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お姫様と魔法訓練

ボンッ_



あたりに響く大きな音に近くを歩いていたメイド達の視線が一斉に一つに集まるが、すぐに微笑ましそうに笑って仕事に戻った。

その大きな音の出どころが地面に尻もちをついている私からだとわかったからだ。


淑女教育が本格したのとほぼ同時期に始まった魔法訓練。

国内外から名のある魔法師を教師に集めてくれたが、つい昨日最後の一人が白旗をあげてやめてしまった。

最初は王族の魔法訓練、しかも光と闇の魔法を間近で見れると心を躍らせてきた魔法師たちもすぐに撃沈した。


二属性、さらに反発しあう属性の魔法訓練など例がないため練習方法が分からず基礎的なことをひと通り済ませてしまった現在、これからの訓練方法に行き詰ってしまった。


お父様は落ち込む私を見て、執事の胸ぐらをつかみそうな勢いですぐに次の魔法師をと声を荒げていたが、名のある魔法師が白旗をあげた王族の魔法訓練を請け負ってくれる変わり者なんてそう見つかるはずもない。



「リリィ様、無理をされてはお怪我をしてしまいますよ」

『べつに…無理はしてないわ』



レオは困ったように笑いながら尻もちをついた私に手を差し伸べてくれた。

しぶしぶその手に手を重ねて立ち上がる。



「そう焦らなくても、国王陛下がきっといい先生を見つけてくれますよ」

『…』



この国でこれから起こることを知っているのは私だけ。

しかし、黒い影がこの国を襲う時期はわからない。

だから、いつでも対応できるようにしなくちゃいけない。一か月でも一日でも早く。



『……わたし、つよくならなきゃいけないの』



ぎゅっとスカートを握る。

レオは何も言わず、ただ静かに私を見ていた。



『だって、もしものことがあったら……』



そこまで言いかけて、口を閉じる。

絵本の中では、たった数行で終わっていた。

けれど現実は違う。

誰かが泣いて、傷ついて、怖い思いをする。

そんなの、見たくない。



『みんなを守れる、ちゃんとしたお姫様になりたいの』



ぽつりと落ちた言葉に、レオは少しだけ目を細めた。



「リリィ様は、もう十分立派ですよ」

『ちがうわ』



即座に首を振る。



『あの子は...絵本のおひめさまは、もっとすごかったもの』



強くて、優しくて。

いつも笑顔で。

誰より勇敢だった。

でも今の私は、魔法ひとつまともに扱えない。

さっきだって転んで尻もちをついただけだ。



『こんなんじゃ、ぜんぜんだめ』



悔しくて唇を噛む。

すると、レオがふっと小さく笑った。



「姫様」



ぽん、と頭に手が置かれる。



「絵本のお姫様だって、最初から完璧だったわけじゃないと思いますよ」

『……でも』

「転びながら覚えるんです。剣も、魔法も、人付き合いも」



レオはしゃがみ込んで、私と視線を合わせた。



「それに、リリィ様はちゃんと前に進んでる」



その言葉に、少しだけ目を瞬く。



「怖くても、諦めてないでしょう?」



風が吹いて、庭の花が揺れた。 陽の光を受けて、花びらがきらきら光る。

前世の私は、病室の窓から空を見ることしかできなかった。

けれど今は、転んでも走れる。

泣いても、また立ち上がれる。



『……レオ』

「はい」

『もういっかい、やる』



そう言うと、レオは少し困ったように笑った。



「今度は爆発なしでお願いしますね」

『う……が、がんばる』



レオが少し距離を取る。

私は深呼吸をひとつして、手のひらを前に向けた。

光をイメージして。

その奥にある闇も、拒絶しないように。

まだ怖い。

身体の中で、ふたつの力がぶつかり合う感覚も気持ち悪い。

それでも



(理想のお姫様に、なりたい)



その気持ちだけは、ずっと変わらない。

小さく息を吸い込んで、私はもう一度魔力を練り上げた。

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