お姫様とお兄様の過去
本当についてきたお兄様に違和感を覚えながらセシル様が待つ部屋に行く。
ノックをすると聞き覚えのある穏やかな声。
「おはようございます、リリオール様」
『セシル様!おはようございます!』
ぱっと表情を明るくすると、セシル様は微笑む。
「おや…第二王子殿下までお久しぶりです」
『…おひさし、ぶり?』
お兄様を見上げると見たことないぐらい顔を歪ませている。
「師団長になったんだってな」
「はい、とても光栄な役目を賜りました」
「はっ、お前を師団長にするなんて宮廷魔法師団も落ちぶれたな」
『ちょっとお兄様、なんてことを!』
お兄様の言葉に腰に手を当てて怒る。
「デビュタントも近いというのに、そんな乱暴な口調はいけませんよ第二王子殿下」
「お前の言うことなんて聞いてやるか」
「でしたら魔法勝負で勝った方の言うことを聞く、というのをしましょうか?昔のように仲良く」
「誰がお前と仲良くした!!」
いつも通り爽やかで笑顔を絶やさないセシル様と怒った猫のように威嚇を続けるお兄様。
『昔?』
「エリオット様の魔法訓練の教師も私だったんです」
『え、えぇ!?』
お兄様は気まずそうな顔をして立っていた。
「とはいっても私も宮廷魔法師になりたての頃ですけどね」
『ど、どうして教えてくれなかったのお兄様!』
「聞かれなかったからだ」
通りで私の先生が見つかるのが早いわけだ。
以前エリオットお兄様を担当していた人ならば話が早いし信頼もある。
最初からセシル様に頼まなかったのはお父様のちっぽけな意地だろう。
『セシル様は本当に優秀な方なのですね…!』
私が尊敬のまなざしを向けるとそんなことありません、といつもの笑顔で返した。
「ほら見てみろリリィ、つかみどころのない気味の悪い笑みを浮かべるだろう」
『とても素敵な笑顔にしか見えませんわ、お兄様』
「…見る目がないな」
『なにかおっしゃいまして?』
笑みをこぼしたセシル様は私たちを席に着くように促した。
しぶしぶといった様子で私の隣に座ったお兄様は、言葉ほどセシル様を嫌ってはいないんだと思う。
ただ相性が悪いだけで。
「ノルディア国の式典に参加されるため、まもなく出発すると聞きました。というわけで今日は旅先でも使える魔法を学びましょうか」
『旅先で?』
首を傾げる私に、セシル様は一冊の古びた本を机へ置いた。
表紙には《星導魔法基礎論》の文字。
「リリオール様はとても呑み込みが早いので“感知”を覚えても差し支えないでしょう」
その言葉に、エリオットお兄様がぴくりと眉を動かした。




