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鉄の城、黄金の土台(いしずえ)  作者: 水前寺鯉太郎


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第十話:深淵の再会、亡霊の告白

第十話:深淵の再会、亡霊の告白

昭和四十四年。熱田神宮の地下深くに築かれた、織田重工の心臓部。

そこは、地上の喧騒が嘘のように静まり返った、無機質な鋼鉄の迷宮だった。進たちは、撃破した『土蜘蛛』から奪った認証キーを使い、さらに深層へと足を踏み入れた。

「……なんだ、ここは。病院か? それとも監獄か?」

辰造が、壁一面に並ぶ強化ガラスの小窓を覗き込みながら、忌々しそうに吐き捨てた。そこには、白い病衣を着せられた人々が、無数のチューブに繋がれたまま深い眠りについていた。その多くは、三年前の「豊田惨劇」で行方不明になった労働者や学生たちだった。

「進、こっちだ! バイタル反応がある!」

健太の指し示す先、最深部の特別隔離室。

重いハッチを開けた進の目に飛び込んできたのは、変わり果てた恩師、島田の姿だった。

繋がれた知性

島田は、巨大な電子計算機と複雑な回路網に、その肉体を「統合」されていた。彼のうなじからは無数の光ファイバーが伸び、織田重工のメインシステムへと直結されている。

「先生……! 島田先生!」

進が駆け寄り、その肩を揺さぶる。

島田の瞼が痙攣するように動き、ゆっくりと開かれた。だが、その瞳に宿っていた理知の光は、濁った電子信号の点滅に侵食されていた。

「……進……か? 来て……しまったのだな……地獄の、底まで……」

島田の声は、スピーカーから出力される合成音声のように冷たく響いた。島田は、自身の脳を織田重工の動力甲冑制御システム『天魔てんま』のOSとして利用されていたのだ。

「先生、今すぐここから助け出します。健太、この接続を切れ!」

「待て、進……。切っては……いけない。この回路が……私の生命維持装置……そのものだ。そして……織田の野望を止めるための……唯一の、鍵でもある」

黄金の正体

島田は苦痛に顔を歪めながら、脳内に直接流れ込むデータを、進の持つ端末へと転送し始めた。

そこに記されていたのは、九年前、父・源造が命を落としたあの「金塊」の驚くべき真実だった。

「進……あの金塊は……ただの黄金ではない。かつて、この地を統治していた者たちが遺した……『高密度エネルギー結晶』……現代の核エネルギーをも凌駕する、失われた技術の結晶だ……」

織田信長は、その「黄金」を燃料として、単なる兵器ではない、この国を根底から作り変えるための「完全自動化動力甲冑軍団」を構築しようとしていた。

「織田は……人間を信じていない。彼は、感情を持たぬ鋼鉄の秩序で……この国を、統一し直すつもりだ。……進……君の父上が……殺されたのは、偶然ではない……。あの結晶の……特性を知る……尾張建設の熟練作業員……彼らの『勘』が、織田には邪魔だったのだ……」

解体屋の誇り

進の拳が、血が滲むほどに握りしめられた。

父は、単に金に目がくらんだ権力者の犠牲になったのではない。

泥と向き合い、土地を愛し、構造を知る「現場の誇り」を持っていたからこそ、合理化と支配を求める織田にとって排除すべき対象だったのだ。

「先生……俺は、あんたも、父ちゃんの誇りも、全部連れて帰る」

「……無理だ、進。……私の脳はもう、システムの八割を……乗っ取られている。だが……最後に一つだけ、教え子のために……宿題を出そう」

島田の瞳に、一瞬だけ、あの理科準備室にいた頃の鋭い光が戻った。

「この要塞『安土』の……構造的弱点……。それは、この中央指令室の……真上にある……熱田の断層だ。……君の桔梗なら……その急所を……叩けるはずだ……。この城を……文字通り……解体しろ……」

「先生!」

「行け……進! 建築家が……最後に成すべきは……再建のための……破壊だ!」

島田の絶叫と共に、要塞全域にアラートが鳴り響いた。

モニターには、漆黒の新型動力甲冑を駆り、自ら迎撃に向かう織田信長の姿が映し出されていた。

「明智進……貴様の『基礎』と、私の『天下』、どちらが硬いか試してやろう」

昭和四十四年、地底。

師との再会は、最期の別れの序曲となった。

進は涙を拭い、桔梗の操縦桿を握り直した。

背後では、辰造、正一、健太が、それぞれの「解体用具」を構え、主人の出陣を待っていた。

明智建設、最終工程。

織田重工・地下要塞「安土」の、全解体工事が始まった。

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