お姫様と宮廷魔法師師団長
『お初にお目にかかります、宮廷魔法師団師団長、セシル・オスカー様。アルカンティア国第二王女リリオール・ルミナーレ・ルシエラと申します。よろしくお願いいたします』
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます、第二王女殿下。どうぞ私のことはセシルとお呼びください。」
変わった方が多いと噂の宮廷魔法師団のトップはきっとそれ以上に変わった方だ、という私の警戒は簡単に打ち砕かれた。
長い髪を一つに束ね、肩から流しメガネをかけた師団長_セシル様はあまりにも美男子な好青年だった。
『では、私のこともリリオールと呼んでください、セシル様』
「かしこまりました、リリオール様」
宮廷魔法師のローブを着たセシル様は高身長で整った顔をしている。
アルカンティア国の宮廷魔法師で、オスカー伯爵家の三男で家柄もしっかりしているうえに史上最年少で師団長になった結婚適齢期の21歳。
これは引く手数多なモテ男だろうと想像する。
セシル様は今までの教師たちとは違い、室内で授業を始めた。
『セシル様、外で魔法訓練をするのではないのですか?』
「実技の前に座学です。魔法は知識なくして使えるものではありません。まずは自分の魔力について知りましょう」
自分の魔力、つまりは光と闇について。
ただでさえ稀な属性のため、資料どころか情報すら少ない。
「光魔法とは主に結界などの守りに使われることが多いとされています。ちなみに無属性魔法の治癒魔法は昔は光魔法のひとつだったとされています」
『え』
「しかし光の魔力を持つものは少ない。だから光の魔力を持っていなくとも治癒魔法が使えるようにならないかと研究を重ね、完成したのが今の治癒魔法です。現在の治癒魔法も高度魔法に分類されますが、魔力を持つすべての人が勉強すれば使える魔法になりました」
当たり前に存在している無属性魔法にそんな歴史があったなんて、開いた口が塞がらない。
「このように、魔法にも歴史があります。まずは魔法を理解する…そうですね、魔法と友達になりましょう」
『友達…』
「魔法は使うもの、ではなく魔法はともにあるものです」
セシル様は穏やかに笑った。
前世にはなかった魔法というものにどこか距離を置いていたのかもしれない。
もっと身近に感じよう、そのためには勉強だと背筋を伸ばした。
「よろしい。ではまず、リリオール様自身の魔力の流れを感じるところから始めましょう」
セシル様はそう言って、机の上に小さな水晶を置いた。
透明なそれは陽の光を受けて、きらりと淡く輝く。
「この水晶は魔力共鳴石です。触れた者の魔力に反応します」
『……これに、触ればいいんですか?』
「えぇ。ですが“出そう”としなくて構いません」
今までの教師たちは皆、魔力を“操れ”と言った。
集中しろ、押さえ込め、流れを整えろ、と。
でもセシル様は違った。
「感じるだけでいいのです。呼吸をするように、自分の中にあるものを知る」
穏やかな声に、不思議と緊張がほどけていく。
私はそっと水晶に手を伸ばした。
ひやり、と冷たい感触。
その瞬間。
パキッ_
『……え?』
小さな音とともに、水晶に細いひびが入り空気が止まった。
同じ部屋にいたマリーとアルが目を見開き、レオが一歩前へ出た。
私は慌てて手を引っ込めた。
『ご、ごめんなさい!?』
また壊してしまった。
昨日は訓練場の石柱を爆発させ、その前は庭園の噴水を凍らせた。
最近まともに成功した記憶がない。
しかしセシル様は驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「……なるほど」
怒るどころか、どこか納得したような声音。
「面白いですね」
『お、おもしろい……?』
普通なら困る場面ではないのだろうか。
思わず困惑すると、セシル様はひびの入った水晶を手に取った。
「普通、光属性の魔力は安定しています。ですがリリオール様の魔力は非常に繊細で……同時に、凶暴です」
『凶暴……』
お姫様に似合わない単語にしょんぼりする。
するとセシル様は小さく笑った。
「悪い意味ではありませんよ。強い力というのは、制御できない間は暴れやすいものです」
彼は割れかけた水晶を指先でなぞった。
「ですが、光と闇がここまで綺麗に共存している例は初めて見ました」
その言葉に、私は顔を上げる。
『……怖く、ないんですか?』
気づけば、そんな言葉が口から零れていた。
今まで会った大人たちは、少なからず私の力に怯えていた。
珍しいものを見る目。
危険なものを見る目。
けれどセシル様は、まっすぐ私を見る。
「なぜ?」
『だって、私の魔法は、変でしょう?』
そう言うと、セシル様は少しだけ目を細めた。
「“未知”と“異常”は別物ですよ、リリオール様」
静かな声だった。
「人は知らないものを恐れます。ですが私は魔法師です」
彼はゆっくりと笑う。
「知らないものがあるなら、知りたいと思う側ですよ」
その瞬間。
胸の奥に張りついていた何かが、少しだけ軽くなった気がした。




