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お姫様とルミナーレ帝国

光も闇も、自分の一部。

その言葉は簡単なようで、ひどく難しかった。

前世の私は、“悪い感情”を持ってはいけないと思っていた。

苦しいとか、怖いとか、なんで私だけって思うことすら。

泣けば家族を困らせるから、なるべく笑っていようとしていた…でも



(……闇は、悪いものじゃない?)



ぼんやりと考え込んでいると、セシル様が机の上を軽く叩いた。



「では実践してみましょうか」

『実践?』



嫌な予感がする。

するとセシル様はどこからともなく小さな黒猫のぬいぐるみを取り出した。



『……ねこ?』

「はい、猫です」

『えっと……まほうのれんしゅう、ですよね?』

「もちろんです」



セシル様は頷き、黒猫を机の上に座らせる。



「リリオール様、この猫を見てどう思いますか?」



突然すぎる質問に、私は黒猫をじっと見つめた。

丸い目。

ふわふわの耳。

少し曲がったしっぽ。



『……かわいい?』



すると、ぽう、と。

黒猫の周囲に淡い金色の光が灯った。



『わぁ!』



思わず身を乗り出す。



「今のが光属性の反応です」



セシル様は落ち着いた声で説明した。



「では次。もしこの猫を誰かに取られそうになったら?」

『え?』

「お気に入りを壊されそうになったら、嫌でしょう?」



その瞬間、胸の奥が、むっと熱くなる。



『……やだ』



今度は黒猫の足元に黒い靄が揺らめいた。



『っ!?』



慌てて後ろに下がる。

でも、前みたいに暴発しない。

ただ感情に合わせて、魔力が反応しただけ。



「素晴らしい」



セシル様はぱちぱちと拍手した。



『す、ばらしい?』

「えぇ。今までのリリオール様は、感情と魔力を無理やり切り離そうとしていました」



彼は黒猫を持ち上げる。



「ですが本来、魔力とは感情と密接に繋がっています」



ふわり、と黒猫が浮いた。



「抑え込むのではなく、“理解する”ことが大切なんです」



私はじっと自分の手を見る。

闇属性だと言われた日からずっと怖かった。

もし暴走したら。

誰かを傷つけたら。

そんなことばかり考えていた。でも今は、少しだけ違う。



『……わたしのまほう、ちゃんとそこにいるみたい』



ぽつりと零した言葉に、セシル様は静かに目を細めた。



「えぇ。ようやくリリオール様が、魔法を“敵”ではなく“自分の一部”として見始めた証拠です」



優しく笑うセシル様に微笑み返す。

魔法は敵じゃない、自分の一部。

忌み嫌うものでも尊敬し敬うものでもない。

”私”なのだ。



セシル様の授業を何度か受けた日のこと、気分転換に庭を散歩しているときだった。



「姫様、リリオール姫様!」

『どうしたの?』



一人の若い執事が息を切らして駆け寄ってきた。

ずいぶん探し回ったみたいで額には汗が浮かんでいる。

その様子を見たアルははしたない、とお怒り。

まぁまぁ、と宥めてアルに怯える執事に再度問う。



「あ、国王陛下がお呼びです!」

『お父様が?』



お父様の執務室の扉をノックして中に入るとエリオットお兄様の姿もあった。

この間の魔法で花瓶を割ってしまったことがばれたのかと思ったが、お兄様を呼んでまで問い詰めたりはしないだろうとホッと胸をなでおろす。



「…僕の顔を見てホッとした顔をするのはなんだ」

『いとしいお兄様に会えたことがうれしくて!』



怪訝そうな顔を向けられたので笑顔で返し、お兄様の隣に座る。



「元気そうで何よりだよ、リリィ」

『お父様も今日もかっこいい!』

「リリィ!!」



今にも抱き着きそうなお父様をけん制したお兄様はため息をひとつ吐いた。



「父様、本題を」

「あまりない家族時間を急かすではない、エリオット」



子供のように拗ねた顔をするお父様を呆れた顔で見つめるお兄様。

誰よりもお父様に憧れているくせに素直じゃないから悪態しかつけないお兄様を見て思わず笑ってしまう。

私の心の中を読んだかのように、お兄様は頬をつねってきた。



「実は二人にこれを渡したくてね」



お父様は私たちの前に一通の便箋を出した。

ノルディア国の国紋の封蝋で閉じられたそれは間違いなく国からの招待状。



「ノルディアで星冠の儀が行われるそうだ。ルシエラ家全員に招待状が来たのだが、私とルミナスは別件があり顔を出せない。ルシウスとセシルは学園から直接行くそうだから、ルシエラ家として行ってきてくれ」



星冠の儀、次期国王を正式に発表する式典のこと。

ノルディア国の第一王子は8歳になり正式に社交界デビューをしたと聞いた。

一人息子のため、後継者は第一王子しかいないのだが噂によればとても優秀な方らしい。



「エリオットは来年デビュタントだ。いい練習にもなるだろう」

「デビュタントのメインは令嬢たちでしょう。令息はデビュー前にも社交界に顔を出す機会も多いですし、今更です」



お兄様の言う通り、令息たちは両親についてデビュー前でも社交界に顔を出すことが多い。

跡継ぎ教育や外交教育などで令息たちは幼い頃から顔を広めた方が将来有利になることがあるから。


ルミナーレ帝国のデビュタントの始まりは帝国を創ったとされる大守護神イリュウィア様から加護を授かる儀式。

8歳を迎えた帝国の令息令嬢たちが、イリュウィア様が眠るとされているエルストラルの森にあるイリュウィアの星亭で行われるデビュタントに参加する。

イリュウィアの星亭はデビュタントや王族またはそれに匹敵する人物の婚姻の儀式のみにしか使われることのない神聖な場所。

普段は厳重に守られて王族すら簡単に立ち入ることができない。


この国は中央のアルカンティア国、北のノルディア国、東のアナサリス国、西のエルダリア国、南のソレア国の5つの国からなる帝国。

帝国とはいえ、皇帝はおらずその位置に君臨するのが大守護神イリュウィア様だ。

イリュウィア様が選んだ、イリュウィアの五守と呼ばれる守護神が各国に存在し、守護神たちはイリュウィア様の言葉を預かり、それぞれの国との調和の役割を担う。


その中でもアルカンティア国は帝国最初の国とされているため、重要施設などが揃い中心国として栄えている。



(守護神は自由気ままな方らしく、普段は人間にまぎれて普通に生活しているらしいけれど…)



守護神は基本その国の王としか顔を合わせない。

お父様も数えるほどしかお会いしたことがないと言っていた。



「_というわけだ。それでいいかい、リリィ」

『え、あ、はい!』



先日習ったばかりの帝国の歴史を振り返っていたらいつの間にか話がまとまったようで、思わず返事をしてしまった。

隣に座るお兄様は私が話を聞いてなかったことをお見通しのようで呆れた目を向けられた。

こうして私は一か月後、生まれて初めて自国をでることになった。

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