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お姫様と一番好きな花

「あはは!本当に面白い兄妹だね」



楽しそうに笑うアレクシアス様に、私は少しだけ目を丸くした。

貴族の子息令嬢は、もっと完璧に微笑み合っているものだと思っていた。

少なくとも絵本の中ではそうだった。

けれど目の前の彼は、作った笑顔じゃなくて、本当に楽しそうに笑っている。



「……変じゃありません?」

「変、とは?」

『兄妹で言い合いしてるなんて、お母様にも怒られたんです。兄妹なんだから仲良くしなさい、と』



そう聞くと、アレクシアス様はきょとんとしたあと、ふっと目を細めた。



「むしろ羨ましいですよ。僕には兄弟がいないので身近に言い合える人がいるっていうのは」



その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。



「それに、仲が良いにはいろんな形がありますからね。エリオットは不器用なやつなので伝え方が遠回しというか下手というか」

「それ以上何も言うなアレク」

「はいはい…」


お兄様は今にもアレクシアス様の胸ぐらをつかみそうな勢いで顔を近づけて圧をかける。

両手をあげて笑うアレクシアス様にまたため息を吐いたお兄様。

そんな二人の様子を見て本当に仲が良いんだな、と微笑ましくなる。



「それにこの温室の花たちを見ればリリオール様がちゃんと“愛されて育った方”なんだなってわかります 」

『え?』



アレクシアス様は温室を見回した。

思わず聞き返す。

そんなこと、言われたことがなかった。



「花って、育てた人が出るんです」



そう言って彼がしゃがみこんだ先には、小さな白い花。

私が最近育て始めた花壇の一角だった。



「この花、少し元気がなかったでしょう?」

『!どうしてわかるんですか!?』



ぱっと顔を上げる。

確かに数日前まで元気がなくて、毎日マリーと相談しながら水の量を変えたりしていた。



「葉の色が少し違うので」

「相変わらず細かいな、お前」

「植物を見るのは好きなんだ」



そう言って触れた白い花が、ふわりと揺れる。



「僕も、土いじりが好きなんです。男の趣味じゃない、と笑われますが」

『そんな!好きなものに男も女も関係ありません!』

「…あはは!ほら、やっぱり君たちはとても仲が良いよ」



本当におかしそうに笑うアレクシアス様に首をかしげる。

隣にいたお兄様を見上げると一瞬目が合ったかと思うとふいっとそらされた。



「その言葉はエリオットが僕にかけてくれた言葉と一緒なんです。他の貴族の子供たちに趣味を馬鹿にされて何も言えずにうつむいていた僕の前に立って言ってくれた」



お兄様がそんなことを、ともう一度見上げると耳が真っ赤になっていた。

その様子に口角があがる。



『えへへ』

「…気色悪い笑い方すんな」

『ひどーい』



真っ赤な耳をして言われる悪口はこんなにもかわいく見えるのかとさらに口角が上がった。



「ふふ…リリオール様の好きなお花はなんですか?」



突然の問いに、少し考える。

好きな花。

前世では、病室に飾られる花を眺めることしかできなかった。



『……ルミエルブルーム、ですかね』



ルミエルブルームはアルカンティア国のあちこちに自生する白く小さな花。

夜になると淡く光るかわいらしい花だ。

私の答えに、エリオットお兄様が少し意外そうな顔をした。



「へぇ。もっと派手なの好きかと思ってた」

『お兄様の中の私はなんなんですか』



むっとすると、アレクシアス様がまた笑う。



「ルミエルブルーム、ですか」



彼は小さくその名前を繰り返した。



「“私を忘れないで”――でしたよね、花言葉」

『……はい』



前世の私は、消えてしまうのが怖かった。

病室の中だけで終わる人生。

もし私がいなくなったら、いつか全部忘れられてしまうんじゃないかって。



「リリィ?」



お兄様の声で我に返る。

気づけば、アレクシアス様がじっとこちらを見ていた。



「……優しい花を選ぶんですね」



その声音は静かで。

まるで何かを見透かされたような気がして、私は誤魔化すように笑った。



『だって、かわいいでしょう?』



そう言うと、アレクシアス様は目を細めて笑った。



「えぇ、とても」



そう、優しく答えた。

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