表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄の城、黄金の土台(いしずえ)  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/21

第九話:地底の激突、沈黙の解体

第九話:地底の激突、沈黙の解体

昭和四十四年、冬。

地上では万博のプレイベントが華やかに開催され、未来への讃歌が鳴り響いていた。しかし、熱田の地下五十メートル、漆黒の地底では、それとは正反対の「鉄と土の戦争」が幕を開けようとしていた。

進が操る動力甲冑『桔梗』は、暗闇の中で青白い燐光を放っていた。島田が設計し、進が組み上げたその機体は、無骨な織田の機体とは一線を画す。装甲は流線型を描き、四肢には油圧と電子制御を融合させた高感度センサーが埋め込まれている。

「……感度良好。土質、粘土混じりの礫層。硬度、想定内だ」

進の脳内には、神経接続を通じて地層の軋みが直接流れ込んでくる。桔梗は単なる機械ではない。進にとっては、失われた父の体温を奪還するための、新しい「肉体」だった。

暗闇の警告

「進、止まれ! 前方、四十メートル。異常な振動を感知した!」

通信機越しに、健太の焦った声が響く。地上で音響解析を行っていた健太が、織田重工の防衛ラインに異変を感じ取ったのだ。

その瞬間、桔梗のセンサーが真っ赤に点灯した。

正面の土壁が突如として爆発し、巨大な鉄の塊が飛び出してきた。

「見つけたぞ、ネズミめ。織田の庭を荒らす不届き者は貴様か!」

土煙の中から現れたのは、織田重工が誇る地下哨戒用甲冑**『土蜘蛛つちぐも』**。

四本の多脚を持ち、全身に削岩用ドリルと火炎放射器を備えた、地底の殺し屋だ。コックピットに座るのは、あの九年前の事件で父を撃った佐々木大尉……今は織田重工の保安局長となった男だった。

地底の格闘

「佐々木……貴様か!」

進の心臓が激しく脈打つ。憎しみが神経を伝い、桔梗の出力が跳ね上がった。

『土蜘蛛』が四本の脚を壁に食い込ませ、凄まじい速度で突進してくる。狭いトンネル内では回避は困難だ。佐々木はドリルを回転させ、桔梗の胸部を狙い撃つ。

「正一さん、辰さん! 下がってろ! こいつは俺がやる!」

進は桔梗の右腕を突き出した。だが、それは殴るためではない。

桔梗の掌には、建築現場で使用される超音波破砕装置が内蔵されている。進はあえてドリルの直撃を受ける寸前、相手の駆動部に向けて超音波を一点集中させた。

キィィィィィィィン!

鼓膜を突き刺すような高周波音が、閉鎖空間に反響する。『土蜘蛛』のベアリングが共振を起こし、火花を散らして硬直した。

「なんだと!? 動きが止まった……!?」

「あんたたちは『壊す』ことしか知らない。だが、俺たちは『構造』を知っている!」

進は桔梗の脚部ブースターを噴射し、一気に間合いを詰めた。建築科で学んだ力学の知識が、進に敵の「重心の崩し方」を教える。

進は桔梗の腕で『土蜘蛛』の多脚の一本を掴み、支点として利用した。テコの原理を応用し、数トンある敵の巨体を壁面に叩きつける。

解体屋の意地

「小癪な! 貴様のような泥棒に何ができる!」

佐々木は叫び、火炎放射器を起動した。トンネル内が一瞬にして紅蓮の炎に包まれる。酸素が急速に失われ、桔梗の内部温度が上昇する。

「進! 逃げろ! 酸素欠乏で意識を失うぞ!」

辰造の怒鳴り声が通信機に響く。

だが、進は冷静だった。彼はこの地層の特性を知っていた。

「辰さん、あそこだ。さっき掘り当てた『地下水脈の蓋』を壊す!」

進は桔梗の左腕を地面へと突き立てた。地層の強度が最も弱い一点――建築計算上で導き出した「地盤の急所」へ向かって、全出力を込めた打撃を放つ。

ドォォォォォォォン!

激震が走り、地層が割れた。

そこから、高圧の冷水が凄まじい勢いで噴き出した。炎は一瞬にして消し止められ、激しい水蒸気が立ち込める。急激な温度変化により、『土蜘蛛』の特殊合金装甲に無数のクラック(亀裂)が入った。

「馬鹿な……自然の力まで利用するというのか……!」

「これが、明智建設の工法だ」

進は水煙の中から、桔梗のドリルを展開した。それは削岩用ではない。島田が設計した、物質の分子結合を弱める「高周波振動ドリル」だ。

進は、父を殺した佐々木のコックピットを狙わなかった。代わりに、その『土蜘蛛』の四肢の付け根、構造上の全荷重がかかる「ボルト一本」の位置を正確に貫いた。

沈黙の果て

ガシャン!

音を立てて、『土蜘蛛』の脚が次々と脱落していく。巨体は泥水の中に崩れ落ち、二度と動くことはなかった。

進は桔梗から降り、泥にまみれながら佐々木のコックピットに歩み寄った。

ハッチをこじ開けると、そこには衝撃で意識を失った佐々木の姿があった。

「……殺すのは簡単だ。だが、あんたにはまだ、吐いてもらわなきゃならないことがある」

進の背後では、正一と辰造が、崩れかけたトンネルを補強するために手際よく支保工しほこうを組み立てていた。

「進、やったな。織田の精鋭を、たった一台の『重機』で沈めちまった」

辰造が感極まった声で言う。

しかし、進は熱田神宮のさらに奥深く、織田重工が隠匿する「心臓部」を見つめていた。

そこには、九年前から続く黄金の因縁、そして織田信長が築き上げようとしている「鉄の帝国」の正体が眠っている。

「まだ終わっちゃいない。これは、ほんの『準備工事』だ」

昭和四十四年、地底の戦い。

勝利したのは、最新兵器を誇る軍でも巨大資本でもなかった。

泥を食らい、鉄を学び、構造のことわりを知る「解体屋」たちの執念だった。

暗いトンネルの先には、織田の秘密要塞から漏れる黄金色の光が、かすかに差し込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ