【ミルーナの整備日誌 01】:迷い猫と猿の帰還
◆ 整備日誌
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第4C・2S・5日目
[本日の業務]
受注区分: 第05ドックからの下請け
内容 :精密基盤のナノ洗浄
期限 :第4C・2S・6日目
進捗 :完了。バイパス処理もついでに最適化しといた。
特記 :期日は明日。それまではのんびり、ジャンク漁りの時間に充てる。エナドリの在庫が尽きかけてるから、明日は、第12区画まで買い出しに行くこと、最重要事項!アルトから、『4日後に帰港予定』と入電。それまでに割りのいい仕事を受注するか検討。
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第4サイクル・第2セグ・6日目
[本日の業務]
受注区分: 第05ドックからの下請け
内容 :精密基盤の納品作業
進捗 :納品完了
特記 :ジャンク漁りに熱中しすぎた。おかげで納品時間ギリギリ。05ドックの連中、何かとうるさいから、遅れなくてよかった。
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「よし、今日の日誌の書き込みはここまで。」
ポンとキーを叩いて、端末の画面を閉じた。
ここは、辺境衛星拠点『ラストストップ』。全65ドックの中でも、下層に位置する第44ドック。――ウチの城であり、工房だ。
探索士どもの船のハードからソフトまで、ひとりで何でもござれの整備士をやっている。謙遜抜きに言わせてもらえば、上層の一桁台ドックから勧誘の声がかかるくらいの凄腕だよ。
3セグぶりに探索船 『テラ・レトログラード号』が帰ってくる。
孤児だったウチを拾って、一人前の整備士に育ててくれた爺ちゃんと一緒に、心血をそそいで修理した船だ。嘘か、本当かわからないけど、『旧帝国よりも古い時代から使われている』なんていう、胡散臭い伝説付きの化石みたいな船だけどね。
アルトとは、そんな天塩をかけた船をあいつが買いとった頃からの腐れ縁だ。
「レトログラードちゃんが戻るまで、次の仕事でも選んでようかね。……お、07ドックの仕事。割りがいいかも。」
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辺境衛星拠点『ラストストップ』。
そこは、ゴミ捨て場宙域へと挑む者たちが最後に立ち寄る都市型衛星宇宙港だ。
元々は小さな修理ドック船が寄り集まっただけの場所だったが、この宙域の探査の加速に伴う増改築が行われ、さらに大国や民間大企業までが出資するほどの規模になった。今や無数のモジュールを飲み込み、統一性のない外装パネルやドックの骨組みが無骨に剥き出しとなった、継ぎ接ぎだらけの要塞衛星へと肥大化している。宇宙空間に突如として現れるその巨大で歪な姿は、外から見る限りでは不気味な鉄の塊でしかない。しかし、その無機質な装甲の内側には、人々の欲望と熱気が渦巻く巨大な生活圏が隠されている。
中央を貫く真空チューブ列車を大動脈として、施設は三つのセクターで構成されている。最上層を占めるのは、大企業や管理組織の中枢ユニット。続くは、居住用ハブのほか、部品・食料の売買所や娯楽場がひしめき合う生活圏の中層。そして下層。複雑に入り組んだ修理ドック船群と膨大な物資集積所が、この巨大構造物の底を支えている。
探査士のチームから犯罪者、果ては海賊までもが身を潜めるこの場所は、特定の国家に属さない中立地帯だ。かつて頻発した無法な奪い合いを抑制するため、各国共同で設立された独立組織『辺境探査保安局』の睨みによって、現在ではかろうじて秩序が保たれている。
アルトからの帰港連絡を受け、ミルーナが第44ドックの機材を調整していると、コンソールから着信アラートが響いた。
「はいはい。今出ますよっと。」
回線を繋ぐと、管制官がモニターに映し出された。
「こちら、辺境探索保安局、ラストストップ管制。第44ドックに通告。……テラ・レトログラード号、アプローチを開始した。入港予定時刻まであと300秒。ハッチの開放を許可する」
「はーい。こちら、第44ドックのミルーナ。許可確認。ハッチオープンするよ。連絡あんがと。」
ミルーナは端末を操作して、ドックのシステムを待機モードから入港シークエンスの受入モードへと切り替えた。
「……ミルーナ。あのバカが、また騒ぎを起こさないように厳重に管理してください。」
「あはは、努力します。努力はね。」
通信を切ると同時に、ドックの気密ハッチが重々しい音を立てて開き、漆黒の宇宙が顔を出した。その闇から、テラ・レトログラード号が、ゆっくりとドック内へと滑り込んでくる。
「うん、今回は無事そう……かな?」
窓越しに船体を目視しながら、ミルーナはドック内の与圧を開始した。気密完了のアラートを確認し、ミルーナは端末と整備用の道具を持ち、船のエアロックへと向かった。
「おかえり」と声をかけようとした瞬間、そこからトテトテと勢いよく飛び出してきた影があった。
銀髪のボブヘア。琥珀色の瞳。どこか古めかしい、手術着のような簡素な服を纏った少女。
「……アっ、アルト!?その子は?どっ、どこから誘拐してきたのーー?」
ドック内に、ミルーナの悲鳴に近い絶叫がこだました。
その声を聞いた少女は、驚いたように一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに表情を怯える無垢な少女へと完璧に切り替えた。
「……私は……暗いポッドで眠っていたところを、この凶暴な猿に、引きずり出されました。私の拒絶を無視し、乱暴に抱え上げられ、誘拐されてきたのです。助けてください!!私の身代金は300万ガラクタだそうです!」
「身代金!? 300万ガラクタぁ!?」
ミルーナの顔から血の気が引き、震える手で即座に保安課へのホットラインを繋いだ。
「保安課!?もしもし保安課!第44ドックで緊急事態!……ついに借金苦で耐えかねたアルトが、少女を誘拐してしまいました!!!!!ウチの躾が……ウチの躾が悪かったんですーー!」
「待て、待て、待て、違う。誤解だ! こいつ、口を開けば嘘を!!」
これが、凄腕整備士ミルーナと毒舌アンドロイド・ノアの記念すべき初接触であった。
[補足]
整備日誌でつけられてる暦について。
惑星ごとの自転・公転周期の違い、他にも相対的な時間のズレで銀河全域で物理的に時間を合わすことはできないので「絶対的な基準時間」を作成。地球の時間をベースに、旧帝国時代に制定されたという設定。
<テラ基準軸>
1日 = 24時間
1セグ = 7日 (※旧暦の「週」に相当)
1サイクル = 7セグ / 49日 (※旧暦の「月」に相当)
1年 = 7サイクル / 343日
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お読みいただきありがとうございます。
ひまつぶしに一つにでもなってもらえたらと思います。
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