした。


部屋の空気。

窓から入る風。

遠くで揺れる木々。

それから――



(……あったかい)



ひとつ、強くて優しい光。

おそらくセシル様。

その隣には、燃えるみたいに真っ直ぐで力強い魔力。

エリオットお兄様だ。

そして、自分の中。

胸の奥で揺れる、金色の光と黒い影。

どちらも怖くない。

静かにそこにあった。



『……っ』



その瞬間だった。

視界の奥に、見知らぬ“光景”がよぎる。

白銀の雪、星空。

そして、銀髪の青年。



『…え?』



思わず目を開ける。



「どうしました?」



セシル様の声に、私はぱちぱちと瞬きをした。

今のは何?感知魔法?

それとも_胸が、どくん、と大きく鳴った。



(今の男の人…誰?)



見覚えのない青年は私に手を差し伸べて笑っていた。

なんだったのか、と首をかしげると隣から肩をつかまれた。



「おい、大丈夫か」



顔をあげると慌てたお兄様と心配そうに見つめるセシル様がいた。



『すみません、ボーっとしてしまって』



そういうとセシル様は怪我はないかと心配してくれたが、問題ないと返した。

やっと安心した顔になった二人に微笑んでさっきの光景を思い出す。

あの雪景色と銀髪の青年。

どこかで見たことがあるような気がするのに、思い出せない。

けれど不思議と、怖くはなかった。むしろ



(……あったかかった)



胸の奥に残る感覚に、そっと手を当てる。



「リリオール様?」



セシル様の声に、はっと顔を上げた。



『あ、はい!』

「初めての感知で意識を深く潜らせすぎたのでしょう。稀にですが、強い魔力を持つ方は感覚が鋭くなりすぎることがあります」

『感覚が鋭く、』



セシル様は少し考えるように目を伏せた。



「感知は単純な索敵だけではありません。土地の記憶、残留魔力、ときには相性の良い存在を断片的に感じ取ることもあります」

『相性の良い存在?』

「えぇ。特にリリオール様のように特殊な魔力を持つ方は、“縁”を視ることがあると言われています」



縁。その言葉に、胸がまた小さく跳ねた。

銀髪、星空、雪。

まるで絵本の一場面みたいだった。

「……顔色は悪くないな」


隣でエリオットお兄様がじっとこちらを見ている。



『大丈夫』

「ならいい」


ぶっきらぼうに言いながらも、お兄様の手はまだ私の肩を掴んだままだった。

それが少しおかしくて、思わず笑ってしまう。



『お兄様、心配してくれたの?』

「してない」

『でも手、ずっとつかんでる』

「……っ」



ぴたり、とお兄様の動きが止まる。

そのまま勢いよく手を離した。



「お前が倒れたら父様がうるさいからだ」

『素直じゃないね、お兄様』

「リリィ」



低い声で名前を呼ばれ、私は慌てて口を閉じた。

でもセシル様は隠す気もなく笑っている。



「お二人は本当に仲がよろしいですね」

「どこがだ」

『どこがですか』



声が重なる。

数秒の沈黙。

そしてセシル様はとうとう堪えきれなくなったように吹き出した。



「ふふ……息はぴったりですよ」

『……』

「……」



なんだか悔しくて、お兄様と同時に顔を逸らした。

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